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~ファイル1~



 高校生。

 私はただの高校生だ。

 花の青春。教室の窓から流れる春風を肌で感じながら。

 周りの視線を無視しつつ、教室を出る。

 下駄箱を開けると、まぁ、いつも通り。

 何とも言えない寄せ書きや、汚すぎて読めない文字が殴り書きされている。


 そんな、どこにでもいるような高校生だ。

 まぁだが、別にその生活がどうとかは感じていない。

 何故なら、慣れた事だからだ。

 どうして私がここまで偏見な眼差しを向けられ、裏でコソコソと笑われているか。

 簡潔に言うならそれ原因は。




「はぁ」


 学校から電車を乗り継いで30分。

 とある田舎の雑居ビルの、一階部分。

 そこに、看板を立て。とある相談事を引き受ける仕事がある。


 私の仕事は、探偵の助手だ。


 私の経歴を簡潔に話すなら。

 孤児院に居たところを、助手を求めていた探偵に拾われ。

 彼に育てられながら、高校生活を謳歌している。

 ただのJKといった所だろう。

 まぁただ、その経歴の謎さと。

 探偵の助手と言う情報がどこからか漏れ。

 それが学校生活の足枷となっているのは確かだ。


「やぁ、今日も出勤ご苦労様」

「いや、私の家この上だし……」

「僕の冗談に真顔で返すとは、君もデカくなったものだ」


 そんな私は。

 絶賛、反抗期。

 育ての親に何だか素直になれず。

 仕事は手伝うが、変な接触は避けてきた。

 別に嫌いなわけじゃない。

 ただ、触れ合うと小恥ずかしいだけだ。

 そんな私にも、探偵は物怖じすることなく。


「そうだったね。依頼が来てるんだが、頼んでも?」

「はぁ。分かりましたよ」


 とまぁこんな感じで。

 私と探偵は、ある特殊な事件の究明を追い求める。

 未解決事件限定の、専門探偵だ。



――――。



 今回の依頼内容はこうだった。


【とあるキャンプ場で、近くにショッピングモールがあり

 家族ずれが良く訪れたキャンプ場だったが。そこでは、良く。

 ――子供が消える事件が起こっていた】


「へぇ、もう廃墟なんですか」

「そうみたいだね~。でも、手がかりはここにしかないと思うし」


 と、探偵は両膝に自分の腕を置き、そう息を吐いた。

 一見は山道だ。

 だが、十数年前、ここはキャンプ場として栄えていたらしい。

 ここで神隠しが起こっていたと。


 神隠し。

 神隠しとは、人が唐突に行方不明となったり。

 なんの前触れもなく失踪したりすることを。

 『神が隠した』、【神隠し】と言う。昔からある話の事だ。

 私はそんな都市伝説と言うか、オカルトは毛頭信じていないが。

 この探偵は、何だか今回の事件に食いつきがいい。


「じゃあここで始めようか」

「分かりました。おふだはここに?」

「場所、分かってきたね」

「助手なのでね」


 何年助手していると思ってるんだか。

 未解決事件の探偵。それは普通ではない。

 未解決事件と言うのは、解決が出来ない事件。

 時間経過で真相が闇に葬られ、もう解決が見込めない事件の総称だ。

 私たちは、そうゆう忘れ去られた事件を追い求める。

 そんな、特別な探偵だ。


「で、何か見えますか」

「う~ん。わかんね」


 とぼけ顔で細目の探偵がそう言う。

 茶色く時代遅れの探偵服を着飾ったそいつは……。

 おっと、説明を忘れていた。

 探偵は、私に名前を明かしたことは無い。

 探偵、と。そう呼べと言われている。

 だから私は探偵を探偵と呼ぶ。

 彼は私にあまり関心がない。

 だから、まぁ、どうせ私に興味なんて無いのだろう。


「そう言えば、依頼者はどうでしたか」

「嘘をついてるのは見破れたけど、それ以外は事実だ」

「え。それ大丈夫なんですか?」

「まぁ事件に関係してはいないかな。嘘と言っても、小さな嘘だ」


 依頼者の依頼内容はこうだ。

 行方不明の7歳の娘を見つけてほしい。

 そんな内容だ。それも、居なくなったのが十数年前と来た。

 生きてるわけないのに、探偵はなぜかそれを引き受けた。


 探偵は、嘘を見破れると言った。

 私は信じていないのだが。

 勝手に食べたプリンを隠してもバレてしまうのは、そうゆう事だろう。


 それが彼の特殊能力、とでも言おうか。


 彼曰く、人が残した残りカスを読み取れる力を持つと。

 彼曰く、人の嘘は容易に見破れると。

 彼曰く、約束は守る男だと。


「お~。ここでテントを立ててたのか。へぇ~」


 だが実際、こんな軽い男が。

 本格的に事件を解決し、人から感謝された場面を見た事がない。

 だから私は信じていない。

 彼を全く、信じていないのだ。

 だから私は孤独だ。

 それをどうとは思わないが。

 どこにいっても、私の居場所はないと言う事だ。


「ふむふむ。あーね」

「また何か見つけたんですか」

「……そうか」

「?」


 深く、何だか安堵したように探偵は息をつく。

 探偵はある林の奥に視線を向けていた。

 そして、なんと探偵は。


「え、ちょっと!」

「この先に事件の鍵があるぞ」

「そんな場所、とっくに警察が探してる筈ですよ!」

「その通りだリトルワトソン。とにかくついてきな」

「こんな草むらを進むなんて、虫が……」

「気になるなら。君は無理をしなくていいよ」

「……いや、行きます」


 本当は虫が嫌だったが。

 何だか、反抗したくなってしまった。

 だから私は、幼虫っぽいものがぶら下がってる枝を折り。

 探偵の背中を目に捉え進む。


 しばらく進むと、少し開けた場所に出た。

 特に何もなく、ただの草むらだったその場所で。

 探偵は止まった。


「ここで子供が攫われてるね」

「分かるんですか?」

「彼曰く、人が残した残りカスを読み取れる力を持つと。ってナレーションしてたでしょ」

「キモ」

「えぇ」


 何だか思考が読まれていたので。

 そう反射的に言う。

 探偵は凹んだような顔をするが、別にそれで私は何とも思わない。


「ここで、子供と、大人の残りカスが残ってる」

「……つまり、大人が子供を攫っていたと?」

「間違ってないようだ。それも、ここに車

 ……いいや、タイヤの跡が残らないような自動車。

 田んぼなどの整備などをするトラクターなどで移動していた?

