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102話 道中

「うまうまです!」

「うまー」

「やっぱり、調味料とパンが美味しいと何を挟んでもいいな」


 エルンストの町を出て半日。


 俺たちは街道途中の小さな広場で休憩をしていた。湧水が引かれた、馬などを休ませるために整備された場所である。


 こういったところで旅人を狙う盗賊などもいるらしいが、この1年でミレーネによって徹底的に狩られたらしく、エルンスト近辺では被害が激減しているそうだ。


 ミレーネは元々正義感が強いタイプだが、ずっと不本意な状態で領主に雇われ続けていた。しかし、敬愛するジオスに不満の矛先を向ける訳にもいかない。


 そんなミレーネは自由に動けるようになった今、盗賊などの悪党に対して溜まった鬱憤を叩きつけているようだった。そりゃあ、賊も減るだろう。


 道中で傭兵などともすれ違ったが、特に襲われることもなかった。まあ、そこそこいい装備を持った子供だけで町の外を旅している時点で、戦う力があるって分かるしな。


 それに、今の俺たちって貴族の子どもと戦闘力のある従者にも見える。思い付きで襲うには、中々ハードルが高いだろう。


 同じ広場で休憩している傭兵もいるが、やはり襲ってくる気配もない。まあ、俺たちが大量に食べているサンドイッチをガン見しているが。


 あまり裕福そうにも見えないし、ここまで切り詰めてやってきた駆け出し傭兵なんだろう。涎が垂れてるぞ!


 ただ、可哀そうだからと分けてあげる訳にもいかない。このサンドイッチも、俺が作った魔法料理だからだ。


 食べて即座に効果があるわけじゃないけど、俺の能力がバレる可能性はできるだけ排除しなくてはならないからな。


 ミレーネからも、口が酸っぱくなるほど言われているのだ。


 最初、ミレーネたちにも俺の能力は話していなかったが、少し一緒にいれば彼女がお人好しの善人であると分かる。隠しているのも不誠実かと思い、魔法料理についても説明しようとしたのだ。


 俺たちの竜の肉体を説明するためにも、魔法料理のことを知ってもらう必要があったし。


 だが、ミレーネはすぐに俺の口を手で塞ぎ、安易に人に話すなと怒った。


 魔法の中には相手を尋問するための術もあり、どこで情報が洩れるかも分からない。自分たちにも教える必要はないし、今後どれだけ親しくなっても教えてはダメだと、諭されてしまったのだ。


 しかも、竜の力を得ることが可能な料理を作れるなど、確実に国に狙われるという。


「奴隷にされて、一生料理を作り続けるだけの生活など嫌でしょう?」

「は、はい」

「この国の貴族は信用できない者ばかりです。90%クズ、9%普通、1%まとも。それくらいに思っておきなさい。絶対に知られてはいけません」


 ジオスのこともあり、ミレーネは貴族嫌いであるらしい。彼女が盛って話しているとしても、実際まともな貴族は少ないようだった。


「特に王家やその系譜に連なる者たちはどうしようもありません」


 ミレーネの王家への怒りは未だに解けていないのだろう。ジオスはもうどうでもいいっぽいんだけどな。


 ただ、俺の能力や竜の力、シロとクロの種族などは絶対にバレる訳にはいかないということは理解できた。どう考えても、まともな生活は送れなくなるだろう。


 そこで、俺たちの肉体に関しては、竜の呪いということにすることにした。天竜の死に際の呪いによって、体が変異したと。


 この世界、呪いというのは強く忌避される。伝染病のように他者へとうつったり、子に引き継がれるという迷信も根強く信じられているからだ。


 地球でも、感染するタイプの病気じゃないのに近寄ることを嫌がったりする人は一定数いた。それと似た思考なんだろう。


 まあ、俺たちも呪いに詳しいわけじゃないし、本当にうつったりしないとは言えんけど。


 当然、奴隷としても需要がなく、俺たちにとっては身を守る上でも呪い持ちであるとしておいた方が都合がよかった。


 出発する時、ミレーネが大きな声で「呪いが解けるよう祈っている」と叫んだのも、周囲にいた人々に聞かせる目的だ。


 領主館に出入りしている俺たちに目を付けている傭兵や組織に、呪い持ちだとあえて教えたのである。


 どこまで効果があるか分からないが、戦闘能力もある呪い持ちなど、奴隷にする目的で襲うことはまずないそうだからね。


 それに、竜の料理を食べて、竜の肉体を得るなんて明らかに呪いじみているし。


 迷宮の恩恵による解呪対象ではなかったから、本当の意味での呪いではないのだろうが……。いずれ、シロとクロの竜化をどうにか直してやりたい。まともな人生を歩むためにも。


 そのためには迷宮に潜る必要があるだろう。むしろ、解呪すればいいだけの呪いと違って、他に治す方法が思いつかない分厄介とすら言えた。


「それじゃ、そろそろ行くか。今日中に次の村に行きたいし」

「にゃ! わかったです!」

「おっけー」


 ここから何ごともなく、迷宮に潜れればいいんだがな。

お知らせ

利き腕を痛めてしまい、執筆が全く進まない状況になってしまいました。

書籍化作業や、転剣のアニメ第2期、他メディア展開の監修作業にも遅れが出ており、なろうでの連載にまで手が回りません。

作者としても苦渋の決断なのですが、呪われ料理人の更新を一時停止させていただきます。

出遅れテイマーに関しては書き溜め分が多少あるので、そちらが尽きるまでは更新を続けられるかと思います。

楽しみにしていてくれた読者様には大変申し訳ありません。

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― 新着の感想 ―
疲労骨折でしょうか…? 私は先月より、スマホっ首からくるヘルニアで神経痛となり、若干右手に力が入らない状態です…。 診察室の扉の開け閉めや、風呂で体や頭を洗うのとか拭くのとか…もうずっと力が弱いままな…
いつの間にか書籍の2巻が出てるじゃないですか! 偶然発売日に知ったので、問題なく購入できました。 まだ半分くらいしか読んでませんが、本を手に持って読むのはいいなと実感しています。
転剣2期と呪われ料理人の書籍化おめでとうございます! そしてお大事に。無理は絶対にしないでくださいね。
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