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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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86/210

お膳立て感ハンパない  

 


 脳裏に声が木霊(こだま)する。



 なんの感情も読み取れない声音。

 だけどそれは、様々な感情を押し殺したが(ゆえ)のようで。


 その真意を問うことの出来なかった言葉が、一人になっても頭の中に奇妙に刻み込まれていた。




「……えいっ!」


 重みを携えた右手を突き出した。

 突き出した先は彼の頬、重みの正体は持ち上げたカマルの手だ。


「……」


「……」


 数秒の沈黙。


「……なにがしたいの?」


「肉球パンチ」


 問いかける彼にぐいぐいとカマルの手を押し当てる。

 魅惑の肉球の感触に癒されてか、俺の行動に呆れてか、一瞬前までの何処(どこ)(いびつ)で張りつめた空気は霧散していた。多分後者。


「……なんの為に?」


「この弾力。綺麗なピンクのプニプニ。素晴らしくねぇ?元気が出るかと思って」


 瞳も表情も見えないけど、呆れてるのが雰囲気で伝わった。


「このプニプニに感動しないなんて……さてはお前、犬派?」


 そして犬派といいながら思い浮かんだのは、トイプードルでも柴犬でもなく、某ワンコな少年だった。

 あいつに肉球はない、とあまりにも自然に思い浮かんだ連想に頭を振る俺を胡散臭(うさんくさ)げに見つめる視線が痛い。



 我ながらアホな遣り取りを思い出して、一人廊下で息を吐く。


 聞き出すべきだったのかも知れない。

 向き合うべきだったのかも知れない。

 いっそ、彼に触れて心の声を聴く(すべ)だってあった。


 だけど、感情を見せないその声は酷く痛みを孕んでいる気がして。


 触れてしまえば、踏み込んでしまえば血が流れてしまいそうな……そんな予感がして、とても触れることが出来なかった。


 だから誤魔化(ごまか)すように煙に巻いた。

 肉球パンチで元気が出ればと思ったのも嘘じゃないけど。



 その後も穏やかに日々は過ぎた。

 マオが魔王かも知れないことは、とりあえず疑惑は俺の心の中だけに留め、育児と仕事を両立する日々を送る。



 その日の夜会は一段と盛大だった。アンジェスの末裔である少女たちが、学園外で初めて公の場に登場した夜会には多くの貴族たちが訪れていた。

 隠しきれない好奇と値踏みの視線を注がれる少女の片割れ、リリー嬢が緊張に頬を染めながらドレスの胸元を押さえて恥じらう。


「こんなドレスも宝石も、身につけなれてなくて……恥ずかしいです」


 上目遣いに照れと不安を醸し出すその姿は可愛らしい。

 姿としては大変可愛らしい……が、こちとら引き攣る頬を隠すのに精一杯だったりする。


 このシーン、非常に覚えがある。

 あれだ。以前ちょっと触れた、攻略対象者がヒロインの身につけている宝石がレプリカだと見破る場面、それがこれ。

 現にリリー嬢の手が例のレプリカに触れながら『気づけ、気づいて!』って圧を醸し出してるしね。


 ヒロインは攻略対象者の誰にこの台詞を言ってもいいのだが……。

 何故(なぜ)俺を選んだと問いただしたい。


 いや、理由は知っている。

 隠しキャラだって勘違いしているうえ、ジストの件とかヒロインそっちのけだからなんとかストーリーに関わろうと必死なんですよね。後半は素直にすまん。

 

 でも俺はゲームに関係ないんです!!

 どうする?どうすればいい??


