バカと数学教師が授業中
随分前にLINEのタイムラインに投稿していたものを転載したものです。執筆歴もあまり長くはないので素人クオリティではありますが、自信作の1つではあります!!是非読んでいってください。
「……よって、このxは12である事がわかる。」
あぁ、退屈だ。
学校なんてなんの役に立つ?学ぶため?交友関係を築く術を身につけるため?
少なくとも、今の俺にはいずれの役にも立っていないのは確かだ。
別に勉強が楽しいわけでも、できる訳でもないし、友人なんているわけが無い。授業中はいつだって上の空だし、休み時間は1人でぽつんと座っている。クラスのカーストの中にも入れない、落ちこぼれだ。
そもそも学校で学ぶことは将来なんの役に立つんだ?みんな1度は抱いたことがある疑問だろう。古文なんて学んでも今は現代語をはなすし、因数分解なんかは今まで十数年の人生の中使った記憶が無い。歴史の年号を必死に覚えてもその知識を一体どこで使う?地理もそうだ、気候なんか理科と被ってんだよ。植物の構造を知ったって大体の人間の人生に関わってきやしないだろう。それにグラフ、なぜ違う学問が顔を出すんだ?全く、腹立たしい。英語は今の時代AI等が発達しているおかげで、スマホ1台さえあれば世界中の言語が翻訳できる。音楽や美術、あいつらは理解しようとするから楽しくないんだ、芸術とは直感でとらえ、動かされた感情や自分の中に入り込んだ視点、これを言うんじゃないか?兎に角、俺にとって学校で学ぶ学問の知識とは【ゴミ】でしかないのだ。
「………………!!!!!!!……」
あぁ、佐々木の奴がなんか言ってるよ、数学教師の佐々木。あいつはいつも煩い、兎に角声がでかいんだ、もう少し声量を抑えてはくれないだろうか。
「……………!!!!!!!!!!!!……」
まだ言ってる。今自分の意識がアンドロメダ銀河の方まで飛んでいってしまったせいで何を言っているのか全く頭に入ってこない。奴はなんて言ってるんだ?
「………とう…おい、齋藤!!!!」
は?俺?
「齋藤!!!!お前起きてんのか?目が死んでるぞ。」
やべ、俺怒られるんじゃね?終わった?
「起きてるよ、寝そうだったけど(笑)」
「お前はまずそのタメ口を直せ。仮にも俺は教師、お前は生徒だ。」
ほらまた細かいとこ付いてくるよ。佐々木ってこんなやつなんだよなぁ。絶対彼女居ないだろ。
「お前授業やる気あんのか?」
うわ出たよ。やる気あんのか?これはっきり言うとさ、やる気ないよね。つまんないんだもん、話入ってこないし。
「いや、正直ない(笑)なんのために俺ら学んでんのかさっぱりなんで。」
将来に役立てる為でしょ、そうクラスの誰かが言った。
「それじゃあ聞こう。お前らは今まで生きてきた日常の中で平方根を使ったことはあるか?オイラーの等式は?フェルマーの最終定理は?シュワルツの不等式は?使ったことねぇだろ。少なくとも俺はねぇぞ。」
教室中がしん、と静まり返った。少し俺の声が反響して聞こえる。気の所為かもしれないけど。
「齋藤、お前が言いたいことはわかった。確かになんの役に立つかは分からないかもしれない、けどな…」
「んな御託はどうだっていいんだよ。意味わからん知識を詰め込ませられることが苦痛だっつってんの。」
とにかく自分の本心をぶつけてみた。もうどうでも良くなっていた。後で説教されようが、学校を退学させられようが、どうだって構わない。どうせ俺自身、進学を望んじゃいなかったんだ。親が望んだ、だからそこそこのところ行って青春とは言えない日々を送っていた。
「……お前の気持ちはよく分かる。正直、お前らが学んでいる事、殆どか''クソ''だ。」
…は?こいつ何言ってんだ?
…ざわざわざわ…
そりゃ教室もざわめくわ。いきなり教師が自分の教えてることに関して否定し始めるんだからな。
「お前…何言って…」
「齋藤、お前にひとつ問題を出そう。」
「は?問題?」
佐々木は構わず続けた
「猿人類は大昔、火を手に入れ、武器を手に入れた。そしてこれらの作り方を''知識''として非常に欲しがった。効率よく火を起こす知識、武器を作る知識。なぜだか分かるか?」
こいつ、本当に何言ってんだ?今って数学の時間だよな?
