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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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80/210

まさかの俺の所為でした


 

「では、ご用があればお声掛け下さい。お休みなさいませ」


 まるで見本のように綺麗な動作で腰を折るリフを見送り、座った体勢からベッドへと後ろに倒れ込んだ。


 背を包み込む弾力はさすがの最高品質。

 自室のベッドに勝るとも劣らない寝心地は最高だが、いかんせん使い慣れたそれとは違い違和感を感じずにはいられない。

 そんな俺は外泊では眠りが浅くなるタイプだ。


 そしてここは友人宅。

 もとい、王城の豪華な客間。


 騎士と一緒に王城へドナドナされ、そのまま拘束された。


 あ、犯罪者的に捕まったわけじゃないからね?


 ティハルトに事情説明した後でなんやかんやと事後処理に巻き込まれ、お説教っぽいお小言やらなにやらの末に夜になったのでお泊りです。


 ティハルトにはめっちゃ怒られたし呆れられた。

 そしてアイリーンには超笑われた。


 (おも)にガチ切れして黒竜に挑んだ件で。

 そして黒竜をビビらせた件。


 つまりアレです。

 ソラと同じく、人としての駄目出しですね。


 そして王城で出会った貴族たちにドン引き&めっちゃビビられた。いつもやたら突っかかってくる奴らすら、顔を真っ青にしてそそくさと逃げ出す始末。

 嫌味言われるより、化け物見たような目の方が傷つくんですけど……。


 ぽけ~っと豪華な模様の施された天井を眺めつつ、なんやかんやで今日は疲れたんでベッドに潜り込んで瞳を閉じた。頭が沈み過ぎて落ち着かない……使い慣れた枕が恋しい。




 晴れた空。

 澄み渡る空気に心地よい風、暑すぎも寒くもない気候。


 そして厳ついお兄さん&オジさんたち。


「なんだそいつらは?」


 俺の後ろに立ち並ぶ男達を見て、ジストが胡乱気(うろんげ)に瞳を細めた。ガタイもよくてワイルド系だからそんな表情も良く似合う。中身チキンだけど…。


「この国の騎士だよ。同行の命令が出てる」


 晴れ渡るピクニック日和、野郎共だけで楽しくない山登り決行の巻である。


 なんでこんなことになっているかというと……。

 例の魔獣の大量発生の調査に伴い、合宿で訪れた森へ向かうことが決まった。そして以前の魔獣発生の規模から危険性を考慮して、屈強な騎士様方が任務に赴くことになった。


 それはいい。

 騎士が陛下に任務を与えられる、それは理解出来る。


 ここで疑問です。

 なんで俺、此処(ここ)に居んの?


 黒竜と面識あるとはいえ、別につなぎだけで良くない?

 いやさ、騎士団派遣される決定前は、言い出しっぺだしジストとの行動は想定してましたよ?でも正式に騎士団の派遣が決まった今、同行の必要ある??


 我、騎士でもない公爵家ぞ?


 非戦闘職なうえに、なんなら職業でいえば音楽教師ぞ?


 疑問のままに、今回の引率の責任者でもある副団長のディークへと問いかけてみる。


「どうして私も同行者に加わってるんでしょう?」


「そりゃあ、危険性を考慮してじゃねぇの?魔獣はともかく、黒竜も居るわけだし。いくら騎士でも竜には挑まねぇから。剣で竜に挑むような、ぶっとんだ音楽教師サマの出番だろ」


 ……遺憾である。


 ちなみにこの決定は勿論(もちろん)、我が友ティハルトの下したものだ。

 あの日、城へ連行されて今後の方針を決めた際さらっと命令された。そして周りの奴らも全面同意。


 竜との同行に引き()ってた騎士団や心配の声を上げる面々に、ティハルトが「じゃあお前も行け」と顎で指示した途端に全員諸手を挙げて賛成しやがった。

 当事者の意見は完全無視な、多数決という数の暴力だった。


 そして本来なら音楽室でピアノと向き合っている筈だった俺は、学校を休んでむさ苦しく男だらけのピクニックに強制参加というわけだ。わー帰りたーい。


 小枝や落ち葉を踏みしめながら歩くこと数十分。

 以前の魔獣の大量発生場所へ向かっているため、道案内も兼ねて先頭を歩く俺に、隣にはリフ。いつもの一歩後ろでなく、ジストとの間に入る形で隣を陣取ってらっしゃるのは、有事の際には盾になって下さる気が満々ですね。


 あざーっす!!

