108話 子供たち
突如出現した、真っ赤な傘の巨大キノコ。ですが、残念なお知らせです。
「あのキノコ、食べられないみたいだぞ?」
「!」
「!」
俺の言葉に愕然とした表情を浮かべるシロとクロ。そんな顔で俺を見ても、結果は変わらんぞ。
あれは暴れキノコという魔獣だ。名前の通り、一度動き出すと大暴れして手に負えないパワーファイター系の魔獣である。それでいて毒性を持った胞子を撒き散らすこともあるのだから、かなり厄介な敵と言えるだろう。
同じ名前でも何十種類もの亜種が存在する魔獣だが、あれはその中でも食用に向かない種類である。
強力な毒を持ち、火を通した程度では消えないのだ。しかも、魔法で毒抜きをすると溶けて消えてしまう。
この迷宮に生えている毒キノコと同じ種類なんだろう。もしかして、普通のキノコが何らかの要因で魔獣化するのか?
「毒を散布することがあるらしい、魔法使って速攻で倒すぞ」
「やったるです!」
「クロたちの期待を裏切った罪をつぐなえー」
君らが勝手に期待してただけでしょうが! 理不尽!
俺がクロの言葉に戦慄していると、勝負は一瞬で終わっていた。クロの闇魔法とシロの風魔法が赤いキノコの傘に大きな穴をあけ、反撃すら許さなかったのだ。
ドサリと倒れ込む巨大キノコ。動いてはいないが、本当に死んでいるか?
ゆっくり近づいて、収納を試みる。保存庫に仕舞い込むことができたので、しっかりと倒せたらしい。
血が出たりするわけじゃないから、一見すると絶命したかどうか分かりにくいんだよね。しかし、弱かったな。接近戦ではかなりタフだっていう情報があるんだが、魔法に対してはかなり弱いらしい。
キノコを倒した俺たちは、再び迷宮を進む。ただ、その歩みは今までよりも数段遅くなっていた。
魔獣を警戒しながら進んでいるせいではない。新エリアに足を踏み入れたことで罠が出現し始めたのだ。
しかも、槍が仕掛けられた落とし穴など、結構凶悪な罠である。
暴れキノコといい、罠といい、突然難易度が上がったな。新しい迷宮とは言え、深く潜ればやはり危険があるってことなのだろう。
そんなことを考えていたら、シロが罠を発見したようだった。足を止めて、通路を観察している。
「罠か?」
「にゃ! 間違いないです。壁の中に魔力の流れがあるです」
「どこだ?」
「そこです! とう!」
「おー、シロすごいー」
シロが風魔法を壁にぶつけると、天井から5本の槍が飛び出した。床と激しくぶつかって甲高い音を立てたかと思うと、すぐに天井へと戻っていく。
壁に手を付いたら、発動する罠だ。まあ、さっきの落とし穴も、この壁も、よく見たら俺でも分かるくらい目立つ。そう言う意味では、威力は高くとも難易度は低いんだろう。
「む?」
「どうしたクロ?」
「そっちから人の声する」
「なに?」
罠を警戒しながら進んでいくと、分かれ道でクロが耳をピクピクと動かした。そして、左側を見ながら声が聞こえると言い出す。
俺も耳を澄ませてみたが、分からんな。だが、シロも声を聞き取ったらしい。
「子供の声です?」
「うん」
「子供の声? 迷宮で……?」
人間の声を模すことで獲物を誘き寄せるタイプの魔獣もいるらしいから、それか? でも、本当に子供だった場合、一応無事を確認しておく方がいいだろう。
若くして傭兵家業に身をやつす者も多いから、子供=保護対象ってわけじゃないけどな。
そのままクロに案内してもらいながら進むと、その先には本当に子どもたちがいた。そう、1人じゃなく、5人の子供が一緒に行動していたのだ。
しかも、絶賛大ピンチである。
「くそ! イーリアを守れ!」
「うわぁぁぁん!」
黒い暴れキノコと戦闘中なのだが、すでに少女が床に倒れて動かない。それに縋りついて号泣するのは、気弱そうな8歳くらいの少年だ。
残り3人の少年たちも、暴れキノコに決定打を与えることはできないようだった。剣と槍で攻撃していても、全く効いた様子がない。
しかも、盾役の少年がキノコの体当たりで吹き飛ばされてしまった。これはヤバそうだ。
「2人はキノコを倒せ!」
「にゃ!」
「わう」
あっちはシロとクロに任せておけばいい。俺は戦闘には加わらず、倒れている少女の下へと向かった。
意識はないが、胸は上下している。死んではいないらしい。俺はポーションを口元へと運びつつ、密かに回復魔法を使った。
背中に手を押し当て、魔力の光が見えないように魔法を内部へと流しこむ。
結構魔力を持っていかれたってことは、かなりのダメージだったってことだ。内部が損傷していたんだろう。
少女に縋りついていた子供はまだ号泣しているし、多分状況が全く分かっていないんだろう。
暴れキノコ・黒のほうも、シロたちの魔法で仕留められている。
少年たちに大きな怪我はないかな?
ただ、周辺には黒い胞子が僅かに漂っている。これは麻痺毒であるはずだ。風魔法で胞子を吹き散らして、少年たちの様子を見る。
「君たち、体は大丈夫か?」
「え? あ、ああ」
「助かった……」
「なんで、子供……?」
俺のような子供が偉そうに話しかけてきたことで、少年たちは混乱しているな。自分たちだって子供だろうに。
まあ、毒の影響は少なそうでよかった。




