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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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突っ込みの嵐

 


 眩いばかりの世界から一瞬にして反転した暗闇。


 騒めく人々をよそに、俺とランはそっと席を立った。そして今まさにオークションが行われていた舞台裏へと足早に向かう。途中ランと合流したサスケが音もなく数人の男を昏倒させた。


 足元さえも見えない暗闇の中、不意に僅かな光が灯った。


 暗闇にぼんやりと浮かぶ白い仮面の鳥人間。

 周囲の人間が(おのの)くのが暗闇でもわかった。


 俺もビビった。

 肩がビクッ!!ってなったし、心臓も超バクバクいってんですけどっっ!?


 亡霊、もとい鳥人間の正体はペスト医師の仮面をつけたメラルドだ。

 あれだ、懐中電灯で下から顔照らした感じ。普通にやっても恐いのに、カラフルな服着たペスト医師。恐怖の塊以外のなんでもなかった。


 そして呆気に取られていた周囲も、不審者の出現に気づき、


「誰だ、テメェ!!」


 我に返った彼らは次々とメラルドへ襲い掛かった。

 

「わわっっ?!」


 取り囲むように襲い掛かってくる男達にメラルドが驚きの声を上げる。暗闇の中たった一つの光源に照らされるメラルドは恰好の標的だ。

 サフィアや俺達が動き出すより早く、「大丈夫です」と楽し気な声が響いた。


 メラルドは腰を低く落とすと、反動を付けるように前へと飛び出し、手にした剣で目の前の男数人を斬りつける。肘を後ろへと突き上げ、後ろから迫ってきた男の腹へと一撃を加えた後、ダンスのターンを踊るように軽やかに回転。武器を振り下ろす数人の男達を前に防御の体勢など一切取らずに剣を振るう。


 カンッ。

 なにかを弾くような硬質な音が響いた。


「残念でした」


 確かに斬りつけた筈なのに、肉を裂くどころかあまりにも硬質な手応えに剣を手にした男が目を見開く。楽し気に軽い声を零し、お返しとばかりに剣を振り下ろしたメラルドはあっという間に十人弱の男達を打倒した。


 さすがは攻略対象者。

『斬撃無効』の異能とキャラ随一の剣の強さは見事と言わざるを得ない。


 愉快な服着たペスト医師の姿でさえなければ恰好良かったのにっ!!


 ヒーローの見せ場を、引き攣った顔で見つめるヒロインを見ながら心底そう思った。


「大丈夫かい?」


「もっちろんです!」


 無事を確信しつつ、念の為に尋ねれば返ってきたのは元気なお答え。

 シュールな外観とのギャップがひどい。そしてコイツは確実に隠密行動向いてないな。そもそも灯りをつけるから襲われんだよ。


 そのことを咎めれば、


「えーだってっ、暗いんですもん!ここに来る時だっていっぱい脚とかぶつけたし。ここならもう灯り付けてもいっかなって思ったんです」とぷーと頬を膨らませる姿は大変子供っぽかった。


 ランとサスケが残党の無力化と捕縛を音もなく進める中、俺達は舞台袖のカーテンに隠れてこそこそと話す。


 リリー嬢はサフィアに手を繋がれていた。暗闇の中、サフィアが手を引いてあげたっぽい。流石(さすが)紳士だね。

 ちなみに俺はランに恭しく手を引かれて来ましたよ。だってなにも見えないし。


 あとメラルドが使った剣はソラの転移によるものだ。

 仮面舞踏会は武器持ち込めないからね。事前にメラルドの剣を預かって会場に隠してもらった。勿論(もちろん)、俺も愛用の剣を装備してますよ。



 暗闇に目が慣れだし、会場の数人が動き出そうとした時にそれは起こった。

 

「誰が呼んだか、呼ばれたか」


 高らかに澄んだ声と共に一人の女が舞台へと現れた。

 異様な光を纏ったその人物の登場に、新たなる騒めきが会場へと広がる。



「美少女仮面、ここに見参!!!罪のない人や魔獣を商品にするような悪党共は、月に代わっておしおきよ!!」


 ○ーラームーン的な決めポーズを作って名乗りを挙げたのは、勿論(もちろん)リリアだ。他にもあんなことする子が居たら溜まったもんじゃない。


 誰が呼んだか、呼ばれたかっていうか……確実に誰も呼んでねぇし。

 光を纏ってっていうと、後光が差してるみたいな聖女とか英雄的な登場をイメージするかも知れないが、そんなことはない。


 舞台の中央に堂々と立つ彼女は……蛍光緑に全身が光っていた。

 リリアの異能、『発光』によるものである。


 水色のドレスを纏い、金の装飾や銀のラインストーンが散りばめられた派手な赤の仮面で目元を隠した女。それだけならばこの仮面舞踏会に置いて異質ではないが、そのドレスから覗く手足や顔は暗闇の中、蛍光緑に発光してる。