 その静かな佇まいが頼もしすぎる。


 ちなみにディークとあの二人程の騎士の他は、少し距離を置いて歩いてたりする。何故(なぜ)ならジストがぞろぞろと人間が居るの嫌がったから。鬱陶(うっとう)しかったみたい。


 顔は振り返らずに、視線だけでディークや後方の騎士たちを見遣ったジストが不満気な声を出した。


「大体、こんなぞろぞろと人数を連れてくる必要がどこにある?」


「危険性を考慮してだ」


 ディークの答えにフンとバカにしたように鼻を鳴らす。


「それは魔獣の群れにか?それとも俺様にか?」


「……………お前ではない、魔獣の群れにだ。俺達は王国の騎士。国民をひいては王国を守ることが役目だ。お前の話が本当で、かつお前に危害を加える意思がないのなら、お前の敵にはならない」


 挑発に乗ることなく真っすぐに自分を見て答える人間を、ジストは少し面白そうに見たあと肩を竦めた。


「ならば尚のこと無意味だな」


 ざわざわと樹々が揺れた。


「もしも俺様を恐れてるなら、それこそそこいらの人間が束になろうと無駄だし、お前の言うように魔獣への警戒の為だというなら……戦力など逆効果でしかない」


「どういうことだい?」


 逆効果という言葉が気になり、訝し気に問いかければ紫の瞳が俺を捉えた。


「魔獣は人間のように無意味に相手を襲わない。攻撃も威嚇も、喰らう為、もしくは自分の身を守る為だ。人間を敵と見定めたか、あるいは脅威と判断したか」


 遠く騒めいていた樹々の揺れが、少しづつ近づいてくる。


「最初は強い個体から逃れた魔獣のスタンピードかとも思ったが……話を聞く限りどうやら違う。偶然行き会ったのではなく、そいつらは意思を持って襲いかかってきたのだろう?今もそうだ」


 聞こえる地響きは確実にこちらへ向かっていた。


「ならば身を守る為・敵の殲滅(せんめつ)の為の行動だ。何者かが従えているのなら、その脅威が大きければ大きい程規模は増す。俺様や規格外な戦闘力を持つお前、それだけでも充分過ぎるというのに……さらに戦力を足してなにになる?相手を煽ってるだけだ」


 ジストが雑に払うように手を振れば、無数の炎の矢が飛び交った。

 樹々の隙間から潰れたような獣の声が響き、繁みから飛びかかる魔獣の群れに剣を抜く。


「ちっ、森では炎は使い勝手が良くないな。おい、人間ども。このまま森ごと焼き払っては駄目なのか?」


「駄目に決まってるだろう!!」


「良いわけねぇだろうがっ!!」


 とんでもないことを言い出すジストに思わず叫ぶ。

 目の前の奴ならやりかねない。現に彼の放った炎は魔獣どころか草木に燃え移って被害が拡大中。水の異能を持つ騎士たちが懸命に消火活動に当たっております。

 

「ここは私たちだけで対応するから、君は大人しくしててくれ」


 傲慢(ごうまん)に頷いたジストは、魔獣が襲い来るド真ん中で偉そうに腕を組んで高みの見物をはじめた。

 

 うっわ、腹立つ!!

 人が必死に闘ってる横でその態度、めっさ腹立つ。


 じっとしてろって指示出したのは俺だが、ぶっちゃけイラッとした。


 そうこうしている間にも魔獣たちは次々と姿を見せ……そして始まる殲滅(せんめつ)ターイム!


 何度でもいうけど、俺は一介の音楽教師なんですけど?

 なんでこんな肉体労働に駆り出されてんの??

 ティハルトに業務外と危険手当請求してやるっ!!


 どれくらい経っただろう?

 

 肩で息をする面々の乱れた呼吸音を聞きつつ、いつかのように地面に突き刺した剣を支えに自らも呼吸を整えながら……先程のジストの言葉を思い起こす。


『何者かが従えているのなら、その脅威が大きければ大きい程規模は増す』


 そう、確かにあの時、疑問に思った。


 なんであんなシャレにならない量の魔獣が出たのか、と。

 攻略対象者一人で対応出来た筈がない、とも。


 俺は合宿中に魔獣の大量発生が起こることを知っていた。だからこそ安全を考慮して影たちを連れて行った。

 ゲームでは魔獣が脅威と見做したのは攻略対象者一人だったのが、実際はそれプラス俺や影たち、脅威は格段に増したわけだ……。


 つまり………あんな大規模な魔獣の大量発生になったのは……俺の所為(せい)ってことですかねっ?!


 嫌な汗が背を伝う。

 良かれと思った行動がまさか裏目に出ていたとは……。

 地味にショックを受けていると、周囲を見渡していたジストが突如歩き出した。繁みを覗きこんだり、樹を見上げたり……なにかを探してる様子の彼の背を慌てて追った。


「なにをしているんだい?」


「探している」


「なにを?」と、そう問う前に繁みを覗きこんだジストが「見つけた」と声を放つ。


 長身を屈めて、身を起こしたその手が無造作に掴んでいたのは……。


「……赤ちゃん?」



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