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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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92/210

キャラが違うから言わない

 


 サスケが凄い顔してる……。


 リリアがいた舞台を見つめるサスケはなんとも言えない表情だった。いや、表情筋は相変わらず(ほとん)ど動いてないんだけど、何故(なぜ)かありありと伝わる「なんだあれ?」感。もはや未知の生き物を見る瞳だ。


「カイ……ふがっ!!?」


 舞台袖のカーテンに隠れていた俺達の後ろにリリアたちが現れる。そしてソラが問答無用でその口を塞いだ。物理的に。


「でけぇ声出すな。敵が来たらどうすんだよ」


 潜めた声音に、リリアがソラの手の上から両手で自分の口を慌てて押さえた。


 ソラ、ナイス!

 危うく大声で名前を呼ばれるとこだった俺は、心の中で親指を立ててソラを称えた。


「大声だすなよ」と念を押されて手を放して貰えたリリアは、リリー嬢を見てからキラキラした瞳を俺へと向けた。ふふん、と言いたげにリリー嬢へ胸を張ったリリアの瞳は雄弁に「褒めて褒めて!」と物語っていた。


「私、役に立ちましたよね?!」


 なんでそんな謎のライバル意識をリリー嬢に滾らせてんの?


「お疲れ様、よく頑張ったね」


 ……ともあれ、囮役という目的は充分過ぎる程に果たしてくれたわけだし、一応褒めれば満面の笑みが浮かんだ。……が、それだけでは満足できなかったようだ。


「ご苦労様です、えっと……変わった異能ですね……」


 メラルドに興奮気味に「恰好良かったです!」と告げられ、ランにおっとり労われ気をよくしたリリアはさらなる褒め言葉を求めサフィアを見ていた。無言で誉め言葉を催促する彼女に、たどたどしくもサフィアが口を開く。


 思わずサフィアの頭を撫でてしまった。

 明らかに困ってるし、どう見ても引いてたリリアの言動に触れず、労いと異能に言葉を濁す彼からは大人の対応と気遣いが見えた。ええ子や。


 でもいいよ?正直に変な人って言っちゃってもいいよ?

 誰も怒らないし、みんな全力で同意するから。


 唐突な行動に、サフィアが仮面の奥の瞳を大きく見開く。


「すみません、つい」


 いつもの癖でガーネストたちにするように無意識で手を伸ばしてしまった。軽い謝罪と共に手を引く。

 突っ込み満載で心が疲れてたから、常識人で良い子なサフィアに癒されてつい。慣れてるウチの子ならともかく、突然撫でられたら吃驚(びっくり)するよなとちょっと反省。



「カイザー様。あれだけ鍵ねぇけど、どうする?とりあえず先に運ぶだけ運ぶか?」


 耳元で小さく問うソラの視線の先には、先程まで舞台にあった大きな檻。


 他の檻は倒れてる男たちの懐を漁って鍵を開けてからソラが転移させたのだが、あの檻だけ鍵が見当たらないらしい。

 もしかしたら突然の停電で、鍵を持った男が人を呼びにどこかへ移動してしまったのかも知れない。


「いや、中の子を早く出してあげたいし私が開けるよ」


「は?どうやって……」


 檻に近づくと、中にぎゅうぎゅう詰めにされた彼ら彼女らへ動かないように告げる。暗闇の中、状況もわからない彼らは怯えながらも素直に頷いた。

 メラルドに持っていた灯りで檻の上部を照らして貰い、剣を抜いた俺は高く飛んだ。


 横に凪ぐように剣を払う。風を切るような音と、次いで硬質ななにかが地へ落ちる音が遅れて響いた。

 音の発生源にあるのは、上部を綺麗に斬り落とされた檻。


「わぁっ!!すごい!恰好いいです!」


「お見事です」


 メラルドやランの称賛を受けながら、目を真ん丸にしたソラに「宜しく」と告げれば、リリアから「ちょっと待って下さい!」と声が掛かった。

 なにかと思って振り向くと…………。


「その前に、剣をしまいながら「またつまらぬ物を斬ってしまった」って言ってみてくれませんか?」


「「「………」」」



 石○五ェ門かっ?!!



 なんなの?今日はアニメブーム到来なの??

 そしてこの状況で、よく大真面目な顔でそんなこと言えたな!!

 言わねぇわ!!


 そしてソラとリリー嬢も、一瞬リリアのことジト眼で見た癖に期待した顔でこっちを見るんじゃないやい!!

 俺も第三者だったらそっち側に居たかも知れないという事実には見ぬふりをする。


 俺は無言で斬鉄○ならぬ、愛用の剣をしまって再びソラへと振り向いた。


 ガッカリした空気?

 知らんわ、そんなん!!