 とにかく、タイヤではなく、こうゆう山道を登れる特殊な車両だ」

「じゃあ、犯人は現地の人間?」

「……どうだろうか。今時貸し出しの車両もありそうだし」

「つまり、なにも分からないと」

「そゆこと」


 ずっとこんな調子だ。

 私が彼の元に来てから、本当にずっと。

 でもなぜか依頼者は満足して帰っている。

 未解決事件を未解決のままにしている彼に。

 依頼者達は感謝して帰っているのだ。

 そこが不思議な部分だ。



――――。



 結局、今日はそこまでとなった。

 だが、仕事は終わっていない。

 探偵は依頼者を事務所に呼んでいた。

 今更何を聞きたいのかと、そんな質問を帰り道にしたのだが。

 探偵は黙った後、「依頼者の嘘を暴くだけ」だと言った。


 連絡してから、飛んでくるように事務所に来た。

 依頼者は老けた女性だった。

 名は藤田玲ふじたれい。40歳後半らしい。

 夫はこの数年間で交通事故にて無くなっており。

 今は一人で過ごしているらしい。


 顔を見たとき、どこか胸が締め付けられた。

 きっと娘が見つかったとか思って飛んできたのに。

 探偵は。


「確かあなた。当時の事をなんと言ってました?」

「え。はぁ。えっと。普通に幸せだったと思います」

「あー。そうですか」


 困りながら答える藤田さんに、探偵はつまらなそうにそう返した。

 そんな態度に、藤田さんは膝の上の腕に力を入れる。

 おかしい。

 いくらあの適当な探偵でも、ここまで失礼な事をしているのは見た事がなかった。

 一体どうしてだろうか。


「さて、種明かしを始めましょうか」

「え」


 探偵は言った。

 種明かしと。

 その言葉を聞いて、私は少しだけ胸が躍った。

 この探偵が初めて私の目の前で種明かしをするのだから。

 今まで見た事がなかったそれを、今目の当たりに出来るのだから。


「数十年前、僕ら未解決事件を取り扱う探偵事務所が合同で制圧した組織がある」



――――。



 ※探偵視点※



 未解決事件を取り扱う探偵事務所は各地に存在している。

 僕の探偵事務所もその一つだし、隣町にもあるし、意外とどこにでもある。

 その一つが、僕の。加佑かすけ探偵事務所だ。


 そうだな、ここで面白い冗談を言ってあげるよ。

 僕はこのお話で、誰にも正体を明かしていない。

 ……どうだろうね。これが嘘か本当か。僕じゃなきゃ分からないか。

 それはほっておくか。


 表向きは児童を育てる孤児院だったが。

 制圧した組織は、子供を攫い育て、臓器売買に利用している。

 そんな手口最悪な組織だった。

 そんな組織を、未解決事件を扱う僕ら特殊探偵が発見し。

 合同で乗り込み、武力では負けそうだったが。

 こちらの知恵と能力で制圧をした。

 その際、孤児院に残された子供を。

 各自の事務所が引き取ることになり。


 まぁ、でも。

 僕は不真面目だからさ。

 他の探偵団は子供の親を、未解決事件を通し探し見つけ返していたらしいんだけど。

 多分僕が下手だったから、真面目じゃなかったから。

 助手を親の所へ返す事が出来なかった。


 そう。助手なんだ。


「藤田玲さん。あなたの娘さんは。彼女です」

「――っ」

「え……そんな」


 助手は何も言わなかった。

 藤田さんは口を押えて、助手をもう何度も見る。

 成長してるし、彼女はオシャレをしてるから分からないと思う。

