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105話 出来立ての迷宮


 とりあえず迷宮に潜ってみることにした俺たちは、寝床を確保するために教えてもらった宿に向かって歩く。その道中も、村の雰囲気は明るかった。


 すれ違う村人はみんな笑顔で、俺たちに手を振ってくれたりする。どう見ても歓迎ムードだった。


 村に一軒だけしかないという宿でも、それは同じだ。宿のおばちゃんがニコニコで出迎えてくれる。


「宿泊? 子供だけかい?」

「はい。3人1部屋でいいんですけど、空いてますか?」

「勿論部屋はあるが……」


 傭兵クランが全部占拠してしまっている可能性も考えていたが、大丈夫だった。


 彼らは村はずれの広場に野営地を作り、そこでテント生活をしているらしい。まあ、宿に泊まっていたら採算が取れないんだろうしな。


「じゃあ、これくらいでいいよ」

「え? 安すぎませんか?」

「子供が遠慮するんじゃないよ」

「いや、でも――」


 宿泊料を値引きしだしたおばちゃんに、大丈夫だと言っても聞いてもらえなかった。結局押し切られて、大幅値引きしてもらったのだ。


 しかも、食堂でおやつも出してもらってしまった。初回無料サービスと押し切られちゃったんだよね。


 味はそこそこだが、タダで食べさせてもらって文句は言えん。


 ここは酒場や食堂の役割も兼任しているらしく、地元住民の姿もあった。


 酒を飲みながら談笑している。そして、俺たちに気付くと、グイグイとフレンドリーにつまみや料理をおすそ分けしてくれるのだ。


 その中には、数少ないこの村で活動している傭兵の姿もあった。禿頭に粗末な革鎧、ボロボロの毛皮を腰に巻いたどこの蛮族だっていう感じの姿をしたおじさんである。


 道ですれ違いそうになったらできるだけ距離を取って、最大限警戒するだろう。そんな蛮族傭兵さんも、メッチャフレンドリーだった。


 これは色々と聞き出すチャンスなんじゃないか?


「実はこの村に来たばかりなんです。迷宮の事とか、教えてもらえませんか?」

「お願いします!」

「おねがいー」

「がはははは! いいぞ! 何でも聞け!」


 あざとさ全開にお願いしてみたら、あっさり了承された。情報料代わりにお酒を頼もうかと思ったら、「子供が細かいこと気にするな!」って怒られた。このナリで子供好きなのだろうか?


 善意を利用するようで多少気は引けるが、無理やりお酒を頼んだって受け取ってもらえそうもないしな。今日のところはお世話になっておこう。


「新しく見つかった迷宮って、どんな場所なんですか?」

「入り口が洞窟みたいになっているって話は聞いたか?」

「はい」

「しばらくは洞窟が続くが、その先で少し雰囲気が変わるんだよ」


 迷宮の序盤は、洞窟が200メートルほど続くらしい。ここは罠もなく、出現する魔獣は小型のスライムのみ。そのため、元々村に居た傭兵たちも普通の洞窟と勘違いしたそうだ。


 ただ、そのエリアを抜けると、明らかに雰囲気が変わる。なんと、地面の一部に人工物のような床が混ざり始め、壁に埋め込まれた柱なども見かけるようになるのだ。


 地面に呑み込まれた遺跡のような雰囲気になるってことかな? ただ、それだけでは迷宮とは断言できない。本当に遺跡っていう可能性もあるからな。


 洞窟が迷宮と断定されたのは、遺跡が混ざり始める辺りから洞窟内が微かに光り始めるからだった。


 エルンストの毒の迷宮でもそうだったが、光源がないのに何故か真っ暗闇にはならないのである。その理由こそ、天井や壁の放つ微妙な光であった。


 場所によっては昼のように明るい場合さえある。ここの迷宮も、奥に行けば行くほど明るくなるらしい。


「まあ、俺はそこまで行っただけだから、それ以上詳しいことは知らんけどな」

「魔獣は何が出るんですか?」

「俺が出くわしたのはスライムだけだ。しかも、ちっこくて弱いやつだな。奥では踊り草っていう植物の魔獣が見つかっているらしいが、そんくらいだな」


 エルンストで聞いた出来立ての迷宮の話によく似ているな。規模は小さく、魔獣は雑魚がごく少数。そして、宝や素材は激ショボで、最深部で得られる恩恵も最低限であるという。


「今村にきてるクランの奴らは、出来立てなら攻略しやすいって考えてるみたいだけどな」


 恩恵がショボいといっても、大金を得たり、僅かでも強くしてもらえたりは可能なのだ。攻略が容易なら、狙う価値があるんだろう。


「食べ物あるです?」

「おいしーものはー?」

「食い物か? 魔獣は食えんが、キノコやらは手に入るらしいぜ?」


 食料が手に入るのは悪くないな。


「今入ってきた黒髪の嬢ちゃんいるだろ?」

「え?」


 男性に言われて振り返ると、確かに黒い髪の少女が宿に入ってくるところであった。黒髪黒目の、どう見ても日本人にしか見えない顔立ちをしている。


 背の低い、気弱そうな少女だ。前も後ろも伸ばしっぱなしの黒い髪の毛に、魔女のようなとんがり帽子とローブを身に付けている。後衛職丸わかりの姿だな。


 もしかして、彼女もチーターなのか?


「あの嬢ちゃんが迷宮内で食えるキノコを発見していてな。おかげで最近は食事が美味いんだ」


 彼女が発見したキノコのお陰で、村の食料事情も僅かに改善したという。そのため、傭兵も宿のおばさんも、少女へ向ける瞳は非常に優しい。


 村に馴染んでるらしかった。


 黒髪のヤンキーの仲間なのだろうか?

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― 新着の感想 ―
キノコ…キノコかぁ…胞子出して寄生するキノコっていうのが脳裏を過ぎった。 え? 大丈夫だよね?
ふむぅ、キノコの迷宮(仮)かぁ。食材目当てで潜る必要は出てきた。 木の子、ってくらいだし倒木とかが多い森林エリアでも有るのか。はたまたダンジョン謎パワーで何も無い所からにょきにょき生えているのか。 …
毒迷宮の後だと、どうしても不信感がぬぐえない。 これはきっと、最初に楽な迷宮だと思わせておいて、後から特大の罠で死人が出るパターンと見た。
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