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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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73/210

プッツンした

 


 某テーマパークのアトラクションか……。


 大混雑を前に、そんな突っ込みが思わず漏れた(心の中で)。


 見渡す限りの……人、人、人。


 待ち時間の書かれたボードを手に、「只今(ただいま)の待ち時間2時間40分でーす!!」「ご予約の方はこちらへー!!」と声を掛ける生徒たちに、長い行列に並びながら頬を染めてコンパクトを覗きこみ身だしなみを整えたり、友人と(はしゃ)ぐ女の子たちの姿があった。


 彼女たちのお目当ては、選りすぐりのイケメンたち。


 ガーネストのクラスの出し物、それはズバリ……「メイド&執事喫茶」である。


 彼らのクラスには学園の生徒会長であるガーネスト、リアル王子であるダイアとアレクサンドラと攻略対象者が三人+サブキャラのシリウスまでいるわけで……。

 学園屈指の美形率の高さに女子が殺到したわけですね。


 弟の人気が某テーマパークのアトラクション並みな件……。

 いや、雰囲気的にはアイドルの追っかけか?


 長蛇の列を横目にファストパス、もとい予約済みの俺達はすいすいとご入場ー。ダイアが予約とっててくれて良かったー!絶対並びたくねぇ、こんな行列……。



「お帰りなさいませ、ご主人様」


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 教室としての面影がもはやない室内へ足を踏み入れるなり、メイドさんと執事が恭しく出迎えてくれた。どうやらクラッシックな雰囲気のメイド&執事らしい。

 良かった……。テレビで見たようなテンション高めの「萌え、萌え♡」的なノリでこられたらどうしようかと思った。


 執事役の男子生徒が椅子を引いてくれ、メイド役の女子生徒がすぐさま紅茶とケーキをセッティングしてくれる。

 指名したいメイド&執事が居れば一人につき一人まで指名可能なようだ。そうはいっても常時ついてくれるわけでなく、一瞬席に立ち寄ってくれるだけだけどね。

 そして大混雑の「メイド&執事喫茶」は一組につき最高滞在時間は20分。

 3時間待って20分……。マジ予約取っててくれて良かったよ。



「お待たせいたしました」


 胸に手を当て恭しくも身を折るのは、そんな動作に縁がないだろう我が国の王子様。


「ベアトリクス、凄く可愛いね。良く似合ってるよ。だけど心配だな、悪い狼に捕まらないよう気をつけて?」


 一瞬前の畏まった態度とは裏腹に、覗きこむようにベアトリクスに囁く姿に周囲から黄色い悲鳴があがった。

 両手を口に当てて真っ赤になる可愛い兎さんに野太い悲鳴も。


「ダイア、ちゃんと役を守ったらどうだい?」


「僕にご主人様って呼ばれたいんですか?」


「絶対嫌だ」


 苦言を呈せば面白そうに返され、即否定。


「なんなら、お義兄様ってお呼びしますか?」


「ダイア様っ?!」


「冗談だよ」


 瞳を細めるダイアは何故(なぜ)こんな風に育ってしまったのか……。ゲームでは真面目一筋だったのに……。

 俺の育て方が悪かったのか、いや、ティハルトの所為(せい)だな、うん。


「お嬢様、紅茶のお代わりはいかがですか?」


 続いて訪れたガーネストは忠実に役を守っており、カトリーナ嬢へと紅茶を淹れる姿も様になっている。

 や、執事姿そのものはダイアもすこぶる似合ってたけどさ。


「私には?」


 ちょっぴり意地悪な顔をしてベアトリクスが強請(ねだ)れば、


「お前はお嬢様ってガラじゃないだろ」


 ……妹に対しては役を守ってくれないみたいだけど。


 弟が淹れてくれた貴重なお茶を楽しんでいると、指名もしてないのにどこぞの浮かれ王子が来やがった。


「なんという愛らしさだ!!このまま連れて帰ってしまいたいぐらい似合っているぞ!カイザー殿は魔王か、とてもよくお似合いだ」


 イラッとした。


 連れて帰んなし!

 そして魔王じゃねーし、勝手に持ち場離れてんじゃねーよ。


 燕尾服を優雅に着こなしたガーネストやダイアと違い、あえて着崩したアレクサンドラは相変わらず無駄に色気が過多だ。かっちりとしたイメージの燕尾服だから尚更に。


「そうだ、二人は午後も休憩はあるのか?あれば是非一緒に……」


「執事がお嬢様の手、握ろうとしてんじゃねぇよ」


「一緒にまわろう」と恐らく続くはずだった言葉は、アレクサンドラがカトリーナ嬢の手を握ろうとしたとこでガーネストによって阻まれた。

 助けてくれたことか、お嬢様呼びか、はたまたその両方にか。ぽっと頬を赤く染めて俯くカトリーナ嬢に、うんうん!と心の中で頷く。


 わかる、恰好いいよね!ウチの子!

