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1話 プロローグ


 見渡す限りの、不思議な空間にいた。


 上下も左右も分からぬ、広大な空間。


 周囲が青いようにも白いようにも赤いようにも思える。自分がそこに倒れているのかも、浮いているのかも分からない。


「よくやったのじゃ」


 ! 誰だ? なんか、ジジイみたいな喋り方の女の子の声が……。はっ! のじゃロリ! のじゃロリの声が聞こえたぞ!


「……ま、まあ、ええ。お主が助けた子供は、未だ孵化せぬ勇者の卵。来世、我が世界にて生まれ変わりし魂。その身を挺して助け、魂の破損を防いだお主には感謝しておる」


 のじゃロリさんの声に言われて、思い出す。そういえば、俺は子供を助けたんだった。


 俺が覚えている最後の光景は、ナイフを振り上げる暴漢の姿だった。襲われる少年を助けるために、思わず飛び出してしまったのだ。


 その正義感溢れる行動に、自分でも驚きだ。正直、そういうことをするタイプじゃないつもりだったのだが。なんかとっさに飛び出してしまったのだから、仕方がない。


 昔から、子供が困ってるのを見てると見過ごせないんだよなぁ。迷子の女の子に声をかけて、警察のお世話になりかけたこともある。


 まあ、死んだだろう。胸をグサリとやられたし。刺された瞬間の痛みなどを不思議と忘れているのが、不幸中の幸いかね。


 というか、あの子供に悪いことしたかも。目の前で人が殺されるシーンをバッチリ目撃してしまったわけだし。ごめんな。


 あー、となるとここはあの世か? 綺麗だし、天国寄りかね? なんか、そう思ったら気持ち良くなってきた。意識が飛んで、溶けていくような――。


「自己をしっかりと認識するのじゃ! ここで意識を失えば、本当に輪廻へと戻ってしまうぞ? 自分のことを、強く意識するんじゃ!」


 えーっと、俺って誰だっけ?


「仕方ない、力を貸してやるのじゃ! 姓名、鈴木浩一。享年25歳、会社員。父母とは死別。兄弟は無し。友人ごく少数。恋人も当然無し」


 おいー! なんか微妙に毒が混じってなかったか?


「趣味は食べ歩きか、ライトノベルと漫画を読むこと。将来の目標は毎日美味しいものを食べることと、調理師専門学校に通って料理人になること」 


 おー、当たってるな! そうだ。俺は鈴木浩一だった。驚いたことで、意識が急にはっきりした。手足があるということが思い出され、自分が不思議空間に揺蕩っているのだと理解できる。


「儂は、地球とは違う世界の管理者。異世界では神と呼ばれる存在じゃ」


 なるほど。なんか、疑問など欠片も感じず、理解できてしまった。この声の主は、間違いなく神だろう。不思議とそう思えた。神様の威光みたいなものなのかね?


「勇者を救いし者よ。じゃがその結果、お主の魂に我が世界の力が混ざり込んでしまったのじゃ」


 それは、なにか悪いことがあるのでしょうか?


「急に敬語になったのう」


 ははははは! 神様相手ですから! 巻かれていい長いものには巻かれていきますよ!


「む。すでに制限時間が半分じゃ。少々急ぐぞ?」


 制限時間とかあるのか。


「ともかく、異界の力が混ざり込んだことはお主にとっては朗報かもしれん」


 どういうことです?


「お主には、2つの道がある。1つは、このまま地球の輪廻に戻ること。その場合、今のお主は消え、新しい魂として来世を迎えるじゃろう。もう1つの道は、我が世界への転生。新たな肉体を与え、再度の生を与えようぞ」


 え? そ、それって、異世界転生? そ、その、のじゃロリ神様の世界というのはどんな世界なんですか?


「お主に分かりやすく言うのなら、剣と魔法の世界というやつじゃな。勇者の魂を救った功を讃え、僅かながらに力を与えたうえでそこに転生させる。どうじゃ? 好きじゃろ?」


 好きですチート転生! いや、まてまて。焦るな俺。僅かな力って言ってたか? その僅かな力というのは、どんな物なので?


「お主には魔法料理人としての特性を与えよう」


 特性? スキルとかじゃなく?


「我が世界にスキルやステータスは存在せん。生まれながらにして、魔法料理人の職に必要な知識と技能を備えているということじゃ。その力を使ってどう生きるかは、お主の自由。新たなる生を謳歌すればええ」


 何故か魔法の使い方とかを知った状態で生まれるって事? それはスゴイな。それに、魔法料理人っていうのが地味に嬉しい。料理人になるのが、俺の夢だったのだ。異世界で夢が叶うとは!


