107話 連続型
村に辿り着いた翌日。俺たちは早速迷宮へと足を踏み入れていた。魔力もほとんど感じないし、魔獣の気配もない。
こちらの迷宮の方が狭いのに、エルンストの迷宮ほどの圧迫感もなかった。魔力が薄いせいだろう。
魔力が薄いということは魔獣の数も少ないということで、200メートルほど続く洞窟エリアでは本当にミニスライム数匹としか出会わなかった。
スライムの核もグミ程度のサイズしかなく、こいつを食料にするのは難しそうだ。まあ、メインターゲットはキノコだからね。さほど残念でもないのだ。
狭く歩きづらい洞窟を抜けると、ようやく天井も通路も広い場所へと出た。天井は2メートルを超え、道幅も急に3メートルほどまで広がっている。
前情報通り、壁の岩盤に埋もれるように建造物の柱が顔を覗かせているな。地面にも、石造りのタイルのようなものが敷かれている箇所がある。
そして、光源もないのに明るいのだ。間違いなく、迷宮であろう。エルンストの遺跡エリアよりは暗いが、20メートルくらい先までは見通せた。
これなら十分戦える。見えないせいで奇襲を受けるってこともないだろう。
「久しぶりの迷宮だ。出来立てって話だが、油断するなよ」
「にゃう!」
「わう」
迷宮探索時には定番になりつつある、シロ、俺、クロの順番で並ぶフォーメーションで進んでいく。罠を見破れる竜眼を持つシロが先頭で、匂いなどの感覚が優れたクロが背後からの奇襲警戒役だ。
俺はいざという時に前後どちらにも援護に入れる真ん中である。決して、2人に比べて鈍いうえ、体も小さい俺が守られているわけじゃないのだ。
いや、まあ、それもあるんだけどさ! 回復魔法を持つ俺が真ん中の方が色々と便利っていうのも本当だから!
「わう! キノコです!」
「あっちにもー」
「お、さっそくか!」
遺跡エリアには、そこそこ大きいキノコが生えていた。しかも、結構な種類があるのだ。少し広くなっている小部屋のような場所だけで、6種類ものキノコを発見できた。
まあ、全部毒キノコだったが。しかも、食用にできないのは解毒しても変わらない。
どうも、毒がキノコにとっては重要な構成物であるらしく、解毒するとグズグズに溶けて消えてしまうのである。
そうなると味も臭いも最悪になってしまい、どうやっても再利用はできなかった。
入り口付近だし、この辺の食用キノコは取り尽くされているのだろう。
「もう少し奥へと行くか」
「絶対に美味しいキノコ手に入れるです!」
「今日はキノコパーリー」
キノコがゲットできなかったことで、むしろ火が付いたらしい。2人の目がギラリと輝きを放つ。
そこからさらに迷宮内を歩き回ったが、遺跡エリアは中々広かった。罠も魔獣も少ないが、とにかく複雑な構造をしている。
数メートルごとに分岐があり、時には上り、時には下らねばならない。通路が上下で交差したりもしているようで、地図を描くのが非常に面倒なのだ。
傭兵がギルドに地図を提出していないのは、苦労して描いた地図を他の奴らが楽に使うのが許せないのかもしれないな。正直、俺も自作の地図を二束三文で提出する気になれんし。
目当てのキノコも、十分に収穫できているとは言えない。どこへいっても毒キノコばかりなのだ。
黒髪の少女は、どうやって大量のキノコをゲットしているんだろうな? そういう特殊な能力でもあるのか?
ステータスやスキルはない世界だが、チーターって言うくらいなのだ。スキルみたいな特殊な能力を手に入れている可能性もある。それがキノコ発見能力っていうのはさすがにないとは思うんだが……。
まあ、本当に転移者なのであれば、特殊な知識を神様から与えられているのかもな。
キノコを探しながら歩き回ること約1時間。
俺たちは周辺の雰囲気の変化を感じ取っていた。
「なんか、明るくなってきたー?」
「魔力も強くなってきたです!」
「こっから先は完全に建造物だな……。多分、エリアが切り替わったんだ」
エルンストで仕入れた知識によると、迷宮にはいくつか種類があるらしい。
一番有名な迷宮が、階層型。毒の迷宮みたいな、階段や扉、転移陣で各エリアが分けられ、切り替わりが分かりやすいタイプだな。
危険度で言うと一番ヤバいのが、異界型。迷宮の門を潜ると、一瞬で異世界のようなそれまでとは全く違うフィールドに放り出されるタイプだ。毒が蔓延している場所や、一瞬で全身が火傷するほどの炎に包まれる場所などもあるらしい。
そして、ここがそうだと思われる、連続型。その名の通り全てのエリアが繋がっており、ボスを倒したりしなくとも先のエリアに普通に進めてしまうタイプである。
連続型はボスを倒さずとも奥に進めることが多いため、低ランクの人間でも一攫千金が狙える迷宮だ。それ故、多くの傭兵を引き寄せる。
ただそれは、弱い人間が身の丈に合わぬエリアへと足を踏み入れることができてしまうという意味でもあり、死者は階層型よりも数倍多いとも言われていた。
「こっからはエルンストの深層にいるつもりで、ゆっくりと進むぞ」
「にゃう!」
「りょー」
シロとクロがコクリと頷いた直後であった。
「なんかいるです! キノコ?」
「でっかいキノコ!」
「あれは……なんだ?」
エルスントの中層に似た、遺跡タイプの迷宮の通路。その中央に、俺たちよりも背の高い真っ赤な傘を持ったキノコがドーンと鎮座していた。
「美味しそう!」
「ヤバそうなキノコほどおいしー。あれもきっと美味」
シロ、あんな毒々しいキノコのどこが美味しそうなんだ! クロよ、その知識どこで手に入れた? それ信じてると、いつか痛い目見るやつだからね!
それに、盛り上がっているところに残念なお知らせです。
「あのキノコ、食べられないみたいだぞ?」
「!」
「!」
そ、そんな顔で俺を見られても! 悪いのはあっちだから!




