11話 魔法練習
「うにゅぅ」
「わふぅ」
シロとクロが、マットの上で微睡んでいる。それを見ながら、俺は今後のことを考えていた。
2人を今後とも保護し、育てていくのは決定事項だ。誰が何と言おうとシロクロは俺が育てて見せる!
真面目な話、ここで放り出しても奴隷ルート一直線だろう。俺と一緒に下水暮らしするのが、奴隷よりマシかどうかは分からんけど……。
こっちの方がよかったと言ってもらえるように、頑張るつもりだ。
ならば、より一層の力が必要だった。俺が強くなることも、2人を強くすることも必要だろう。食材を得るにしても、生き延びるにしても。
俺に武器の使い方は教えてやれない。できるのは魔法の指導と、食事の用意くらいである。
特に魔法だな。教会に高額のお布施なんぞ払えないので、得意な属性を調べることはできない。そもそも、教会の場所も知らないし。
となると、地道に基礎の魔法を教えて、覚えがいい魔法を探っていくしかないだろう。ただ、それも難しくはないと思う。
食材などの魔力の濃さを調べる術でシロとクロを見たのだが、2人ともかなり強い魔力を宿していた。もしかしたら、種族的に魔力が高いのかもしれない。
そりゃあ、奴隷商人が血眼になって追いかけまわすわけだ。
「明日から忙しくなりそうだな」
翌朝、すっかり体調が回復し、ガッツリ朝食を食べたシロとクロが、俺に何か言いたそうな顔をしていた。
「あのね、トールは、魔法使いなのです?」
「あれー」
シロクロが指差したのは、魔導燭台だ。他にも、目の前で食材出したりもしたし解毒もしてやったからな。
「まあ、一応ね」
「すごいです!」
「クロも使ってみたい」
目をキラキラさせている。魔法の世界の住人でも、魔法に憧れがあるみたいだ。
「多分、2人もすぐに使えるようになると思うぞ」
「え? ほんとです? シロにも魔法使えるのですか?」
「シロずるい。クロもー」
早速訓練を始めてみるのもいいだろう。子供の2人に魔法の勉強は難しそうだと思っていたが、やる気があるなら話は早い。
「じゃあ、簡単な魔法を教えてやるよ」
「はいです!」
「うん」
2人でも使えそうな、初級の魔法をいくつかピックアップする。
「どれがいいか。とりあえず、身を守れるような奴がいいよな」
「シロかっこいいのがよいです!」
「クロは強いのー」
「はいはい、そういうのはもっと上達したらな」
とりあえず、着火、微風、水滴、土操の4種を教えてみようかな。
奴隷商人から身を隠すため、最低でもあと5日間は2人をこの部屋から出すつもりはない。その間を魔法の修行に充てよう。その間の食料は、俺が探すしかないだろうけど。
「じゃあ、まずは魔力を感じるところからだな。手を前にかざしてみろ」
「あい!」
「ほいー」
「そんで、集中だ。体の中の魔力を、掌に集中させるんだ」
「魔力?」
「よくわからない」
俺はチートで魔法をもらえてしまったので、簡単に魔力を感じることはできた。だが、2人はそうも行かないみたいだ。
魔力は持っているので、不可能ではないはずなんだが……。
「見てろよ」
「トール光ってるです!」
「これが魔力ー?」
「そうだ」
「ふわー。あったかい」
「きもちー」
「この感じを覚えるんだ」
俺は自分で褒めてあげたいくらい、根気強く2人に教え続けた。幼いながらも、彼女らは良く頑張ったと思う。憧れの魔法を習っているということで、集中力が持続したのだろう。
2時間もすると、魔力を感じ取れるようになっていた。俺は妙に疲れちゃったけどね!
「次は、詠唱だな」
むしろ、こっちが難しいかもしれない。何せ4歳だ。多少成長速度が早いとはいえ、こういった勉強チックなことが得意そうには見えないし。
案の定、シロクロは2時間以上たっても、呪文を空で唱えることができなかった。
「風よ、我が意にこにゃにゅにゃにゃにゃーっ!」
「シロかっこ悪い。クロはもう大丈夫。土にょ……!」
「にゃーっ!」
「わうっ!」
文言自体は短いので、覚えること自体は難しくない。だが、噛みまくりだった。
「かぜにょ!」
「土よ、わがいにきょちゃえ」
さらに2時間。シロたちは頑張った。その甲斐あってか、2人は何とか初級呪文をものにしていた。
「風よ、我が意に応えて吹け! 微風!」
「土よ、わが意にこたえてうごけ。土操ー」
そうして調子に乗って魔法を使いまくった結果。
「うにぅ、なんかダルいです」
「わう、クロも~」
「それは魔力切れ寸前の症状だな」
かなりダルイだろうが、俺は2人に毎日魔法を使わせることにした。
少しでも術を多く使い、魔法の腕前を上げるためだ。上手くなれば、詠唱も短く済むし。
「そのまま寝てていいぞ」
「うん」
「はいー」
スヤスヤと眠り始めた2人は満足げな表情だった。