 髪もいつもと違ってオールバックで雰囲気違うし。


「そういえば、アレクサンドラ様はリリー嬢に頼まれて模擬戦に出ると聞いたのですが……そもそも休憩は取れるのですか?」


 込み合った店内と廊下の長蛇の列を眺め、ふと気になったことを問いかけた。


「余の恰好いい姿が見たいというのだ。断るわけにはいかないだろう」


「メラルドが楽しみにしてましたよ。さっき観覧を誘われところです」


「私たちもご一緒するつもりですわ」


 ベアトリクスたちのクラスの「貸衣装屋」のピークは午前中と学園祭を楽しんだ生徒が衣装を返しにくる夕方、なので午後は比較的手が空くらしい。二回目の休憩でまた合流する予定だ。


「へぇ、じゃあ僕たちも顔を出そっか、ガーネスト」


 席を移動中、通りがかったダイアが軽いノリで声を掛けてくる。


 いや、だからさ。そもそもキミらこんな大人気なのに休憩取れるの?

 そもそも売りが三人揃って一つのテーブル固まってていいんかい?


 後者の疑問を晴らすように、ガーネストがしっしっと手を振って二人を他のテーブルへと追い払った。そして前者の疑問も読み取って丁寧に答えてくれる。


「俺達も午後は暇になると思います。予想以上に売れ行きが良すぎて、明日の分のケーキや菓子を前倒ししている状態なので。売り切れ次第、今日は営業停止です。明日以降の予約と発注は裏方の担当なので、俺達は手が空くんです」


 明日の分を前倒しして完売って……。

 イケメン人気ハンパねぇな。


 そんなこんなで午後の約束をして、制限時間が来たので店を出た。


 俺は時間あるのかって?

 お兄ちゃんは一日中暇ですがなにか??

 仕事しろ?見回りぐらいしかする仕事がないし、そもそも本来は出勤日じゃないからいいんですー。



 そして、午後。

 だだっ広い校庭の中央にて繰り広げられる熱い闘いの最中、それは起こった。



 突然、日が(かげ)った。

 不意に空を見上げた誰かがぽかりと口を開き……脳が状況を理解するまで僅かな間を置いてのち、恐怖の叫び声を上げる。


「竜だっ……っ!!?」


 そう、日差しを遮ったのは雲ではなく黒き竜。

 隠しキャラのジストの登場である。


 途端パニックになる校庭。

 風が渦巻き、砂埃が竜巻のように舞い上がる。

 黒い翼が大きくはためき、黒き竜が地上へと降り立った。


 ……やばい。

 実物、超恐いんですけどっ?!


 生徒たちと違い登場を予想していたにも関わらず、生物の本能として冷たい汗が背を流れた。

 黒く硬そうな鱗に覆われた見上げる程の巨体。周囲を睥睨(へいげい)する紫の瞳と、鋭い爪に長く屈強な尻尾、口元には尖った牙も覗いた。


 ジストの性格を知っていても本能的な恐怖が這い上がる。


 ベアトリクスたちを背に庇いつつ、視線でガーネストの姿を探した。

 白熱した試合に闘争心がそそられたのか、彼はエントリーのため先程この場を離れている。


 ジストが大きく口を開いた。

 翼が背で一度、大きく振れる。


「ヴォオオオアアァァッ!!!!」


 空気が揺れるような咆哮(ほうこう)と羽ばたきだった。

 悲鳴と咆哮(ほうこう)が混ざり合い、衝撃によって飛ばされた砂塵(さじん)(つぶて)が校庭を舞った。腕を顔の前に(かざ)す寸前、立ちはだかったリフによって障壁が張られる。視界のあちこちでは真っ赤に爆ぜる炎や硬質な音を立てる氷があった。


 素早く視線をめぐらせば、それはガーネストや校舎から出てきたらしいサフィアたちによるものだった。他にもアレクサンドラや幾人かの生徒たちが手を構えているのが見える。

 攻撃系の異能や魔術により、飛んでくる破片を避ける壁を生み出したようだ。


 恐怖に泣き出す女の子や校舎へと逃げ出す生徒、呆然と腰を抜かした子も居れば、怪我を負った生徒も居る。リフのお蔭で俺の周辺は被害がないが、ベアトリクスたちを避難させるべく振り向いて…………固まった。


 ぺたんと座り込んだベアトリクス。

 ダイアに支えられた彼女の身体はかたかたと震え、大きな瞳からは透明な雫が零れ落ちていた。

 恐怖に震える瞳から落下する大粒の雫。


 そして、


 炎の壁が消えた向こうに姿を現したガーネスト。

 防ぎきれなかった破片が当たったのか、その頬からは一筋の紅い雫が流れている。

 白い肌を伝い、(あご)へと流れ落ちるそれは鮮血だった。



 ブツリ……!なにかがキレる音が聴こえた。



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