「そんなことより、そろそろ人が集まって来てしまうよ。君たちは早く紛れないと」


 疲れた息を吐きつつ彼らを促す。


 リリアとメラルドにボロを出さないよう念を押し、特にリリアには喋らないよう言いつける。顔は蛍光緑のインパクトで把握されていないだろうが、声はバッチリ聞かれてるしね。

 不安しかない元気なお返事を聞きながら、一番信頼出来るサフィアにリリー嬢たちのことを託し、ソラと後で落ち合う段取りをした。


 そしてそんな彼らをサスケが先導する。

 彼の役目は、周囲が見えない程の暗闇の中で人混みに紛れるまでの彼らの案内と、その後に落とした灯りを復旧してもらうことだ。


 カツン、と硬質な音と「痛てっ」というソラの声がした。

 どうやら斬り落とした檻の一部を蹴飛ばしでもしたらしい。


「鉄の檻を剣で一刀するとか、マジ人間技じゃねーしな……」


「ソ、ソウデスネー」


 ソラの言葉にリリアがピューっと不自然に口笛を吹く。

 

『あ、危っない!!カイザー様、そんな気軽に力を使っちゃ実は魔族だってバレちゃいますよっ!!人間はそんなこと出来ないんですから、もうっ!あっ、でもリリー様はゲームのストーリーでカイザー様の正体知ってるのかしら?』


 だから魔族じゃねーし……。

 リリアの心の叫びに、「もうやだ……突っ込み疲れたよ」と泣き言が漏れそうになる。


「内緒ですからね!!」


「え?なにがですか……?」


 そして唐突に目を剥いたリリアに詰め寄られたリリー嬢は意味がわかっていない。そりゃそうだ。


折角(せっかく)なら「これが自分の異能の『斬鉄』だ!」とか言っちゃえばいいのに。鉄斬れるとか、普通にみんな信じますよね」


「え……?」


「黙って下さい。見つかりますよ」


 サスケに淡々と諭され、漸くリリアは口を閉じた。


 そんな一同の背を見送り、俺達も踵を返した。


 俺?相変わらずランに手を引いて貰ってますがなにか?

 闇にも慣れ、少しは夜目が利くようになったとはいえ、いかんせんここは障害物が多い。厳密にいうならゴロゴロと転がってるおっさん達。ちなみに死体ではありません。


 そうこうして進んでいる内に再び世界が灯りに包まれた。

 急激な眩しさに思わず腕で目を覆う。一斉に復旧したらしく、閉じたホールの扉の向こうからもざわめきが聞こえてくる。


 人気のない通路へ入り込んだ俺達は脚を早める。ドレスの裾を掴んで先を走るランが、黒いレースの手袋に覆われた指を唇へと(くわ)えた。決して大きくはない、だけど甲高い音色。ランの指笛から寸の間、


「あちらです」


 耳をそばだてたランが角を右へと曲がる。


 どうやら音が合図らしい。ちなみに俺にはランの以外は全くなにも聞こえなかった。

 もしかしなくても指笛の音で誰の音かも聞きわけが出来るんだろうか?多分出来るんだろうな。

 如何(いか)にも密偵っぽいその遣り取りに、内心わくわくしつつ後を追う。


 途中行き会った数人はランが音もなく排除した。


「無関係の方だったら申し訳ないのですけど……」


 相手がこちらに反応するより早く、片っ端から意識を奪っていく。こちらの姿を見られる訳にはいかないし、なによりこんな奥にいる人間はオークションに無関係の人間ということもないだろう。多分、きっと……。紛れ込んだ一般人とかいたらマジごめんなさい。


「ちょっと強力な痺れ薬ですが後遺症などは無い筈です」


 倒れた男たちを心配そうに見る視線に気づいたのか、ランが安心させるように微笑んで告げる。なお無抵抗の相手は素早く意識を奪うだけだが、武装してる相手には攻撃もしてたりします。

 

 可憐なドレスと仮面を身に纏い、颯爽(さっそう)と駆けつつドレスに隠した暗器で敵を打倒していくランは、豪奢な建物の背景も相まってまるでアクション映画のヒロインだ(男だけど……)。非常に見栄えが良くも恰好いい。

 そしてそんなランの後をただついて走るだけの俺は脇役A。あれだよ、映画とかだったら途中でポカして戦線離脱したりする、見せ場の無いキャラだよきっと。


 俺、なんで来たんだろ?

 影達だけでよかった気がする。ソラたちと会場でお留守番組で良かったのでは……?と思いつつも、特撮のような非常に恰好いいシーンを見れて満足だ。


 煌めくシャンデリアに照らされる螺旋(らせん)階段。そこへと差し掛かったその時、音もなく黒い影が降り立った。

 


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