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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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89/210

恋人ではない

時間が少し戻ります。



 身支度を整え、明らかに乗り気でない様子で現れたのはソラだ。


 黒を基調とした衣装は全体的にシックな印象ながらも、仮面舞踏会ということを意識して金の装飾がふんだんに取り入れらえた華美な仕上がり。


「似合うじゃないか」


「そりゃドーモ」


 彼は気の無い返事を返し、手に持った仮面を弄ぶ。

 仮面も服と同じく黒と金を基調としたもの。黒地のマスクを金の縁取りと細やかな装飾が飾り立てる。オペラなどでもお馴染の、目から鼻の顔の上部だけを覆うデザインのハーフマスクだ。


 匿名性は若干(じゃっかん)低いが、喋りやすく飲食も出来るデザインは手が出しやすい。


「幽霊」を意味する真っ白なフルマスクはなんか怖いし、華やかな装飾の「道化師の仮面」や「貴族の仮面」はまだしも、(くちばし)のように鼻先が長い「ペスト医師」なんかは怖い上に邪魔臭いことこのうえない。

 中でも怖いのが「無言」とか「暗い」「黒」などの意味を持つ女性用の仮面だ。目の部分だけに穴が開いた真っ黒な円形で、なによりその仮面の装着方法が凄い。裏側についた突起物を口で咥えることで装着。つまり、喋れない。装飾性も一切ない真っ黒、のっぺりな黒い顔して常に無言。もはや恐怖しかない。



「お待たせ致しました」


 おっとりとした声がかかった。

 声と共に部屋へと入ってきた人物に「わぁ!」とベアトリクスが歓声を上げる。ガーネストやリアンに至っては口を開いてポカンとしているし、気持ち的には俺らも同じだった。


「支度に時間がかかってしまって申し訳ありません。ではソラさん、お願いしますね」


 (たお)やかに手を差し出す美人に、つられたようにソラも手を出す。


「ではカイザー様、行って参ります」


「ああ、気をつけて。ソラ、ラン、手筈通り宜しくね」




「さて、と。そろそろ時間かな」


 壁の時計を見上げてソファから腰を上げる。そしてそれと共に背の高い男が一人入ってきた。


 硬質そうな黒い髪に刃のような切れ長の瞳。均整の取れた体躯を黒い礼服に隠した端正な男前は……言わずと知れた我が家の忍者筆頭・ハンゾーさん。


「君の素顔なんて久しぶりに見たな」


 思わず笑みを漏らし「似合ってるよ」とそう告げる。

 お馴染の黒装束を脱いで、口布も取ったハンゾーなんて超貴重だ。そして普通に似合ってる。普通にイケメン。


 気まずそうに礼を言い、装着されるシンプルな黒のアイマスク。

 素顔の披露は超一瞬でした。


 賛辞に礼を述べつつも、慣れない服装に落ち着かないのか首元を気にする彼へと手を伸ばした。タイを緩く引き、首元のボタンを一つ二つ緩める。不思議そうにこちらを見るハンゾーに構わずタイを整えた。


「少しぐらい崩してても構わないよ。サマになってさえいれば問題ない」


 一見ムキムキには見えないが、実は鋼のような筋肉を持つ細マッチョなハンゾーだ。背丈のサイズはあってても微妙に首元が苦しかったんだろう。

 筋肉がつかない身としてはなんとも羨ましいことだ。



 そんな遣り取りをしている内に、ソラが不意に部屋へと現れた。

 そして俺達はその手を取る。

 一瞬後に俺達の姿はそこにはなく、部屋には見送るリフたちだけが取り残された。




 騒々しい程に賑やかな音楽が鳴り響く空間。

 重厚なカーテンの奥、俺達はその場へと脚を踏み出した。


 手に持っていた緑の仮面をソラへと渡し、代わりに受け取った黒地に金の仮面を顔へと付ける。これで準備は完了だ。


 舞踏会の招待状は三枚。

 まずは三名が女性のペアを伴い、招待状を使って仮面舞踏会へと侵入する。メンバーはソラ、サフィア、メラルドの三人。そしてペアはラン、リリー嬢……そして、リリアだ。


 元々リリアは参加の予定はなかったのだが……。

 今回の計画をしている最中、リリー嬢が一緒に行動することを知って名乗りを上げた。まだリリー嬢が俺狙いだという勘違いを継続中のようだ。

 女性の人員は必要だったこともあり許可したが……ぶっちゃけ、不安しかない。


 話を戻すが、招待状を使い無事に潜入したソラが俺達を転移で呼び込む手筈となっていた。


 入口での照会を過ぎ、中へ入りこんでさえしまえばあとはなんとでもなる。男女が秘事を楽しむような部屋や場所も、人目につきにくい死角はそこかしこにある。

 

 そして俺とソラが交代する。

 実はソラは俺と同じ恰好をしている。つまりは影武者、背格好はわりと似てるしね。今日のソラは髪も簡易的に黒く染めているし、多少の長さの違いはあれど仮面をしてしまえばパッと見ではわからないだろう。仮面を交換すれば入れ替わり完了。

 まずソラを潜入させしまえば、転移で応援呼び放題だしね。便利ー。


 通りがかったボーイからシャンパンを受け取り、あたかも舞踏会を楽しんでいる風を装いながらも貸し切ったボックスへと向かう。

 そこには一足先に侵入を果たしていた皆が居た。


「あっ!カイザー様!!」


 元気に呼び掛けてくるメラルドをサフィアが慌てて止める。

 バタンっ、と少々乱暴にドアを閉め、扉に凭れ掛かって大きく溜息を吐いた。


「メラルド様、駄目ですよ。個室とはいえあまり大きな声は控えて下さい」


 サフィアの注意にあっと口元を覆うメラルド。


「頼むから、外で名前を呼ばないでくれよ?」


 げんなりと頼む。

 潜入中に名前呼ばれるとか一発アウトだから。

 仮装の意味がなくなるからお願いだからやめてね。やりそうで怖い……。


 そんなメラルドはリリアとペアだ。

 何?この不安しかない組み合わせ……。大丈夫かな??