 にしても、魔法で料理か……。きっと、地球じゃ考えられないような不思議食材とかもあるんだろうな。


「儂の世界には、地球にはいない巨大な生物もおるのじゃ。それらを調理するためには、魔法が必要となる」


 そうだよなぁ。魔法があるってことは異世界だもんなぁ。ドラゴンとか、未知の生物とかいちゃうんだろうなー。


「未知の生き物ばかりではないぞ。地球から一部の生物を写しておる。お主が知っている生物も大量にいるのじゃ」


 写してる?


「有用な生物は、神の間でやり取りされることもあるのじゃ。牛などは、いない世界の方が稀じゃろう」


 神様同士、生き物を交換し合ってるってこと? だとしたら、意外と知っている生き物が多いのかね? まあ、それならそれで、慣れた食材が使えるのは嬉しいし、有りだろう。


 大分転生に心が傾いてきたぞ! でも、命の危険があるっていうのがなぁ……。


 なんかもう一押し! もう一押しないんですか! 神様!


 例えば、異種族がいるとか! エルフとかドワーフとか獣人とか。そう、獣人とかな! 大事なことは2回言うと良いらしいので、2回言っておいた。


「おるぞおるぞ。それ以外にも沢山な」


 やばい。今から会うのが楽しみだ。


 実は俺はケモナーである。ファンタジー系ギャルゲーは最初に獣人の女の子を落とすし、RPGでキャラメイクができるゲームは必ず獣人を選ぶ。好きなアニメキャラは獣人が多い。


 本物の獣人がいる世界とか。ワクワクが止まらないな。決めた! 俺はケモミミを思う存分モフる! 絶対にな!


「……では、儂の世界への転生でいいんじゃな?」


 はい! 異世界転生でお願いします!


「う、うむ。最後に何か要望はないか? 得意な魔法の適性や、肉体的な才能なら少しは弄れるが? ああ、言語能力はすでに付いておる」


 そう言われて、少し考える。


 剣がいいか? でも、実際は剣よりも槍の方が強いみたいな話あるよね? もしくは、空間魔法的なチート能力もありなのか? でも、単純に肉体の潜在才能を上げるとかでもいい? 身体能力が高いだけでも、十分に強いかもしれん。ていうか、外見もいじれたり――。


「おい。早くせんか」


 えぇ? じ、じゃあ、武器の才能を! 槍の才能をください!


「分かったのじゃ」


 あ、あと、ちょっとだけイケメンにできたりとか? 昔好きな子に告白して、「顔がちょっとタイプじゃない」って言われたのが実はトラウマなんです!


 あ、でも、イケメンすぎると大変そうだから、ちょいイケメンくらいで! 人に嫌われない程度の微イケメンがいいです!


「か、顔? 要望は1つだけじゃ! 魂の力が微妙に足りん! というか、今から外見なんぞ弄れんぞ! 時間がないわ!」


 だったら槍の才能で!


「じ、時間が! ええい! もうこの設定でよかろう! 雰囲気がなんか魅力的になる才能じゃ!」


 ちょ、そんな適当な! しかも槍じゃなくてそっちぃ!


「お主が散々口を挟むからじゃろう! それに、雰囲気イケメンでも微妙に魂の力が足りんかったから、生まれ運から補填された!」


 え? どういうこと?


「生まれに関しては、平均以下になるということじゃ! 少なくとも、金持ちの子供には生まれんじゃろう! むしろ金持ちだったときには気を付けるんじゃ! それ以外で何かマイナス面があるということじゃからな!」


 えぇ? つまり、親ガチャ失敗確定って事?


 あれ? 周囲が急に暗くなって――。


「世界は、可能性に満ちておる。じゃから、何があっても頑張って――」


 神様の言葉が、妙に遠くからに感じる。なんか不穏な言葉じゃ――。


 そして、俺の意識は光に包まれ、眠りについた。

新作です。

活動報告にも書いた通り、元となったプロットは2014年頃に書いたものでした。

なろうに作品を連載するにあたって、幾つか考えたプロットの1つだったんですね。

転剣以上に私の好みが詰まった内容になっていて、それ故転剣の方が多くの人に受けるんじゃないかと判断したわけですが……。書き溜めてあった部分をかなり手直しをして、マイルドにできたんじゃないかと思います。多分……。

8話までは毎日投稿予定で、その後は6日に1回更新の予定です。

読者の皆様に楽しんでいただけるよう頑張ってまいりますので、これから呪われ料理人もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 趣味趣向丸出しなのはいいとおもう
[一言] 獣人がめちゃくちゃお好きなんですねw これから楽しみです〜!
[良い点] 転剣を読み終えたくなくて読み止めてました。 転剣の寂しさは変わらず残りますがこちらの作品も読んでいこうと思います。 物語の入りがドタバタで神様の様子が想像できますね ドタバタ神グッジョブ
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