子育てに最強の能力
我が家の一員が増えました(暫定)。
「おはよう、マオ」
ベビーベッドを覗きこめば、きゃわきゃわと笑いながら小っちゃな手を伸ばす赤ちゃん。
名前はマオ。
魔族の育て方なんてわからん!!と思ったものの、基本的には人間の子供と同じで大丈夫っぽい。一時はどうなることやらと思ったが、拍子抜けするほど平和な日々が続いていた。
ベアトリクスの小さい頃のグッズをとっておいて良かった!
ベビーベッドにベビー服、想い出深くて捨てられなかったそれらがまさかの大活躍です。
ジストに尋ねたところ、食べ物は「なんでもいい。肉でもやっとけ」とのことだが……赤ちゃんに肉は抵抗があるので、なんでもいいならと普通にミルクをあげてるが特に問題はないっぽい。もう少し経ったら離乳食とかあげてみようかな。
一番恐れてた暴走だが、それも今の所は大丈夫だ。
激しく泣き喚く時に偶にポルターガイストのような現象が起こるのだが、俺やリフ、それかベテランメイド長で子育て経験もあるマーサがあやせば大抵すぐに収まる。
なんで俺やリフも入ってるかって?
弟と妹をあやした日々で子育て経験はバッチリだからですがなにか?
むしろあの頃よりも今はさらにパワーアップしている!
何故なら……。
「きゃあぁー!!」
『お腹すいた~~!!』
子育てのお悩みの一つ、赤ちゃんがなんで泣いているのかわからない。
それがあの謎の心の声が聴こえる能力によりほぼわかる。まだ赤ちゃんだからか、簡単な感情が伝わる程度しか聴こえはしないのだが、なんとなく意味がわかるのだ。
俺、最強じゃねぇ?
主に子育て的な意味で。
もはや、この能力は天性の子育てスキルかも知れない!!
両手を高く上げて、抱っこをねだるマオをそっと抱き上げ、軽く揺らす。
「お腹がすいたのか、ごはんを貰いに行こうね~」
食堂へ向かえば、すぐさま部屋に居たガーネストやベアトリクスが寄って来た。当初はやや遠巻きにしていた彼らも今やマオにメロメロだ。
暴走の危険性も考慮し、基本は俺の部屋で、常にリフ達が付き添い面倒を見ていた。だがどうやらあやせば暴走の危険はほぼなさそうなので、少しづつ活動範囲を広げたところ……物珍しい赤ちゃんの存在と可愛らしさに我慢ができなくなったらしい。興味津々で近寄ってきた。
最初はおっかなびっくり赤ちゃんに接していた皆も今やデレデレ。こうして姿を見せる度に寄ってくる。ガーネストやベアトリクスだけでなく、大人しいリアンやサスケも興味深々だ。子供組は赤ちゃんを見慣れてないから余計なんだろうけど。
そして影の皆はあまり姿を現しはしないんだけど、気づくとそっと子供用の玩具が置いてあったり……ごんぎつねか。
つまり、マオたんは我が家のアイドルです。
「マオー、元気か?」
「お兄様、私がミルクをあげてみてもいいですか?」
ぷにぷにほっぺをツンツンしたり、差し出した指を小っちゃい手で掴まれて歓声を上げたりする弟妹たち。かわゆす……ここは楽園か?天使しかいない……。
明らかに覚束ない手つきでマオを抱き上げるベアトリクスに抱き方をレクチャーし、リリアから受け取った哺乳瓶を頬に当ててから手渡す。
「それはなにをしてますの?」
「人肌の温かさか確かめてるんだよ。あまり熱すぎては駄目だから」
成程、と頷いたベアトリクスが真剣な顔で真似をする。哺乳瓶を頬に当て熱さを確かめ、たどたどしくマオにミルクを飲ませている姿が微笑ましい。
「兄上は来週から復帰されるのですか?」
「その予定だけど……」
現在、俺は休職中だったりします。
まさかの人生初の育児休暇ですよ。……自分の子じゃないけど。
