いつか紡がれる新たな絆に
貴族ってマジでパーティー多いな……。
そんなことを思いつつも脚は軽やかにステップを踏む。意識せずとも淀みなく動く身体に、我ながら大したものだと自画自賛。地獄の特訓を耐え忍んだ幼い日の自分を脳内で褒めたたえる。……が。
「カイザー様、どうかなさいましたか?」
やっべっ!!うわの空だったの気づかれた?
俺の擬態もまだまだのようだ。
「いえ、いつにも増してお美しいので見惚れてしまっていました。先日のベビーピンクのドレスも可憐でしたが、今日のエレガントなドレスも大人びていてよくお似合いです」
「あ、ありがとうございます……」
褒め言葉を口にすればダンスのお相手のご令嬢は頬を色づけて俯いた。
よし、なんとか誤魔化せた!
見掛けは優雅に微笑みつつ、内心でガッツポーズを決めた。
そして今度こそダンスへと集中する。その後もそつなく数人のお相手を務め、内心のお疲れを隠しつつ避難スポットへと向かった。
避難スポット。
即ち、知り合いの元へと。
今回見つけた相手はアイリーン。あちらもあちらで男性からのひっきりなしのお誘いに辟易して居たらしく、瞳が合った途端に鮮やかな紅い唇が弧を描いた。
「ちょっと来て?」バイオレットの瞳が雄弁にそう語っている。むしろ「ちょっと顔貸せや」かも知れない。
まぁ、誘いを逃れたいという目的は同じだからいいんだど……。
「はぁー、疲っかれた」
「アイリーン声。なにか取る?」
合流して周りの男共が散った途端、地を出すアイリーンを苦笑いしつつ窘めた。そして豪華絢爛な皿の並ぶテーブルにちらりと視線をやれば頷かれる。どうやら本当にお疲れだったようだ。
マカロンにショコラ、一口サイズのチーズケーキを見栄えよく皿へと盛り付けアイリーンをソファへと誘った。ちなみにマカロンは『リリアーナ』の商品だ。いつもご贔屓にー。
「んー美味しい。カイザー様もどう?」
木苺のマカロンを口にして、生き返ったとばかりに瞳を細めたアイリーンが差し出してくれた皿からビターのショコラを一粒だけ貰う。深い苦みと僅かな甘さが口内へと広がった。
パーティーに於いて飲食は正に避難スポットだ。
何故なら食事中にむやみやたらに話しかけるのはマナー違反だから。声を掛けてくるとしたら親しい相手か、そんなことなど気にしない連中かのほぼ二択。
なのである意味最終手段とも言える。
……とはいえ、貴族にとってパーティーは単なる道楽ではなくお仕事だ。重要な社交の場で必要不可欠。なので普段は悠々と食事をしている暇なんぞなく、故に最終手段。
「随分とお疲れだね。君が隙を見せるなんて珍しい」
「引く手数多だったんだもの。ちょうど断りにくい方々が続いてね。こっちは女性なんだから紳士として気遣って欲しいものだわ」
全くもう、と憤る彼女は今日もお色気ムンムンだ。
「カイザー様だって相変わらずモテモテじゃない。でもいつもよりマシかしら?」
「例の噂のお蔭でね」
思わず苦笑いが漏れた。
例の噂……つまりは俺が黒竜に剣を向けたアレだ。それのお蔭で最近は女性のお声掛けも、絡んでくる野郎も減ってはいる。特に後者。
「ダンスは得意じゃないから、いいのやら悪いのやら」
俺の言葉にアイリーンは「よく言うわ」と瞳を眇める。
いや、マジで。
ダンス自体は別に苦手じゃないけど、密着すると高確率で相手の心の声が聴こえちゃうんで……とは言いたいけど言えない。
小休憩を挟み、名残惜しくも人混みへと戻ると、ティハルトから「お前らだけ狡いぞ」という視線を向けられた。
国王陛下におかれましては、俺らの比でないぐらいにあらゆるお声掛けがひっきりなしだったらしい。そして半ば八つ当たりも兼ねてか捕まった。
陛下に一言でも挨拶をしたい面々との遣り取りに巻き込まれる俺。ダンスからは逃れられたがこれはこれで面倒臭い。
「あの噂、役に立つな。いっそ積極的に魔王説を押し出すか」
「……やめて」
狸ジジイ共が引き上げたところでティハルトが物騒なことを呟いた。
例の噂にビビッてか、狸共の嫌みが控えめだったのと、チラチラと俺を見てはいつもより早めに引き上げていった奴らの姿に気を良くしているようだ。
便利だからと親友を魔王に仕立てようとすんな。
あと実際の魔王は、恐怖の存在なんかじゃなくて激カワだからな!
今は夢の中だろう、真紅の髪のプリティー魔王を思い浮かべた。
最近マオは寝る前に俺に絵本を読んで貰うのがお気に入りだ。なので今日はご機嫌斜めだったのだが、素直に寝てくれただろうか?