「お前…何言って…」
「答えろ、齋藤。なぜなんだ?」
「…そりゃ、生活の質が上がったり、獲物を効率よく、かつ安全に仕留めるためじゃねぇの?」
俺は何となく頭に浮かんだ答えを口に出した。それが合ってんのか、全くわかんねぇけど。
「正解だ。」
「すげぇ!合ってんじゃん。」
思わず声に出して喜んでしまった。滅多に挙手したりすることも無いから、教師からそんなこと言われる事なんて無かった。新鮮だった。
「彼らには、明らかな学ぶ''理由''が存在した。今の学問の礎となっているのは古代ギリシアの学問だが、古代ギリシアでは学問の自由があった。要するに何を学んでも良かったのだ。」
「え、国から『○○を教えなさい』とかなかったわけ?」
「そうだ、補助金などもない中、教師たちは何とかして生徒たちを集めたい。だから、それぞれの思想が入り交じった学問が成立していき、生徒たちは学びたい学問の方へと向かっていったわけだ。」
まじか…生まれる時代間違えたかな。
「…ん?でもまてよ、いま『それぞれの思想が入り交じった』って言ったよな?それっておかしくねぇか?だってこの教科書、色んな人の目が入ってるじゃねぇか。一人の人間ならまだしも、10数人、もはや何十人と来たら思想とか言ってらんないんじゃねぇの?」
「いい所に目をつけたな、齋藤」
佐々木は笑っていた。そんなにいい所だったか?
「そうだ、本来学問とは各々の''なぜ?''を突き詰めていく物なんだ。様々な仮説を片っ端から試して、可能性を潰していく。それが本来の学問だ。」
「じゃあ、今の学校の教育っておかしくね?教師が『これはこういうもの』って固定概念をただ押し付けてるだけじゃん。」
「まさに確信を突いたな、そこだ。だから面白くないんだ。本来の学問には、''なぜ?''を突き止めていくという«理由»があった。これは猿人類と同じ、理由があったから人間は知識を新しく取り入れることに快感を覚えた。」
「じゃあ、俺らはただ、《一方的に概念を押し付けられているだけ》だから面白くもなんともないのか?」
ようやく納得した気がする。
「そうだ。理由の無い、«必要とされていないゴミ»をお前らは頭に詰め込まれているだけだ。数学の証明を聞いてもさっぱり頭に入ってこないだろう?其れは脳が«ゴミを拒絶しているから»だ。」
「なるほどね、じゃあ、俺のさっきの''なんで?''はむしろ学問的な思考に近いんじゃねえの!?」
疑問を突き詰めていくのが学問なのだとしたら、俺のさっきの主張は学問的な捉え方と言っても過言じゃないはずだ。
「そうだな、この教科書よりも、お前の主張の方がよっぽど学問らしい捉え方をしている。それこそが本来の学問に求められている思考的判断力だ。」
「ようやく理解したわ、でも、結局学ぶ理由が分かってねえんだから、授業のやる気はないまんまなんだけど。」
佐々木は少し間を開けて、口を開いた。
「よし、お前らに宿題を出す。期限は次の授業までだ。内容は、《今我々が学ぶ理由》について、具体的に述べてまとめて来い。それぞれの教科についてだ。全ての教科について綺麗に言葉にまとめてこい。これからの時間は自習とする。」
教室内がざわついた。それもそうだろう、全ての教科についてだ、文字数がバカにならない。でも…
「面白そうじゃん(笑)」
俺は笑っていた。分からないことについて考えるんでしょ?思考の中は無限の世界が広がってるんだから、自由にまとめていい、これほどまでに楽しそうな課題なんてないじゃん。
「その意気だ。」
佐々木も笑っていた。なんか、あいつと通じ合った気がする。明日から更に楽しめそうな気がする。
えー……読んでくださりありがとうございました!締め方がなんとも言えない感じにはなってしまいましたが、これが貴方の学ぶ理由を考えるきっかけになったら幸いです。