表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/150

100話 解放

 全身が虹色に輝き、さらに強くなる光に呑み込まれていく。浮遊感が俺を襲い、五感が狂っていくような感覚があった。


 両手に感じる、シロとクロの手の感触だけが強く感じられる。これがなければ、きっとパニックに陥っていただろう。


 強く握り返される2人の手からは、彼女たちの不安が伝わってきた。俺がさらに握り返してやると、安心するのが分かる。


 そして光が収まった時、俺たちは今までとは全く違う場所に立っていた。見覚えがないってわけじゃない。むしろ、見覚えしかない。


「迷宮の、入り口か?」

「戻ってきたです!」

「てんいすげー」


 そこは、俺たちが使っている迷宮への入り口だった。背後の壁を魔法でどかせば、そこはいつもの下水があるだろう。


 恩恵を得たことで、入り口に戻されのだ。アレスの姿はない。彼が戻されたのは、傭兵ギルドの傍にあるっていう正規の入り口の方なんだろうな。


 まさか、仲間の蘇生ではなく、俺たちの解呪を願うとは思わなかった。


「そうだ、呪いは……消えてる!」

「黒いのなくなったです!」

「呪い消えた?」


 俺たちの胸元に刻まれていた黒い模様が、完全に姿を消していた。確かに、呪いが消えたのだろう。


「にゃぅ……」

「わう……」

「おっと」


 シロとクロが抱き着いてきた。体が大きな2人に左右からギュッと抱きしめられ、身動きが取れない。だが、俺は何も言わず、2人が落ち着くのを静かに待った。


「にゃ……」

「う……」


 2人の目からホロホロと流れ落ちる熱いものが、俺の頭を濡らすのが分かる。


 最後の部屋で、我を忘れて駆け出した時から気づいていた。気丈に振舞っていたって、死に至るという凶悪な呪いが恐ろしくないわけがなかったのだ。


「ずびー!」

「ずずー」


 あ! こら! 鼻水垂らしたな! というか、俺の髪の毛で拭わなかった?


 それから10分。


 ようやく落ち着いたシロとクロは、その場でユラユラと揺れ始めていた。完全に眠気に負けかけている。


「ほら、住処に戻るぞ。歩けるか?」

「にゃー……」

「わうー……」


 2人の手を引いて、久しぶりの我が家へと戻る。地下の埃っぽい狭い部屋に足を踏み入れるだけで、これほど安堵するとは思わなかった。俺自身が無意識に、ここが安心できる場所だって思っているんだろう。


「ほら、横になって」

「にゃー、おなかへったー」

「くーふくー」

「はいはい。ジャーキー齧っとけって」

「おいしーです」

「うまー」


 倒れ込む2人の鼻先にジャーキーを持っていくと、首だけ動かしてパクッと齧りつく。そのままクチャクチャと噛んでいると思ったら、いつの間にか眠りへと落ちていた。


 口の端からジャーキー飛び出してるぞ。きっといい夢見れるだろう。


「すぴー」

「すやー」


久々の安心しきったシロとクロの寝顔を見て、実感が湧いてくる。


「……生き延びた。俺たちは、生き延びたんだ」


 迷宮で何度も死にかけ、心が折れかけたこともあった。それでも、踏破し、恩恵を得て、なんとか命を繋いだ。もう、呪いに怯えて暮らさずに済むんだ。


「……ずず」


 おっと、保護者の俺が泣いてなんかいられないな!


「そうだ。カロリナは、大丈夫なのか?」


 確認しに行きたいが、正直俺もかなり眠い。それに、ジオスたちが戻ってきているかも分からないのだ。今の眠気マックス状態で街を歩き回るのは、危険だろう。


 というか、もう眠すぎて動けない。


「あぁ……も、むり」


 これ以上は眠気に抗えそうもなかった。


 寝具に倒れ込む。


 アレスにも話を聞きに行きたいのに……。もう、どうにもならない……。


 意識が眠りに落ちていく。



 そして、気づいたら5日経っていた。最初、自分たちがどれだけ寝たのかは分からなかった。ただ、目覚めて、町へ出てミレーネに出会って、ようやく判ったのだ。


 そりゃあ、シロとクロが泣きながら俺を起こすほどに、腹が減るはずである。「お腹減ったです~」「ごはんー」と、号泣する2人に何事かとパニックになりかけた。


 まあ、自分も凄まじく空腹なことに直ぐ気づいたし、大量の食事をすぐ用意したけどさ。


 ミレーネは俺たちを探していたらしく、彼女からは色々と話が聞けた。


 まず、一番気になっていたカロリナの安否だが、彼女は命を失わずに済んだ。今は生命力や魔力が安定し、静かに眠っているらしい。本当に良かった。


「シロちゃんとクロちゃんは?」

「今は住処で待ってますね」

「そうですか。よかったです」


 ミレーネがホッとした様子で胸に手を当てる。本当に心配してくれていたのだろう。


「アレスさんはどこにいますか? お礼を言いに行きたいんです」

「彼ですか……」


 アレスの名前を出すと、ミレーネは暗い表情で俯いた。え? 何があったんだ?


「ア、アレスさんがどうかしたんですか?」

「彼は、もうこの町にはいません。2日前に、旅立ちました」


レビューをいただきました。

転剣から来ていただいたということで、他作品も読んでくださってありがとうございます。

しかも書籍まで!

いやー、嬉しくて踊っちゃいますね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
キマイラ取りに迷宮へ行ったらまた呪われるのか…
100話おめでとうございます
シロさん、クロさん、食べて口をゆすがずに寝ると虫歯になりますよ…(苦笑) まあ、高い魔力で病気への耐性も大丈夫かな? いや、むしろ悪質な魔神虫歯菌とかも存在したりするかもだから気をつけた方が…?? …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