表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/143

109話 傭兵団の子どもたち


 自分たちよりも年下に見える俺が偉そうに話しかけてきたことで、混乱した様子の少年たち。


 ただ、俺の態度で、実年齢は見た目より上だと勘違いしてくれたようだ。まあ、そうなるように、あえて大人っぽく声をかけたんだが。


「助かったよ。あんがとな」


 一番年上に見える少年が礼を言ってくる。多分、10歳くらいだろう。シロとクロよりもちょっと下くらいに見えた。盾役だったのに吹き飛ばされてしまった少年だ。


 起き上がる動きにも違和感はないし、最後の麻痺毒はほとんど吸い込んでいないようだ。これなら何もせずとも大丈夫だろう。


「君たちは、なんでこんなところにいるんだ?」

「それは、その……」


 俺の質問に言いよどむ少年。こりゃあ、何か事情がありそうだな。


 俺が黙って続きを待っていると、リーダーの少年――ライアンが事情を語り出す。


 なんと、彼らは村にとどまっているオルヴァン傭兵団の一員であった。構成員の息子や、戦場で拾われた孤児など、12歳未満の子どもが10人ほどいるらしい。


 見習い扱いで、傭兵としての仕事はほとんどさせてもらえないそうだ。当然ながら、迷宮探索を子どもたちだけで行うなんて許されてはいない。


 ではなぜ子供たちがこんなところにいるのかというと――。


「迷宮に興味があって……」

「簡単な迷宮だって話だったし……」

「鍛えてるから、どうにかなると思って……」


 少年らの無鉄砲に、少女たちが巻き込まれたという感じらしい。


 大人からは絶対に立ち入るなと言われていたが、押さえつけられれば反発するのがクソガキというものだ。酔っぱらった傭兵たちにからかい半分に死ぬぞと脅され、逆にやる気が燃え上がってしまったのだろう。


「魔獣を倒して持って帰れば、みんなを見返せると思って……」

「馬鹿にしたおっちゃんたちを驚かせてやるんだ!」


 それで死にかけてりゃ世話ないぞ? まあ、注意して意固地になられても困るから、曖昧に頷くことしかできんが。どう考えてもやんちゃ坊主たちだし、出会ったばかりの人間に指摘されたら絶対に反発するじゃん?


 できればこのまま地上へと連れて帰ってやりたい。小さい子もいるわけだしね。混乱している内にここから連れ出すのだ。


 ただ、俺の思惑はあっという間に覆されてしまう。


「お前らだけじゃ死んじゃうです!」

「無茶は死あるのみー」

「その子たち巻き込まれるところだったです!」

「いかんよきみたちー」


 シロとクロが普通に少年たちを注意し始めたのだ。しかも、メッチャ上から目線! 誰かを注意できる場面なんて珍しいし、明らかに調子に乗っている。


 これは少年たちも怒り出すかなと思ったら、彼らは肩を落としてシュンとした様子だ。どうやら、俺が思っていたよりも素直な子たちだったらしい。


「簡単な迷宮だって聞いたから……」

「イーリア、トム、大丈夫か?」

「すまん」


 イーリアという少女はやはり魔法師だったが、迷宮探索には反対だったようだ。しかし、無鉄砲な少年たちだけでは危険だと判断して、仕方なくついてきたらしい。


 一番小さい9歳のトムは、置いていくと泣きじゃくるので連れてくるしかなかったそうだ。少し小柄でもっと年下に見えるが、一応戦う訓練は積んでいるという。


 今も半泣きの状態で俺たちを警戒するように見ているし、性格的な部分で戦闘に向いていないようだが。


 死を身近に感じて反省している少年たちを連れて、俺たちは来た道を引き返す。


 道中で彼らからオルヴァン傭兵団の話を色々聞き出せたが、思っていたよりも真っ当そうだった。


 奴隷同然の扱いなのかと勝手に想像していたが、小遣いや休日もしっかりあるらしい。日々の訓練や雑用は厳しいものの、その分食事も寝床もちゃんと与えられ、文字などを教えてもらってもいた。


 丁稚や小間使いではなく、将来的な傭兵仲間として育てられているのは間違いない。特にライアン少年は捨て子だったところを拾ってもらったことで、非常にクランに対する想いが強いようだ。


 そのせいで、早く役に立つようになりたいと暴走してしまったのだろうが。


「なあ、そっちの人はともかく、姉ちゃんたちは俺らとそんな歳変わらないだろ? どうやってあんな強くなったんだ?」

「あの魔法すごいな!」

「かっこよかった!」

「わ、私も知りたいです!」


 俺は子供か大人か良く分からない変な相手って感じなのだろうが、シロとクロのことはちょっと年上の凄く強くて可愛いお姉さんに見えているのだろう。しかも、助けてくれた上に、お説教もしてくれた。


 なんやかんやで、懐かれたらしい。


「修行あるのみです!」

「めーきゅーでしゅぎょー」

「やっぱそうなのか……」


 あ、これはヤバい! 子供たちがまた迷宮に突撃しちゃうパターンじゃんか!


「いや、迷宮でも修業したけど、ちゃんと地上で基礎を身に付けてからだからな?」

「そうなのか……ですか?」

「ああ、魔法をしっかり使えるようになってから迷宮に潜ったんだ」


 本当はもっといろいろな無茶したけどね。子供たちには基礎訓練の必要性をしっかり説いておいた。微妙な表情だったけど、シロとクロも頷いていたから多少は理解してくれたのではなかろうか?


 歩いていると少年たちの緊張も解けてきて、雑談も弾み始めた。迷宮はやっぱり稼ぎが悪そうだし、村の周辺で薬草探した方がいいかもとか言っている。子供故なのか、もう死にかけたことを忘れ始めているようだ。


 これは、別れる前にしっかり釘を刺しておかないとまた無茶しそうだな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これは頼りになる傭兵団とのコネが出来るか?
良い傭兵団だね。 しかし謎が多いなー。転移者のヤンキーと女、食べられる美味しいキノコがいっぱいのはずが毒キノコばかり。
傭兵団の子供だったのか。 無茶をした事を後で大人たちに謝らないと。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