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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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76/210

願いはちゃんと通じてた(けど異常に怯えてた)

(中間一部のみサスケ視点)



「人として……?」


 訝し気な色を宿した瞳がじっと俺を捉える。


「魔王ではないのか?」


「「「「「…………」」」」」


 ちっ、ちっ、ちっ、ちっ……たーん。


 束の間の沈黙にそんな効果音が心の中で響き、その沈黙を破くように隣からブハッッ!!と盛大に噴き出す音が響いた。


「ま、魔王っ……」


 細っこい指がプルプルと震えながら俺を指差す。


「プッ……!魔族……ほ、本物の魔族に勘違いっ……!しかも、魔王っっ……!!」


 腹を抱えたまま背を折り曲げて爆笑するソラは息も絶え絶えだ。

 楽しそうでなにより。笑い過ぎていっそ苦しそうなソラを冷えた瞳で見下ろす。


「ソラ?」


「や……わ、悪いっ……でもっ……ま、魔王っ……!!」


 全然反省してねぇな、コイツ。

 その指、反対方向にひん曲げてやろうか?


「ソラ、いい加減にしろ」


「ご自身で無理なら、いっそ止めて差し上げましょうか?」


「……すいませんでした」


 ハンゾーさんとリフさんのお言葉に、息を止めるという強引な方法で笑いを抑えたソラは即座に謝罪した。

 普段の指導が窺われますね。俺の制止じゃ止めなかった癖に……。


 ジストはそんなやりとりを眼をパチパチとさせながら見ている。そして静かに控えているサスケくんは相変わらずいい子です。


「私は人間ですよ?」


「嘘だ」


 軽く両手を広げて己を示しながらそう告げれば、ジストに間髪入れずそう返されて非常にイラッとした。そんでもってまたソラが笑いの発作をぶり返しそうになり息を止めている。両方ムカつくな。


「嘘ではないです」


 席に戻りつつそう告げるも、信じる気がなさそうなジストはフンと鼻を鳴らした。


「人間がそう易々(やすやす)と俺様を傷つけることなど出来るものか。あの覇気、威圧感、魔王のそれだ。それにお前も後ろの奴も牙があるではないか、それに黒い」


 傷つけられたのは剣が特別だからだし、覇気だのなんだのはガチ切れしてただけですね。()められても嫌だから言わないけど。


「これは仮装です。そもそも魔王ではなく、ヴァンパイア・ロードなのですがね」


 ほらっと牙を取り外して見せれば、目を真ん丸に開き牙を凝視した彼はわなわなと身体を震わせだした。


「に、人間だとっ?!俺様は人間に膝を折ったというのかっ……」


 ああー、跪いたのは魔王だと思ったからなんだ?

 ごめんね。でも俺悪くないし。


「それに黒いというのなら、彼なんて魔王の中の魔王ですよ?」


 そういって掌で指し示したのはハンゾーさん。

 黒髪・黒目・黒装束に黒い口布。黄金の瞳で服も差し色ありの俺と違って正に黒一色!!覇気と威圧感もバッチリ!!


「っーか、サスケ以外ある意味全員魔王っぽい」


 ソラがぽつりと呟いた。


 バッチリ聞こえてるからね?

 そしてリフもしれっとラインナップされてます。性格ですか?能力ですか?




 ホールは多くの人でひしめき合っていた。

 目当てのお姿を探し出し、その傍へと降り立つ。


「若様」


 呼び掛ければ、紅い瞳がこちらを見た。

 頬にあった傷が消えていた。痕一つ残らないお顔にほっと無意識に息が漏れる。


「サスケ……兄上は?」


「ご無事です。黒竜も大人しくしています。話を聞いた結果、こちらに危害を加える危険性はなさそうなので一先ずそのご報告に上がりました。カイザー様は城へ向かわせた者より報告があり次第、ご本人もこちらへ来られると仰っておられました」


「お兄様は無事なのねっ?!」


「話を聞いた?黒竜からか?」


 カイザー様のお名前を出せば、身を乗り出した姫君に手を掴まれる。

 心配そうな表情を浮かべた姫君だが、涙はもう零れていない。そのことにも安堵しつつ再度ご無事を伝え、訝し気な若様の質問へと答える。


「はい。あの黒竜は人型もとれるようです。カイザー様に跪き恭順の意を示したので、先程まで室内で話を聞いておりました。流石はカイザー様です」


「人型になったっ!?ジス……黒竜がですか?!」


 俺たちの話を聞き、アンジェスの末裔が唐突に叫んだ。……苦手な方の。

 なんとなくだけど、この少女は姫君のメイドと似ている……。あの人ほど奇矯(ききょう)ではないが。


 しかも今、絶対にジストとか言いかけた……。

 あの場に居なかったのに、何故(なぜ)奴の名を知ってる?


