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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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赤ちゃん、拾いました

 


 ジストの大きな手に掴まれたそれ。


 赤ちゃん、ベイビー、赤ん坊、嬰児(みどりご)……。

 どんな呼び方をしようと、この場には相応しくないその存在。


「ふぅぇっ」


 むずがる声をだす赤子に、「煩い」と無感動に言い放って手に力を籠めようとするジストから慌ててその子を奪い取った。


 そもそも赤ちゃんの頭を鷲掴みってどうよ?

 そりゃ泣くわ!俺だって泣くよ。


「この子は……?」


「だから、ソレが元凶だろう」


「……ってことは…… “魔王”っ?!」


 思わず大きな声を出せば、一斉に一同が俺の腕の中の存在を凝視する。誰の顔にも驚愕が浮かんでいた。


 それも当然だろう。なにせ抱いた腕の中で小さな手足を動かす赤ん坊は、どこからどう見ても普通の赤ちゃんでしかない。

 柔らかそうな髪は真紅で、肌は白くてもっちりしてる。瞼を閉じているから瞳の色はわからないけれど、顔立ちは整っている……女の子だろうか?


 つまり、普通に愛らしい赤ちゃんである。

 これが“魔王”?そんな疑問を含んでまじまじと見つめていると、ジストがつまらなそうに首を振った。


「いや、多分違うだろう。はじめは魔王でも顕現(けんげん)したかと思ったが……ただの少し力の強い個体だろうな。魔王と呼ぶにはあまりにも弱そうだ。それでも自然発生的に、しかも人型で魔人として生まれてきたからには、魔族としては弱くはないのだろうが。とても魔王には見えん。黒くもないしな」


 黒いことは魔王としてそんなに重要なんかい!


 ぼそりと付け足された言葉に、そんな突っ込みが喉まで出かかった。それを抑え、気になった単語を口にする。


「自然発生?」


「魔人には親から生まれるものと、自然発生的に生まれる存在がいる。親がこの時期の子供を一人で捨て置くとも思えんし、自然発生した魔人だろう」


「えっ。じゃあ、もしかして……合宿の時からずっとこの子は一人でここに?」


「いや、その時はまだ核のようなものが生まれつつあっただけだろうな。コレは生まれて間もないようだし、きっと身を守らせるために無意識にか魔術で魔獣を従えてたのだろう」


 魔族の生態が未知数すぎる……。

 アレか、自然発生って岩から生まれた孫悟空的な感じですか?ミステリー……。


「取りあえず、どうすればいいんだ?」


(しばら)く保護してやればいい。脅威を感じなければ襲ってもこないだろう。放っておいてまた魔獣を使役されるよりマシだろう」


 ディークの問い掛けにジストは事もなげに答えるが……そう簡単なことでもない。

 そもそも(しばら)くってどのくらいだ?この子が独り立ちするまで??

 生態だって不明だし、問題が山積みだ。


「なんなら俺様が預かってやってもいいぞ」


 意外な申し出に、瞳を瞬かせてジストを見れば「なんだ?」と逆に訝しがられた。


「どうせ世話など一週間も満たない。数日もあれば成長し身を守れる術くらい身につく、なにも出来ない赤子では生き抜くことなど出来ないからな。魔獣の子など、それこそ生まれて数時間で立ち上がるぞ?」


 ジスト(いわ)く、赤ちゃん期間はほんの数日だそうだ。数日後には自分でものを考え、歩行できるようになる程度に成長するのは当たり前。人間とは根本的に成長速度が異なるらしい。

 生後一か月に満たず大人の姿になる者も居れば、子供の姿のまま一生を終える者も居る。外見で年齢は図れないし、そもそも年齢の概念じたいあまりないとのこと。

 蝶やなんかで例えると核としての存在は(さなぎ)の期間、孵化(ふか)してから一番無防備な一瞬が今で、その後はすぐに飛び立てる的な感じだろうか?


「俺様のもとなら安心だし、万が一ソレが暴走しようといくらでも対処出来るだろう?」


 申し出は有り難い。

 とてつもなく有り難いのだが……。


「赤子の世話なんて出来るのかい?」


「問題ない」


 言うや否や、ジストはむんずと俺の腕の中から赤ちゃんを鷲掴(わしづか)んだ。

 ぐわしっ!と頭を掴んで吊るされた赤ちゃんは……驚いたように身体を揺らし、次いで大声で泣きだした。その泣き声に呼応するように、樹々がざわざわと揺れる。それは覚えのある反応だった。


 再び魔獣を使役しようとしているのか、暴れる赤子をジストはさらに顔の前まで持ち上げる。

 ぱちりと赤ちゃんの瞳が開かれた。大きな瞳は金緑色とでもいうのだろうか、光が反射して金を帯びたように見える緑の瞳をしていた。どこか神秘的なその瞳がジストのアメシストの瞳とバッチリとかち合う。


 …………と次の瞬間、(せき)をきったように手足を振り乱して泣きだした。

 大号泣である。どこが「問題ない」だ、むしろ問題しかない。


 コイツに子育ては無理だ。

 そう確信した俺は、再度ジストの手から赤ちゃんを奪還した。


 両の手で抱え持ち、軽く揺らしながら温かな背をゆったりとテンポを付けて叩く。涙でいっぱいな金緑色の瞳を覗きこんで安心させるように笑いかける。


「いい子、いい子。ほぅら、怖くないよ」


 慈しむように、歌うように静かに語りかければ、ぱちぱちと瞬いた瞳がほにゃりと溶けた。


「あ~、あ~、うっー!」


 小さな手がわきゃわきゃと伸ばされるのに、肩から前へ垂らした髪を背へ払う。経験上そうしないと大変なことになるのは知っているからな。引っ張られるならまだしも、最悪喰われる。(よだれ)でべっとべっとにされる。


 ご機嫌に笑いながら手を伸ばしてくる赤ちゃんは普通に可愛い。そして騒めいていた樹々も止んだ。この子の感情に反応してるのは確かなようだ。


何故(なぜ)、急にご機嫌なんだ?俺様の時は大泣きしたくせに」


 不満気なジストに、「それはお前の扱いが悪いからだよ!」と心の中で返す。

 あれはどう見てもジストが悪かった。むしろ泣かない方が可笑しい。

 ご機嫌になった赤ちゃんに笑いかけていると……いつの間にか周囲の視線が集まっていた。

 

「その子の世話するの、お前が適任じゃねぇ?」


 ディークがぽつりと呟き、騎士達が大きく頷いた。

 そんなこんなで、またしても数の暴力により俺が保護することに決定されたのでした。


 俺の人権ってどうなってんの?


 そしてなにより、魔族って何食べるかわかんないんですけどー!?



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