 端的にいって、異様である。


 そんな異様な女が、なにやらポーズを決めて高らかに名乗りを挙げたこの状況、観客達が騒めきに包まれるのも無理はない。


 ちなみにリリアは普通に歩いて舞台へと上がった。そして檻の前へ立った。そこで異能の発動。

 別に突如現れたわけでもなんでもない。暗闇の中、発光していない彼女は誰の目にもつかなかっただけだ。


「「「「………」」」」


 そして舞台袖でそれを眺める俺達の反応は無言の一言に尽きる。

 目的も忘れ、思わず無言で見入ってしまったのは仕方のないことだと思う。不可抗力だ。


 俺が思わず項垂(うなだ)れ、痛む頭を押さえたのも不可抗力。


 そーいや、ベアトリクスが「リリアが鏡の前でなにやら不思議なポーズの練習をしてますの」って言ってたわ。

 いつもの奇行と流されてたがこれか……。

 あの子、何日も前からこんなアホなこと考えてたんかい!


 そもそもパクリは止めようぜ?異世界だからほとんどの奴、元ネタしらねーけどよ。

 しかも仮面つけてんのは紳士の方じゃねーか!とか、なんかアレンジ加わってるし!とか。自分のこと堂々と美()()って言うな!……等、流れるように突っ込みが止まらない。

 もうヤダ、マジで助けてリフッ!!それかメイド長ー!!俺じゃあの子は手に負えないって!


 確かにリリアは可愛い。

 顔立ちは整ってるし、その言動から年齢より若く見える。それは認める。でも実際は、この世界の成人をとっくに迎えたもうすぐ20歳……()()は卒業しようぜ?と俺は温い視線で彼女を見つめた。


 囮としてはある意味盛大にリリアが活躍している間、呆れた、だけどもはや達観した表情のソラがせっせっと仕事をしてくれている。暗闇に紛れ、売り値のついた檻やこれから運び出される予定だった檻に触れ、あらかじめ決めていた場所へ転移を行ってくれているのだが……観客だけでなくもはや俺らの視線もリリアに釘付けだった。


 痛い程の沈黙。

 それを破ったのはランのこの状況に似合わないおっとりした声と、歓喜を滲ませたメラルドの声だった。そしてリリー嬢の壮絶な心の叫び(これは聴こえたの俺だけだけど…)。


「ふふ、確かに注目、独り占めですね」


 口元を軽く押さえ、おっとりと笑えるランの感性がわからなかった。

 注目独り占めは認めるけど、アレ見てよくそんな微笑まし気に笑ってられるな。すげーよ。


「すっごい!恰好いいですね!!」


 メラルドはまるでヒーローショーを見た子供みたいに興奮した様子だ。

 恰好いいか、アレを恰好いいというか……。俺はお前の感性もわからないよ。


『リ、リリアさーーーーん??!!なにやってんですかーーーー???!!!』


 そしてリリー嬢、キミのその感想には全力で同意する。

 でも声こそ抑えてるけど、表情が取り繕えてないから。脱げちゃってるから、ヒロインの皮。サフィアたちに気づかれる前に被って、被って。


 もはや全てが突っ込み対象の気がしてならない……一周回って冷静になった頭で見守る視線の先、リリアは相変わらず絶好調だ。


「とっておきの忍法をお見せしましょう!!」


 数歩歩いたリリアはジャジャーン!!という効果音が聞こえそうな動作で、右手を高く斜めに掲げ、背後の檻を指し示した。蛍光色に発行してる彼女の灯りで、その手と身体に照らされた部分だけがぼんやりと浮かび上がった。


「忍法……」


 両手を胸の前で組み、人差し指を立てた忍者お馴染のポーズをとったリリアはなにかを言い掛け……不自然に止まった。


「イッツマジックっ!!!!!」


 そして高らかな声をあげ、ババーン!と両手を広げた。


 ……忍法じゃなかったんかいっ?!


 思わず裏拳による突っ込みが炸裂しそうになった。

 危ない……。咄嗟に動きかけた右手と声を抑えた俺は超偉いと思う。


 あれは多分、続く言葉が思いつかなかったんだろうな。俺も空蝉(うつせみ)の術とか分身の術とか有名なのしか思いつかんし。

 でもポーズ練習してたなら台詞も練習しとけよ!

 そもそもなんで美少女仮面から忍法が出てきたのかも謎。意味不明感ハンパない。


 そしてそんな動作と共に突如として大きな檻が消え、そして謎の美少女仮面の姿も舞台からは消えていた。


 実際は暗闇にまぎれて壇上へと進んだソラが見えない位置から檻に触れて転移し、それから発光を解いたリリアも回収しただけだけど……。



 とりあえず、突っ込みどころ満載のショーはひとまず終了したようです。


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[一言] 混沌がすぎる
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