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運命を告げる少女

 


「いらっしゃいませー!」


 あちこちから元気に響く客寄せの声。


 手作り感の薄い煌びやかな装飾。模擬店、という名が相応しくない内装に様変わりした教室。そこかしこで売られる軽食も勿論焼きそばやホットドッグなどといったものではなく、三段トレーのアフタヌーンティーセットやどう見ても手作りでないだろうケーキ。

 ステージで行われるのはバンドの演奏やお笑いネタではなくオーケストラレベルの演奏。

 いつにもなく華やかな雰囲気と楽し気な生徒たち。


 と、いうことで…学園祭開催です。

 そして俺の見知った学園祭とはもはや別物でした。


 相変わらずこまごまとした雑用はあまり任せられない俺は、見回りという名の手持無沙汰です。や、自由行動できるからいいんだけどさ。

 名目上のお役目を果たす為に校舎内を一回りした後は「絶対来て下さいね!」って笑顔で念押しされたベアトリクスのクラスに寄って、その後休憩時間のベアトリクスたちとぶらつきながらガーネストたちのクラスへと向かう予定。


 因みに本日はリフ同伴です。

 この浮かれた空間でぼっちとか寂しいし同行者いて良かった!



「あっ!!お兄様っ!!」


 弾んだ声にぴょこりと長い耳も跳ねた。


 か、かわいいぃっっ!!?


 満面の笑顔で俺を出迎える妹の耳には真っ白でふわふわの長い耳。

 白を基調とした裾の広がったドレスにお尻の部分には真ん丸な尻尾。俺の腕を掴む両手首にはファーのついたもこもこの腕輪。

 兎さん姿の美少女に俺は見事にハートを打ち抜かれた。


 ベアトリクスのクラスの出し物。

 それは、「貸衣装屋」である。


 室内には様々な衣装がひしめくように並び、奥には厚手のカーテンで仕切られた空間。衣装の他にも彼女がしているようなケモ耳付きのカチューシャに仮面に小物、多様な装飾品が用意され、案内する生徒たちも思い思いの華やかな衣装に身を包んでいた。


「カイザーお兄様も是非お召しになって下さいね」


「いらっしゃいませ」


 ぐいぐいと手を引かれながら室内へと進む。彼女の傍で挨拶をしてくれたカトリーナ嬢は小栗鼠さんだ。メイドや物語の登場人物、様々な恰好があるが仲良し同士ケモ耳で統一したらしい。かわゆす。


「何がいいかしら?」


 周りの女の子たちも含めてあれがいい、これがいいと話し合う。

 あ、仮装をするのは決定事項なんですね。


「男性が着られるドレスなんかもあるんですよ」


「無難な物でお願いします」


 誰かが放った無邪気な一言にめっちゃ喰い気味で答えた。


「お似合いになられると思いますのに……サフィア様にも断られてしまいましたの」


 そりゃ断りますよ当然です。残念そうな顔しないで。


「でもサフィア様、すっごく素敵ですのよっ!私たちのクラスの看板ですの。サフィア様を拝見するために来られる他学年の方達も沢山いますのよ」


 そう言ってベアトリクスが指す方向には人だかり。

 そしてその人だかりの奥には……。


 聖霊王 降・臨 ☆


 物語の世界から抜け出したようなイメージそのまんまの精霊っぽいお姿。

 透き通るような薄水色の髪はいつもはストーレートだが緩く癖をつけられふわふわとたなびく。古代ギリシャぽいゆったりとした純白の衣装に繊細な金細工の腕輪や首飾り。月桂樹の冠を頭に載せた彼は迷信深いお年寄りなら跪いて祈りを捧げそうな程ガチで精霊染みていた。何なら女神でもいい。


 憂いたような表情は、きっと大勢に取り囲まれ困っているのだろう。

 だが、そんな表情すらより一層雰囲気に拍車をかけていた。


 思わずぽんと肩を叩きたくなったが人だかりで近づくことも出来なそうだ。

 大丈夫、似合ってるから気を強く!!

 ドレスに比べたら全然マシだよ!!