 組織は攫った時、ある薬の投与によって攫われる前の記憶を消していたと言われている。

 だから。元の親に子供を返すのは困難だと警察は白旗を上げた。

 だから、我々特殊探偵が。

 能力も持つ我々が、年月をかけて子供を返していたのだ。


 大変だったよ。

 一応助手と言う立ち位置だから事件現場には連れて行くが。

 助手じゃないと能力で判明したら。

 僕は助手を事務所に戻し、喫茶店で依頼主に種明かしをしてきた。

 助手には僕の名前を伝えず。

 助手に仮名は与えたが、それは仮名だと言う認識を植え付けながらやった。

 あくまで興味がなさげに、何とか支えてきたつもりだ。


「全ては、この時の為だ」


 藤田さんが助手の腕を握り。

 地面に崩れ落ちる。

 僕はそれを背中越しに確認しながら、少額の依頼料が入った袋の中身を確認して。


「今までご苦労様。藤田未来ふじたみらいさん」

「………」


 助手は何も言わなかった。

 ただ、助手は黙って依頼主と行ってしまった。

 反抗期かな。

 お別れもない別れは、寂しいものだった。

 こうして、長年掛かった未解決事件は。幕を下ろしたのだった。



――――。



 拝啓。

 もう春です。少しまだ寒いのが残っていますが、私は元気です。


 あの探偵さんへ。

 私は今、大学生です。あれから高校を転校し、新たな生活を始めました。

 色々落ち着いたので、やっと手紙を出せます。


 新たな高校に行ってからはイジメなどが無くなり。友達ができ、彼氏も出来たりしました。

 青春を謳歌し、今はその彼氏と二人暮らししています。

 母は亡くなりました。ですが、寂しくはありません。

 最後の数年を私と過ごせて幸せだと思います。


 あなたがどこまで理解し予測していたのか。私にはわかりません。

 母がついていた嘘も、結局私には分かりませんでした。

 あなたなりの試練。だったりするのでしょうか。

 あの時言えなかった事を伝えたい。


 ありがとう。


 あなたのお陰で、私は帰ることが出来ました。

 きっと、私に未練が残らないように本当の名前などを教えてくれなかったのでしょう。

 店の看板に張られたガムテープは、そうゆう意味だったのでしょ。

 遅くなって申し訳ありません。

 ただ、お礼が言いたい。

 本当にありがとうございました。


 藤田未来。名も知らない探偵さんへ。



「なんの手紙よんでんの」

「昔の友人からの手紙だよ少年」

「ふうん。で。今度の依頼はなんだよ」


 藤田玲の嘘。

 娘が攫われる前、藤田玲は当時の事を『普通に幸せだった』と言っていた。

 それが嘘だ。

 『普通に幸せだった』ではなく。

 『宝のような日々だった』が正しい。

 普通だと口では言っていても、その普通の幸せが。

 彼女にとって大切なものだった筈だ。


 ぼ……。

 わ、私の名は■■。■■探偵事務所。

 前の前の名前は……加佑だったかな。

 今日も知らない誰かを育てながら。

 未解決事件に挑む。




【未解決事件特別探偵事務所 ~ファイル1~】


思い付きの短編なので、正直評価が分かれるかなと思っております。

何か一つでも続きが気になると言う意見があれば、少し続きを考えてみようかなと思ってるくらいです。

もしよければ、他の連載作品もよろしくお願いします。

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