 それはリリー嬢の守りを、安心できるサフィアに任せた結果だから仕方ないんだけどさ。


 そんなメラルドはまさかの「ペスト医師」の仮面だった。しかも服はわりと華やかな色彩。明るくシュールなちょっとよくわからない感じの仕上がりだった。

 本人(いわ)く「この仮面、恰好良くないですか!」と……その感性もちょっと不明。


 一方、サフィアは長い髪を高い位置で一つに括り、銀と蒼のストライプの衣装に羽飾りのついたハーフタイプの仮面をしている。顔の半分が隠れていても全然麗しさを隠しきれていない。美形は仮面をつけてても美形だった。


 女性陣はそれぞれ華やかなドレスに、豪華な装飾の施されたハーフタイプの仮面だ。


 もう散々話し合ったが、ざっと段取りを話し合う。


 計画はこうだ。


 まず仮面舞踏会に侵入したハンゾーたち影数人は、別行動で会場から主催者ら邸宅の方へ潜入し、彼らの捕獲と護衛の無力化。あと諸々の悪事の証拠やら情報収集を行う。

 そして時間が来たらサスケが会場の光源を落とす。


 暗闇に乗じて俺やサフィア達は舞台裏へと向かい、()()の運搬と見張りを兼ねている連中を無力化。その際、注目を集める囮役をリリアが務め、ソラが被害者たちを転移で逃がすというシンプルなものだ。


 その後はサフィアたちとは別行動となる。

 彼らとソラは舞踏会へと戻り、俺達はハンゾーたちと合流する。


「サフィア様達は無理はしないで下さいね」


 招待状を使って入り込んでる彼らは、帰りも正規のルートで会場を出なくてはならない。なのでなおさら危険な目に合わせるつもりも、目立たせるつもりもない。

 そもそもこのイベント(?)、ゲームではヒロインたちの出番はないのだ。


 ジストルートで真相解明へと一役買うこの仮面舞踏会だが、実際には後日人身売買の被害関係者から話を聞き、ライの情報を使って組織を辿るストーリーなので実際に潜入はしていない。

 とはいえ、被害者が出るのを知っていて見過ごす気もない。それ(ゆえ)の潜入だ。


 ぶっちゃけ、影だけでことは足りそうな気もするのだが……。

 ハンゾーたちが別任務があることと、多くの人質を庇いつつの交戦となる可能性もあるから人質を逃がすまで協力してもらうことになった。


 あと一番の理由は…………今回の潜入で事件は大きく前進するし、そうなると本来起こる筈だった他のイベントが発生しなくなる恐れがある。なので代わりとしてヒロインたちを関わらせておこうという理由もあったりする。


 最近、ヒロイン不在でストーリーを進めがちだからね………。


「カイザー様、あのっ……」


 ちらちらと俺の隣のランを気にしつつ、リリー嬢が声をかけてきた。


「カイザー様!カイザー様!私、頑張りますからね!!」


 そしてそんなリリー嬢に被せるように、大きな声で話しかけてくるリリア。

 

 おいこら、だから大きな声出すなって言ってんだろうが!


「ちょ、リリアさん」


「なんですかーリリー様?今は私がカイザー様とお話ししてるんです」


 いや、確実にリリー嬢の方が先に話しかけたからな?


「カイザー様は渡しませんからっ!大体、今日のリリー様には、サフィア様っていう素敵なパートナーがいるじゃないですか。浮気は駄目ですよ」


「浮気なんて……。大体、パートナーだったらリリアさんだってメラルド様が居るじゃないですか」


 いつだかのように俺の腕を掴みつつ宣言するリリアに、リリー嬢もむっと身を乗り出して反論する。


 止めて。俺を挟んで争わないで。


 端から見れば俺を巡った痴話げんかだが……リリアはベアトリクスの悪役令嬢フラグを阻止したいだけだし、リリー嬢は攻略キャラの好感度上げたいだけだしね。

 そもそもフラグも好感度も、俺は隠しキャラじゃないっつーの。


 サフィアはオロオロしてるし、メラルドやソラは楽しがってるし。


 ここにリフが居ないのが辛い。助けてリフ!

 屋敷の守りとマオの子守に置いてきたことが心底悔やまれる。


「あらあら、モテモテですね」


 心の中でリフに助けを呼んでいると、すぐ隣から助けが現れた。

 声の(ぬし)(たお)やかな笑みを浮かべたランだ。ランはそっとリリアの手を外し、俺を僅かに引き寄せる。


「でも駄目ですよ?カイザー様は今日は私のパートナーなんですから」


 (たしな)めるように二人に告げて、「ねっ」とこちらを見上げて微笑む美人。

 そんなランを見て、目を見開いたリリー嬢から心の叫びが漏れた。



『だ、誰なのよこの美人っ?!もしかして、カイザー様の恋人ーーー??!!』



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