「これとかいかがでしょう?」


「きゃあ、素敵!!」


「いいと思います!」


 心の中でサフィアにエールを送っている間にどうやら俺の衣装も決まったようだ。

 掲げて見せられた衣装は……黒。うん、まぁいいや。ちょっと言いたいことはあるけど…ドレスやケモ耳に比べれば充分許容範囲だ。


「リフのは?」


 でもちょっぴりモヤモヤするからリフも巻き添えにしてみた。たちまち集まる女の子たちの視線に焦ったようにリフに名を呼ばれたけど知らん。

 一緒に行動してて俺だけ仮装とか恥ずかしいじゃん。


「試着室が空くまで少し時間がかかりますのでこちらへどうぞ」


 着替えやメイクの待ち時間を潰す為のスペースへと通される。

 そこに待っていたのは。


 紫紺のショートボブに紫に赤が混じった色の瞳でボーイッシュな感じの美少女。

 ゲームのサポートキャラことジュリア嬢。


「どうぞ、お掛けになって」


 深みのある抑揚の少ない声がそう告げる。


「これから、貴方を占います。恋愛や心配事、特定の事項を占うことも出来ますが何かご希望は?」


「…特には」


 紫に赤が混ざり込んだ不思議な色合いの瞳はまるで何もかもを見透かしそう。


「では、この中からカードを三枚好きな場所へ配置して下さい」


 そういって白い手が傍らにあった砂時計をひっくり返した。さらさらと蒼い砂が降り積もる。どうやらこの砂時計の砂が落ちきるまでが一人当たり占いに充てられる持ち時間のようだ。


 占いの方法はいたって単純。

 タロットカードに似たカードを占われる側が選び、それを時計に見立てた十二と中央、全部で十三の位置の好きな場所へ配置する。

 そのカードの絵柄、位置、カードの上下などを元に占う。


 山の中から三枚のカードを選び、配置した。

 ジュリア嬢の正面に座った俺の後ろから、リフやベアトリクス、興味津々なクラスメイトや他の客まで覗きこんでるから余計に変な緊張感がある。

 不可思議な色合いの瞳が閉じられ、鮮やかな唇が音を出さずに動く。


 瞳を開いた彼女が一枚目のカードを捲った。

 カードの図柄は懐中時計に似た絵柄。

 幾つもの歯車を覗かせるアンティークのような懐中時計に似たそれは針も文字盤もなく、背景には螺旋階段が描かれている。位置は十二時、カードの向きは逆位置。

 カードを捲ったジュリア嬢が瞳を僅かに見開き小さく息を呑んだ。


 やめてっ、何その不安になる反応!!


 一瞬の重い沈黙のあと、意識したように瞬きを一つした瞳が俺を見据える。


「貴方は……、『運命』に抗うことを決められたのですね」


「…っ」


 思わず、息を呑んだ。

 たかが占い、そう割り切ることは容易い。そもそも俺、占いとか信じるタイプじゃないしね。本来はそういうタイプではないのだが…彼女は別だ。ゲームで散々彼女が未来を言い当てる姿を見てるし、何より『異能』だの『魔術』だの常識の範囲外の能力が存在するファンタジーな世界。


「それももう、ずっと前。

貴方は起こり得る『未来』を知り、『運命』に抗うことを決めた」


 それがゲームの『運命』のことを仰ってるなら大当たりです。


 二枚目のカードが捲られるのを無言で見つめる。

 カードの図柄は玉座に腰かける王だろうか?

 だけどメインは人物ではなく男が抱える宝箱。豪華な宝石が散りばめられた宝箱の中身は黄金の鍵。位置は二時、向きは正位置。


「先程の『運命』は過去。そして現在は『秘密』。とはいえ、共に過去から派生しそしてこの先も続いていくもののようですが。貴方は大きな秘密を抱えていますね。そしてそれは先程の『運命』に抗うきっかけとなったもの」


 危っねっーーーーー!!


 休憩中かなんか知らんけど、ここにリリー嬢居なくて良かった!!

 いたら絶対に転生者疑惑が濃厚になる発言でした。


 そしてほら、外野がひそひそしちゃってんじゃん。

『無能』で不義の子疑惑がある俺の占いの結果が『秘密』を抱えてるなんて、「やっぱり…」的にめっちゃひそひそされてんじゃんー。


「貴方が抱えた『秘密』は更に増えた。そしてこのまま歩むのならきっと更に増えるでしょう」


 増えましたね。転生者ってことに加えて、何故か突然面倒な『異能』に目覚めましたしね。

 更に増えるとか不吉な予言はやめて下さい。そして周りがこんなにざわざわしてるのにジュリア嬢全く動じねぇな…。メンタル強いのか眼中にないのか。



 そして最後の一枚へと手が伸ばされた。





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[一言] 精霊王サフィアwどんな感じか見てみたいなあw
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