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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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77/210

俺的には今の状況が割とカオス

 


 人気のない廊下を進む。


 生徒や教師陣が避難していたホールと違い、廊下は静寂に包まれていた。華やかに彩られた学園祭の飾り付けが閑散とした校舎と場違いでやたらと目につく。

 まるで何処(どこ)か造り物の世界に、自分一人迷い込んでしまったかのようなそんな錯覚に捕らわれる。


 不意に歩みが止まりそうになった。

 渡り廊下の手前、窓に凭れるように立つ少女の姿を認めて。


「……ジュリア嬢」


 呟くように名を呼べば、彼女は例の不可思議な色合いの瞳に俺を映し窓辺から背を離した。


何故(なぜ)こんな場所に?皆と一緒にホールに居た方が良いのでは?」


「ごめんなさい、すぐに戻ります」


 歩み寄り声を掛ければ、淡々とした謝罪と共に一枚のカードを差し出された。


「これは?」


 カードを裏返せば、黒い円にその周りを取り囲む光のようなものが描かれていた。

 背景も黒く、至ってシンプルなその図柄に思い浮かべるイメージは日蝕(にっしょく)か。


「先程の占いの最後の一枚です。お忙しいところ申し訳ありませんけど、見定めた未来をお伝えしないのは主義に反しますので」


 どうやらこれを渡すために待っていてくれたようだ。

 手渡されたカードの図柄をまじまじと眺める。


「最後の一枚、未来を指し示すそのカードは『混沌(カオス)』です。位置は正位置」


 『混沌(カオス)』……どことなく不吉な感じですね。


「それは……良くない結果なのですか?」


 確か……俺が置いた位置は時計の十二の位置に配置されたカードの真ん中、円のど真ん中だったよな……と思い出しながら尋ねれば、ジュリア嬢はゆるく首を振った。その反応にほっとする。


「良い、良くないということはありません」


 ただ……と言葉を濁す様子に、安堵は一瞬で霧散した。

 なに、なんなの?やっぱり微妙なの?


「貴方がこのまま歩むのなら、未来には大きな、とても大きな混沌が待ち受けます。そこにはその図柄が指し示すように光もある。ある意味では貴方の望む未来もそこにはあるのでしょう、だけど同時に大きな混迷が貴方を襲うでしょう」


 紫に赤が混じり込んだ不可思議な色合いの瞳がじっと此方(こちら)を見つめ、託宣じみた静かな声音がそう告げる。

 (しば)し無言で見つめ合い、やがて一つ瞬きしたジュリア嬢は「では」と脚を踏み出した。慌てて手に持ったカードを差し出すも、彼女は緩く首を振り、その動作に紫紺のショートボブがさらりと揺れる。


「差し上げます」


「でも……」


「カードの予備はまだありますので。どうか、混沌に呑みこまれてしまわないようお気をつけて」


 軽く一礼したジュリア嬢はそのまま歩き去っていった。

 閑散とした廊下には、カードを手に立ち尽くす俺が一人残された。


 ジュリア嬢……魔族に魔王扱いされたことは、大いなる混沌にカウントされますか?

 占いの結果は、むしろこの状況のことじゃないですか?

 それともこの先、もっと大きな混迷が俺を襲うことになるのでしょうか?


 カードを見つめながら、一人虚しく心の中で問いかけた。




 その後、到着した騎士団を迎え入れ、騎士団長とともにジストを交えて話をした。ティハルトへの報告もあるし、城の関係者とも情報を共有した方がいい。


 本当はジストを王城に連れて行くのが一番早いんだろうけど……さすがに高位の魔族・しかも黒竜をいきなり王城へ招くのは危険とのことでこうなった。

 一通り話をした後、拘束するわけにもいかないのでジストは解放。ジストは当初の予定通り、近隣の山や森をまわってみるつもりらしい。


 とはいえ、ジストとは今後も連絡をとる必要がある。


 そこで合宿の時のブレスレット登場!

 理事長に掛け合って一つ譲って貰いました。発信機つきのブレスレットがあればいつでも居場所がわかるしね。それとは別に数日後に落ちあう約束もしたけど。


 こういう時、本当に前世の携帯は便利だなとつくづく思う。

 誰か発明してくれないかなー。


 ジストは去ったとはいえ、あんなことがあったばかりだ。不安がる生徒たちの為にも、数日は騎士を学園に配置する件など、騎士団長は理事長たちと話し合いがあるので俺は一時席を外させてもらった。

 本当はこのまま帰りたいが……ティハルトから呼び出し食らってるし。騎士団長たちの用事が済むまでガーネストたちの様子を見に行くことにした。


 まだ多少の動揺は残しながらも、生徒たちは落ち着きを取り戻していた。騎士の到着もあり家からの迎えに帰宅する生徒も居れば、多くの生徒は後片付けや引き続き明日の学園祭の準備に追われている。