 じっと無言で見つめるとやや怯まれた。

 

「サスケ?」


 不思議そうに姫君に呼ばれ、少女から視線を外す。いまは姫君たちの疑問に答えるのが優先だ。なのであれはとりあえず放っておこう。


「はい。成人男性の姿になりました。会話も可能です」




 ハンゾーから手渡された手紙の封を開ければ、中には簡潔な文面が記されていた。急いで書かれただろう字体は、見慣れたティハルトの手によるものだ。


「城の騎士があと一時間程でこちらへ到着するようだ。あと私も騎士たちと一緒に城へ登城するように、と」


 はぁ、と小さく溜息が漏れる。

 話を聞かれるだろうし、そうなるとは思ってたけどさー。


 手紙は城へ報告に向かわせた影経由で届けられたものだ。

 城へはソラの転移で一瞬だったとはいえ、彼がここに居るのに何故ティハルトからの手紙がこんなにも早いかというと……鳥が手紙を運んできたから。

 唐突に窓を開け、ハンゾーが烏から手紙を受け取るのを見て正直ときめいた。隠密っぽくって恰好いい!!

 

「生徒や先生方も不安だろうし、一度報告へ行ってくるよ」


 立ち上がり、念の為にと腰の剣をハンゾーへと手渡す。


「一応、預けておく」


「宜しいのですか?」


「使わないにこしたことはないけどね。ジスト、大人しくしていて下さいね。戦闘能力でいえば私より彼の方が断然強いですから」


 ジストが零れ落ちそうな程に目を見開いた。


『最近の人間、怖い……っ!!』


 うん、恐れ(おのの)いてていいと思う。

 なんせ最強の剣持ったハンゾーと、最強の防御を誇るリフのタッグとか正に最強!

 絶対逆らうなよ?命が惜しかったら大人しくしとけ?

 大丈夫、基本的には無害な二人だから。


「お気をつけて」


 リフやハンゾーに恭しく見送られつつ、思わず苦笑いが浮かぶ。

 本来ならその言葉は黒竜、しかも魔族とこの場に残る二人にこっちが掛けるべき言葉の筈だ。

 実はチキンなジストの性格を知っているわけでもないのに、平然と竜相手にも対峙する彼らはマジ勇者だと思う。鋼のメンタルすぎる。


 そして鋼のメンタルを持ちえないソラが、切実に「俺も行きたい」って目を向けてるけどスルーで。ほら、ソラは最終手段だし。

 なんなら二人だけで勝てそうな気もするけど……。



 ホールへと足を踏み入れると、ざわざわとしたざわめきが一段と大きくなった。

 モーセのようにざっと道が空き、人の海を割りながら弟たちのもとへと向かえば、彼らからも駆け寄って来てくれた。


「黒竜にこちらに危害を加える意思はないようだ。とはいえ、このまま学園祭を続けるわけにもいかないから今日はお開きかな。あと一時間程で城から騎士団が派遣されるから帰宅はその後。明日以降の学園祭は当初の予定通りで問題ないだろう」


「あと一時間で騎士団が到着……?」


 話の途中、ダイアが疑問の声を上げた。


 まぁ、城へ報告を向かわせて戻るまでに往復二、三時間はかかる。数十分の間に報告が終わってて、騎士の到着時間まで把握してるのはどう考えたって可笑しいよね。

 ソラの転移だの、影たちの鳥を使った伝達方法による裏技の結果だ。


「黒竜に危害を加える意思はない、と仰いましたが……本当に大丈夫なのですか?」


 続くシリウスの問い掛けにも頷く。


「ええ、被害を出させるつもりはありません。たとえ黒竜の姿で火炎を吐いても防ぐ手立てはありますし、こちらの攻撃が通じることも先程証明してみせたでしょう?なにより最終手段もありますし」


 ソラによる転移でバイバイキーン♪って手もあるし。


 口をポカンと開き、呆気にとられる子供たちへと含みを持たせてにこりと笑いかける。


「切り札は、いくつあっても困らないでしょう?」


 いやぁ、周りが優秀って素晴らしい!

 凄いのは断じて俺自身じゃないけどね。


「さぁ、生徒たちも不安がっているだろうから状況を報告してあげて」


 今も皆こっちに大注目だし。壇上へどうぞ生徒会長サマ。


「私は一度リフたちの元へ戻るよ。心配だし……」


「今はカイザー殿の従者殿たちだけなのか?大丈夫なのか?」


「……正直、心配なのはリフたちじゃなくて黒竜の方なんですけどね。うっかりやっちゃわないか心配です」


 この場合のやっちゃうは勿論(もちろん)、殺すと書いて()っちゃうね。


 俺の発言に一同は再び口をポカンとさせた。

 わかる、その反応。意味プーだよね。


 逆に彼らを知る弟妹は、俺の腰に剣がないのを見てああ……と納得の表情を浮かべた。

 わかるよ、その反応も。だってリフとハンゾーだしね。


 取り敢えず、俺の悪口だけは言うなジスト……!

 逆鱗に触れさえしなければ、殺されることは多分ないから!


 心の中でジストにエールを送りつつ、そっと手を伸ばす。


「傷、治ったんだね」


 親指でそっと頬を撫で、「カトリーナ嬢ですか?」と心当たりを尋ねれば、頷いてくれた彼女へと弟の治療の礼を告げた。手を離し、今度は横のベアトリクスを覗き込む。

 

「ベアトリクスも、もう怖くない?」


「は、はい。平気です」


 人前で泣いてしまったことが恥ずかしいのか、赤くなって俯く妹へ「良かった」と笑いかける。


「じゃあ、ここは宜しく」


 頼もしい返事を返してくれたガーネストたちにこの場は任せ、近くに居た教師に掻い摘んだ説明だけ行う。そして壇上へと上がった弟の声を背にしながら踵を返した。


 ジストの首と胴体が繋がっていることを願いながら。



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