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103話 寒村


 エルンストを出発してから5日。


 俺たちは小さな村を発見していた。エルンストと目的地の町の間には幾つか村があるんだが、ここもそんな中継点の一つだ。


 まあ、長居するつもりはないが。エルンストで集めた情報によると、かなり閉鎖的な村であるらしい。


 特産品などもなく、村人は排他的。村ぐるみで旅人を襲っているという噂があるほどだった。ミレーネも、陰気臭くて喧嘩腰の不愉快な村だったと言っていたし、旅の傭兵も物を盗まれそうになったそうだ。


 子供だけで宿になんて泊まろうもんなら、どんな目に遭うか分からない。ここで一晩過ごすくらいなら、野宿する方がマシなのだ。今日の宿は、次の村で探すつもりだった。


 ただ、食糧や薬類が安ければ買い足してもおきたい。通過しながら、商店を覗くつもりだったのだが――。


「いらっしゃい! コキの村にようこそ! 歓迎するよ!」

「え?」

「どうしたんだい?」


 村の門番が、メッチャ爽やか! 排他的とか陰気って証言、どこいった? どう見ても陽気なんだが!


「えっと、村に入ってもいいですか?」

「もちろん! 大歓迎さ! ゆっくりとしていってくれ!」


 笑顔で俺たちを村に迎え入れてくれるおじさん兵士。この人だけが友好的で、他の村人が陰気なのか?


 シロとクロも俺の事前説明と違い過ぎて、首を傾げているな。


「トール、あの人ぜんぜん悪い人じゃなかったです」

「いいひとー」

「だよなぁ? まあ、もう少し村の中を歩いてみようぜ」


 ここは森林と丘陵の境にある、小さな農村だ。粗末な木の柵で村周辺を囲み、その中で作物を細々と育てている。


 そんな畑で仕事する村人や、巡回する自警団員とすれ違うが、誰もが友好的だ。村の中心部に辿り着いても、人々の様子は変わらなかった。


 商店や民家が集まっていて人も結構多いんだが、皆が朗らかに笑っている。穏やかな様子で談笑し、こちらを見ても嫌な顔一つしない。


 聞いた話と全然違うな。


 もしかして、どこかの村と勘違いしているとか? 知らない間に村を一つ飛ばしてしまったとか?


 地図を思い出しながら混乱していると、不意に大きな怒鳴り声が耳に入ってきた。


「おらおらぁ! 雑魚が粋がってんじゃねぇよ!」

「ぐあぁ!」


 おお! やっぱり情報通り、治安が悪いのか? 何故かちょっとだけ安心してしまった。そのまま声の聞こえた方へ進むと、そこでは不思議な光景が繰り広げられている。


 荒くれ者って感じの男たちが、一人の青年を囲んでいる。険悪な雰囲気で、どう見ても黒髪の青年のピンチなんだが――。


「おらっ! おらぁ!」

「ぐはっ!」

「ごふっ……!」


 青年が男たちに殴りかかり、圧倒していた。男たちもやり返しているんだが、勝負にならない。青年は素早く動いて全ての拳を躱すと、カウンターで1人また1人と男たちを沈めていった。


「おらっ! もう終わりかよ!」


 倒れ伏す男たちに蹴りを入れる青年。トサカのようなリーゼントと相まって、昭和のヤンキーのようだ。


「けっ! 俺様はチーター! 神に選ばれた存在だぞ? こっちの世界の奴らとは格が違うんだよ!」


 え? チーター?


 妙に地球っぽい言葉だが……。それに、神とかこっちの世界とか言ってたし、珍しい黒髪でもある。このヤンキー、転移者なのか?


 アレスがいるわけだし、他にも同じような存在がいるのは不思議じゃないだろう。


 ただ、だとするとテンプレっつーか、典型的すぎんか? なろう小説とかに登場する、噛ませ転生者にしか見えない。散々イキリ倒して周囲に迷惑をかけた挙句、酷い死に方をするヤラレ役だ。


 前世であれだけ転生小説が読まれているんだから、いい加減転生者のイキリムーブが死亡フラグだって理解されていてもいいと思うんだけどな。


 いや、まあ、あのヤンキー君が死ぬとは限らないけどさ。


「もう二度と迷宮で絡んでくるんじゃねぇぞ? 雑魚どもが!」


 今、迷宮って言ったか? この辺に迷宮があるの? そんな情報知らないんだが。エルンストでも情報がないってことは、できたばかりなのだろうか。


 話を聞きたいけど、ヤンキー君にも男たちにも声をかける勇気はない。どっちも輩にしか見えないからね。


「通り抜けるだけのつもりだったけど、少し情報収集をしてみるか。噂とも違ってるみたいだし」

「わかったです!」

「さんせー」


 人がいる方へと向かって歩きながら、考える。チーターっていう言葉が、妙に引っかかっているのだ。転生前ではなく、こっちの世界で聞いた気がする。多分、迷宮の悪意や悪魔との会話の中だと思うんだが……。


 色々と急展開過ぎて、細かいところまで覚えていないんだよな。でも、迷宮の悪意に関係することなら、知っておきたい。どこかでチーターの情報も集めたいところだ。


 仲良くなれば本人たちに聞けるかもしれないが、あのヤンキー君じゃ無理だろう。どう考えても話が合いそうにもないのだ。


「トール! 傭兵ギルドの看板あるです!」

「人の気配するー」


 小さい農村にも、傭兵ギルドがあったか! まあ、エルンストのギルドに比べたら非常に小さいが。普通の一軒家だ。とはいえ、人がいるなら話は聞けるだろう。


 迷宮、黒髪のチーター、村の変化。知りたいことはいくらでもある。ここで情報を得ることができればいいんだが。

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― 新着の感想 ―
更新待ってましたぁ! あ…読むの遅れましたので、楽しんで噛み締めながら読ませていただきます。
再開待ってました! 前に一度「チーター」という言葉が出てきましたねぇ。
 遅れ馳せながら待ってました!!
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