 内心ダラダラと汗をかきつつ、さもなにかに気づいたように瞳を軽く見開く。


「その、宝石は……」


 考え込むように指を顎に当て、逡巡(しゅんじゅん)した後に微笑んでドレス姿を褒めた。他愛無い会話を交わした後、去り際リリー嬢の耳元でそっと囁く。


「少し、お話ししたいことがあります」


 見えないように小さくガッツポーズをしたリリー嬢には気づかないふりをした。



 本当はスルーして攻略対象者の誰かに指摘して貰いたいのだが、生憎(あいにく)周囲に彼らは居ないので仕方がない。

 居たら無理矢理話を誘導したのに……。

 離れた場所で談笑したり、ダンスをする彼らを遠目に覚悟を決めた。ここでストーリーを回収しないわけにもいかない。


 結果、俺が宝石がレプリカであることを指摘してリリー嬢が大袈裟に驚く……という実にワザとらしい猿芝居が繰り広げられましたとさ。



「酷なことを頼んでいるのはわかっているわ。だけど貴女たちにお願いしたいの」


 凛とした佇まいで真摯な瞳を向けるのは、同じく転生者であるティハルトの母上。息子であるティハルトが王位を継いだ今、皇太后の地位に在られる方だ。


 皇太后様主催のお茶会。

 招待客はメインであるリリー嬢とナディア嬢。そしてガーネスト、サフィア、メラルド。息子であるダイアの攻略対象者組。

 そして俺とベアトリクス。

 モブである俺と悪役令嬢のベアトリクスが浮いてますね。


「私は貴女たちを、いいえ、この国の民を守りたい。危険を伴うのは理解しているわ。だけど後手に回るばかりでは事態は解決しない、どうか協力してくれないかしら」


 本日の議題、 “ストーリー回収”。


 勿論(もちろん)、大っぴらにそんなことを議題に上げてはいない。

 表向きは宝石のレプリカや魔獣の乱獲、アンジェスの末裔である二人を狙う不届き者対策への協力要請など。


 皇太后様はずっとこの機会を狙っていたんだろう。

 先日の夜会まで二人は公の場に出たことはなかった。その状況で城に招いては周囲の要らぬ憶測や好奇心を掻きたてる。

 元々特殊な環境にいる二人だ。王家が興味を持つのはさほど可笑しくないし、しかも息子の友人。夜会で顔合わせを済ませた機会なら社交辞令も兼ねて茶会に誘うのは可笑しなことでない。


 そして先日の夜会で初めて公に姿を見せたことで、貴族の注目が一層二人に集まっていることを憂いた態で茶会を決行。

 さらにはリリー嬢が身に着けていた宝石がレプリカであったこと。実はそれらで資金集めをしている闇組織があるかも知れないこと。ジストから聞いた魔獣被害の話……。


 それらを上手く繋ぎ合わせて攻略対象者へ協力を仰ぎつつ、その組織が二人を狙っているかも知れないことを示唆し、囮を兼ねての協力要請というわけだ。


 ちなみに、囮を兼ねてっていうのは……半分本当で半分建前だ。二人が狙われてるのは事実だし、その大元を捕らえたいのも本当。


 だけど、一番の理由は……。


『なんとかヒロインちゃんたちを絡ませなきゃ。カイザー君のお蔭でジストの件はさくさく進んでるのはいいけど、肝心のヒロインちゃんがストーリーに関わってないじゃないっ!!』


 これである。


 皇太后様の心の叫びの通り、(よう)は問題の解決の手伝い&二人に囮を頼み、かつ周囲に護衛を頼むことでヒロインと攻略対象者を一緒に行動させよう!!という目論みだったりする。


『話を聞く限り、今のところ特定の誰ルートも進展してなさそうなんだけど……。誰狙いなのかしら?出来ればストーリーが未知数なカイザー君ルート以外がいいんだけど』


 チラリと投げ掛けられる視線に、ブンブン首を振りたくなるのを抑える。


 いやいやいや、そもそもカイザールートないんで。

 ヒロインも攻略対象者も抜きで事態を進めたことは反省してますが、ジストのあれはブチ切れ案件故の不可抗力です。

 その後の展開は、貴女の息子と騎士達の数の暴力による巻き込まれですよ?俺の所為(せい)じゃないです。


 転生者でストーリーを戻したい皇太后様の提案に、同じく転生者かつ当事者のリリー嬢は内心歓喜を滾らせつつ協力を申し出た。ナディア嬢は乗り気ではないものの、その優しい気質から魔獣被害などに心を痛め控えめに同意してくれた。


 ちなみにこの場にアレクサンドラが居ないのは、王家が主導で他国の王子を積極的に巻き込むわけにはいかないからだ。

 逆に悪役令嬢のベアトリクスが同席してるのは、彼女をこっち陣営に入れておこうという配慮だろう。皇太后様はベアトリクスをダイアの将来の嫁として可愛がってくれてるからね。有り難や。


 そして俺?


 皇太后様にも隠しキャラ認定されてるからですがなにか?

 つまりは勘違いでモブが紛れこんでるだけですね。残念ー。


 王家主導で巻き込むわけにはいかずとも、あっちから巻き込まれてくるのは構わない。ということで、この件は別にアレクサンドラたちには内緒ではない。

 (むし)ろリリー嬢とか積極的に話振るんだろうな。そして奴らもきっと仲間入り。


 ジストにも今度皆を引き合わせるように皇太后様に言いつかってるし……半強制的に巻き込まれつつ、ストーリーがどんどん軌道修正されていきます。



 そして囮作戦を兼ねて、外出したある日。

 リリー嬢が行きたいとやってきたこの場所……。



 わぁー!この場所知ってるーー!!(棒読み)




※本物の虎さんの肉球はザラザラで硬いらしいです。色もあんまりきれいなピンクっぽくない。

でもカマルくんの肉球はピンクのぷにぷに!設定です。

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