 いつもより一層多くの注目を浴びながら、教えて貰った部屋へと向かう。


 ちなみに服装は騎士達が到着する前に既に着替えてある。

 これ以上魔王呼ばわりは御免だし、服装としてはさほど奇抜ではないとはいえ、ヴァンパイア・ロード仕様で騎士に向かい合うのも城へ連行されるのも御免だった。


 そして向かう部屋に居る騎士を聞いて、英断だったと思う。


 だって笑う。

 絶対笑われる。そして揶揄(からか)われる。


「カイザー、お前本当にいい加減にしろよ」


 開口一番、ちょっとキレ気味に笑顔を見せたのは副団長のディークだ。


「お疲れ様です、ディーク副団長」


「おぅ、さらっと流してんじゃねーよ」


「先輩、素が出ちゃってます。王子殿下たちの目の前ですよ」


「別にいいんだよ。楽にしていいって許可頂いてるから」


 室内には攻略対象者たちが勢揃いだった。

 そしてまたもヒロイン不在……。


 扉の前に騎士が数人居たし、ダイアやアレクサンドラは王子という立場上護衛も兼ねてだろう。

 ガーネストやサフィアは学園の生徒会長・副会長として、明日以降の学園祭や警備の話など詳しい話を聞くためだろうか。

 メラルドは……多分暇だったからじゃないかな?あの子は遊びに来てただけだから、学園祭の片づけや準備も関係ないしね。


「……で?」


 若干(じゃっかん)オラつきながら(あご)をしゃくられて問いかけられ、ひとまず手近な椅子を引いて腰かけた。

 っていうか対応がぞんざい過ぎませんか?

 爵位放棄したとはいえ仮にも公爵家なのに……なんて思いながら、経緯を掻い摘んで説明する。


「……と、いう訳で黒竜はひとまず去りました。魔獣の乱獲・売買については問題ですし、魔王の件もありますから騎士団長から改めて陛下へと報告が上がるでしょう」


 そう、“魔王”。


 俺の魔王疑惑とは別に、マジモンの魔王問題が勃発していた。

 (むし)ろその魔王問題があったからこそ、俺の魔王疑惑が発生したといってもいい。


 あの後、やたらとリフとハンゾーに異様に怯えていたジストから聞いた話(いわ)く。


 “魔王”というのは“種”の名前であるらしい。


 俺のイメージでは魔族の王様、一番の親玉が魔王だと思っていた。RPGとかでよくあるように城にドドンと魔王がいて、その下に四天王的な幹部、さらに系統だって序列があり、その他の魔族が居る……的なイメージだったが実際はそんなことはないらしい。


 (まれ)にその手のタイプも居るには居るが、 “魔王”とは“魔王種”として生まれた者の総称だそうだ。


 (ゆえ)に魔王とは一人ではないし、魔王が常にその他の魔物を管理し、従えているわけではないらしい。……というか魔族、中でも人型を取れるような能力と知能の高い魔人は、基本個人主義だから普段はあまり群れないそうだ。


「人間の王だの国だのみたいなくだらん仕来りはない」とジストが言っていた。

 ナチュラルに人間ディスられた。


 そして“魔王種”は必要とされる時に生まれるらしい。

 必要とされる時とは、大きな危機が訪れる時。あるいは歴史の変革、転換時。


 “魔族”という“種族の存続”のためには統率が必要になることもある。

 王制も国という制度もない、されど魔族は弱肉強食という絶対の掟がある。

 だからこそ魔族を従えることの出来るものとして、そういった存在……つまりは“魔王種”が生まれることがあるそうだ。

 数匹、数十匹程度ではなく、幾多もの魔族を従えることが出来るだけの存在が。

 その危機が大きければ大きい程、大きな力を秘めた存在が。


 あれだ……「英雄は時代が必要とする時に生まれる」的な事を聞いたことがあるが、それと同じようなものだろうか。確かに激動の時代には英雄的な存在の名が多いよな。


 ……とはいえ、そうして生まれた魔王が役目に興味を持つかは未知らしい。魔族の危機など尻目に悠遊自適に過ごす魔王も居るんだとか。

 なんじゃそりゃ!!って心の中で突っ込んだよね。


 魔王種でない魔族が他の魔族を従えることもあるし、危機が未然に終わり魔王種が必要なくなる時もある。一概にはいえないが、まぁ危機にはそういった存在が生まれやすいよ、ってことらしい。


 そして人間とのゴタゴタが発生している今、なんか魔王っぽい奴が居たんで「コイツ、魔王かっ!!?」ってなったらしい。


 知らんがな、俺人間だしっ!!魔族ですらねーわ!


 ちなみに勘違いの要因がもう一つあった。

 それは魔獣の大量発生だ。


 先程言ったように、魔族は弱肉強食。より強い者に従う。

 (ゆえ)に魔獣を従わせることが出来る強い存在、もしくは魔獣達が逃げ出すような強い存在。つまり魔王や高位の魔人が居るのではないかと思ったらしい。

 魔術の気配を感じて学園に降り立ったのも、それもあってのことだった。


 魔獣の大量発生、とても覚えのある現象だ。

 アレクサンドラやシリウスを見れば、同じ驚きを浮かべる彼らに頷いた。


「先日の合宿、その際の魔獣の大量発生も関係あるかも知れません」




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