ジストの話だと、一週間程度で意思疎通可能なまでに成長するだろうという話なので、余裕をもって10日間の休みをとった。
ちなみに、学園へマオを連れて行く許可も念のためとった。
お世話がいつまでになるかもはっきりわからないし、最悪、授業中はリフが面倒みててくれる。
理事長はびっくりしてたけど……俺がこの子の面倒を見ることを決めたのは最終的にはティハルトだし、王命とあれば拒否も出来なかったんだろう。
「マオが大きくなったらどうしますの?」
問いかけるベアトリクスも、その他の面々もなにか訴えるように真剣な眼差しだ。
あれだ。仔犬を拾ってきた子供が、
「お母さん、面倒みるからウチで飼っちゃ駄目?」的な雰囲気がバンバンしてます。
可愛いもんね、気持ちはわかるよ。物凄く。
そうなんだよねー、成長したマオをどうするかが大問題。
そもそもどの程度成長するかっていうのもあるし。成長したとて、歩行が出来て言語が喋れる程度の幼児みたいな状態ならそのまま放り出すのも気が引ける。
ジスト曰く、「どうにでもなるし弱ければ死ぬだけだ」って言うけど、こっちとしてはそんな簡単に割り切れない。
「とりあえず、マオと話をしてみてかな。安易に決められることでもないし」
可愛いからといって無責任に決められることでもない。
心配そうに小さな頭を撫でる弟妹、そして無邪気にきゃきゃと笑うマオ。彼らを見ながら、ここ数日ずっと頭を占めてる今後の方針について……今日も頭を悩ませる。
まず大切なのは情報収集。
……ということで、学園から帰ったガーネストはアレクサンドラとシリウスを伴っていた。
彼らの訪問は俺が頼んだものだ。だって他に魔族について詳しい人間なんてそういないし。
「わざわざお越しいただいて申し訳ありません」
学園帰りに立ち寄ってくれた二人を丁寧に出迎える。
「いや、構わん。といっても、余もあまり役に立つ知識は持っていないのだが。先日母上に手紙を送ったのでもうすぐ返事が来る筈だ」
「有難う御座います。お母上にも宜しくお伝えください」
お茶をしつつ、アレクサンドラが幼い頃のことや魔族についての生態や言い伝えについて話を聞いた。
魔人には人型の魔人も、ジストのように普段は違う姿を取っている魔人も居るそうだ。
そもそも魔人とは魔族の中でも上位種で、その中でも自然発生した種は強い力を有すること。
狩りをして獲物をそのまま喰らう者も居れば、人間の食べ物を好む者もいること。
アレクサンドラの母上のように、人間と結ばれた魔人は強い力と長い寿命を失うこと。
そんな様々な話を興味深く聞く。
他国より余程魔人と縁が深いジャウハラだが、それでも自然発生した魔人を見るのは彼らも初めてらしい。そして人間がその魔人を育ててるなんて前代未聞。故に子育てについては不明のまま。
それでも魔人の子として生まれ、子育て経験のある母親でもあるアレクサンドラの母上から近々手紙を頂ける予定だ。あまりにも色んなことが手探り状態のため、マオを引き取ってすぐにアレクサンドラに仲介を頼んだのだ。
なにせジストが子育てについて役立たず過ぎたからな!!
書籍とかも漁ってみてるけど、魔人の育児本なんて当然ながらないし。ママ経験者に泣きついてみた。
「可愛いですね。物凄く小さい」
「幼いのに目鼻立ちがはっきりしているな。将来は美人になりそうだ、余の妃になるか?」
そしてアレクサンドラ、協力には感謝してるけど乳幼児を口説くでない。見境なしか。
お前の嫁にはやらんからな!!
ジストが様子を見に訪れる一週間後まであと三日。