「この間はお疲れ様でした」
「いえ、僕は殆どなにもしてませんし。カイザー様たちこそお疲れ様でした」
優等生のお答えをしてくれたのはサフィアだ。
いやいや、リリアやメラルドの引率は絶対大変だった筈。マジお疲れ様っす、主に精神面で。
共に挨拶に訪れたサフィアのご両親、現侯爵であり宰相でもある彼の父親と麗しき侯爵夫人はティハルトと熱心に話し込んでいるので、その傍らで挨拶を交わす。
「お母様もだけど本当に美しい髪ですわね。羨ましいわ」
談笑を交わした後、アイリーンがサフィアを見ながらそう口にした。最後の一言には特に実感が込められていた。
「アイリーン王妃のバイオレットの豊かな髪はとても美しいですよ」
全くの同感だったので、うんうんと横で頷く。
サフィアや彼のお母上の精霊のような透き通った髪も美しいが、アイリーンのウェーブが掛かった鮮やかな髪も彼女の美しさに良く似合っている。
例えるなら儚い美しさと鮮烈な美。
「有難う。でもウェーブは雨が降ると大変なのよ」
ああ、それな。前世の長女がウェーブヘアーで、梅雨の時期は半ギレ気味に嘆いていたことを思い出し納得した。
「膨張とは無縁そうなサラッサラの髪」
「確かに。サラッサラの手触りだった」
妬みすら籠ってそうなその声に、再びうんうんと同意した。
「この前つい癖で撫でちゃったんだけど、見事な手触りだった」とアイリーンに報告しつつ、サフィアにも改めて「すみませんでした」と謝罪する。
「……つい癖でって」
アイリーンにめっちゃ胡乱な視線を頂いた。ついでに「女の子には絶対やっちゃ駄目よ、それ」ってお小言も。
対するサフィアは、なにやら頬を薄く染めて首を振る。
「いえ……大丈夫です。……あまり、そういう経験がないので新鮮でした」
少しだけ恥ずかしそうなサフィアは、こんなことをいっては失礼だが抜群に女子力が高かった。薄く頬を染めた美形の攻撃力に吃驚です。
お父上は厳格な方だしあまりそういうことはしないタイプか、いい子なのに。と視線を向けると、丁度話が終わったのかご両親がまだ話し込んでる俺達に一礼して先に戻っていった。そしてティハルトがこちらへと加わる。
「なんの話をしてたんだ?」
「サフィア様の髪がサラサラなのと、カイザー様が癖で迂闊に人様の頭を撫でちゃう話」
「お前ら……」
「ご気分を害してらっしゃらなければ良かったです」
ティハルトの呆れた視線はスルーして、ほっと息を吐きつつサフィアへ微笑んだ。
「それは全然。僕は一人っ子なので、兄がいればあんな感じなのかなって……。ガーネスト様やダイア様が少し羨ましいです」
綺麗な微笑みを浮かべて告げられたそれには僅かな羨望が見え隠れして。
思わずゲームでの彼の設定を思い出した。
優秀さ故に幼い頃から過度な期待を掛けられ、小さなミスさえも過度に恐れ嫌う神経質な一面を持っていたゲームのサフィア。
目の前に居る彼はゲームに比べ神経質な面が和らいでいる印象だ。でも先程の話や厳格なお父上たちの性格から考えると、もしかしたらサフィアは少し寂しいのかもしれない。ヒロインたちと関わることで少しでもそれが癒えればいいのだが……。
まぁ、癒しは可愛い女の子たちに与えて貰うとして。撫でられるのが嫌でなくて、兄が羨ましいというのなら俺が撫でようではないか!サフィアいい子だし、とぽんぽんとその頭を撫でた。
残念ながら、身長は今や彼の方が少しばかり(本当に僅差!)デカいのだがな。
「サフィア様にお嬢様が生まれた時は大変そうですね」
唐突な話題に一同がはっ?って顔してる。
ティハルトに至っては「こいつなに言ってんだ?」感を隠そうともしやがらねぇ。
「私もずっと兄妹が欲しかったんですよ。長年願って漸く出来たあの子たちが可愛くて可愛くて」
こんな風になってしまいましたと、軽くお道化て両手を広げる。
「長年の欲求は凄いですよ?サフィア様もいずれ、愛しい方と結ばれご家庭を築かれるでしょう。そうしてきっとお子が生まれる。その時はその子に自分が望んだ全てを与えて差し上げて下さい」
さすがに今から兄妹は厳しいかも知れないが、もし自分が寂しい思いをしたのなら、その分将来の家族を精一杯愛して甘やかしてあげればいい。
「幼い頃からサフィア様が甘やかしては、女の子だった場合ご結婚が大変かも知れませんが……」
極度のファザコンになりそうだなと思って笑う。
「それにご兄弟だってこれから出来るかも知れませんよ?いずれ伴侶となられる愛しい方にご兄弟がいらっしゃれば、その方はサフィア様の義理のご兄弟になられるのですから」
ぽかん、と話を聞いているサフィアへ揶揄うようにそう告げたその瞬間、ボンッ!!?と音がしそうな勢いでサフィアの白い肌が真っ赤に塗りつぶされた。
『は、伴侶……ご義兄弟』
めっちゃ珍しい……。
冷静なサフィアから心の声が聴こえるなんて殆どないのに。
真っ赤になってなにやら狼狽してるサフィアというレア案件に、「やべっ、揶揄い過ぎた?」とボーイから冷たい飲み物を受け取って彼へと押し付ける。
礼と挨拶を述べ逃げるように去ってくサフィア。そしてなにやら腕を組んで不機嫌そうなティハルト。
戸惑いながらも色んなことに焦っていると、非常に楽しそうなアイリーンにぐいぐいと腕を引かれて引き寄せられた。
そして耳元に艶やかな唇が近づく。
「サフィア様ね、今ちょっとシェリルちゃんと良い感じなのよ。まだ付き合ってないけど、絶対に両想い」
「マジで!?」と思いっきり叫びそうになって慌てて堪える。
でも思いはバッチリ伝わったようで力強く頷かれた。
脳裏に二人の姿を思い浮かべる。
うわっ、めっちゃお似合い。
そしてティハルトの不機嫌の理由もわかった。悪い、ティハルト。知らなかったんだ。
それはそうと……攻略対象者が次々ヒロイン以外とカップル成立しそうなんですけど、大丈夫?




