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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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再び、『亡国のレガリアと王国の秘宝』の話をしよう

 


 ランプの光を受けて輝く宝石。


 窓硝子の向こう側の世界は夜の(とばり)が降りている。陰影を増した室内、チラチラと揺れるランプの灯り。揺れるそれに合わせて影もゆらりゆらりと(うごめ)く。

 机の上に無造作に置かれた幾つものイミテーション。


 人は貪欲だ。


 夜闇に輝く月や星。

 それを求めて遠き月まで辿り着いたように。


 願いを、憧れを、欲望を、

 様々な望みを満たす為に際限なく手を伸ばす。


 それはあたかも、月へ手を伸ばす子供のように。


 目の前の宝石たちもそうして生み出された技術の一つ。

 美しいそれらに罪はない。

 願うことも、憧れることも、望むことも、それ自体に罪はないのかも知れない。


 だけど…………現に目の前に転がるそれらが、なにを目的として造られたものかを知っている。



 美しいそれを一つ手に取った。

 鮮やかな、血のように赤いルビーに俺の姿が映り込む。

 誰も居ない書斎で一人机の前に腰かけた俺は、美しい偽物の宝石たちを前に記憶を深く手繰り寄せる。脳裏に刻み込まれた記憶を、だけど着実に薄れゆく記憶を。



 再び、『亡国のレガリアと王国の秘宝』の話をしよう。


 この世界の元となるだろうゲームの粗筋(あらすじ)を。

 この先に待ち受けるだろう未来の話を。


 アンジェスの末裔が発見され貴族となった少女は、学園“エーデルシュタイン”へと入学を果たし、攻略対象者たちとの学園生活がはじまる。

 入学後少し遅れてジャウハラの王子、アレクサンドラが編入。学年混合の合宿ではアンジェスの末裔を狙ったとされる犯罪組織が現れ、また魔獣の群れに遭遇するが攻略対象者たちの活躍により難を逃れる。その後、ダンスパーティーイベント。


 攻略対象者ごとに個々のイベントは大小発生するが、現在までの共通の流れはこうだ。


 俺がベアトリクスの悪役令嬢化を阻止した影響や、ヒロインが何故(なぜ)か二人存在したり、そのヒロインが一人は転生者だったり、もう一人はあまり恋愛に興味がなさげだったりと差異は色々とあるが大まかな流れは外れてはいない。


 個々のイベント等はこの際、省略するとして、直近で行われるイベントとして最大なものはお馴染の学園祭だ。


 学園イベントとしてはわりと定番だが、様々な催しものの行われる学園祭はさすがの貴族仕様で……模擬店っていうかリアルな店感ハンパない。

 そしてこの学園祭にて隠しキャラのジストが初登場する。


 正直な話、ヒロインたちが誰かを攻略しなくても構わない。

 メイン五人の好感度が著しく低いと協力が仰げなくてストーリーの進行上問題があるが、逆に五人の好感度がある程度保てて選択を失敗しなければ、特定の誰かと結ばれなかったとしてもバッドエンドへは向かわないからだ。


 だから正直、ジストに関わらないという手もあるのだ。

 なにせジストが登場すれば彼のバッドエンド、黒竜による王都来襲という脅威も出てくるのだから。


 だが俺としては是非ジストには登場してもらいたい。

 何故(なぜ)なら魔人で黒竜である彼の協力を得られるのなら大きな力になる。


 なによりジストと関わらなければゲーム内では黒竜の王都来襲は起こらなかった……が、これはゲームではない現実なのだから。

 ゲームのエンディングまでにそれが起こらなかったからといって、その先も来襲がなかったかはわからない。現にジストの怒りの原因となった()()は起こっているのだろうから。


 ならば不安の芽をそのままにしておくよりも、彼とは友好を築いておきたい。


 なにより、ヒロインの一人であるリリー嬢は転生者だ。

 ジストの攻略方法を知っている彼女なら、バッドエンドの危険性はほぼないだろう。


 そんなジストの出現キーワードは、恐らく攻略対象者の一人、アレクサンドラと思われる。


 学園祭の催しとして野外で行われていた模擬戦。

 白熱する闘いの最中、突如現れた黒竜の姿に生徒たちは大混乱に陥る。結局この時はジストは咆哮による威嚇をしたあと、周囲を見渡すとそのままその場を立ち去るのだが……。これがジストとの初邂逅となる。


 隠しキャラのジストルートが開かれるポイントは二つ。


 一つは毅然と黒竜に立ち向かうこと。

 震える足で、必死に両手を広げて友人を庇いながら立ちふさがる、怯えながらも健気に誰も傷つけないよう懇願する等……ヒロインによってパターンはあったが、必要なのは逃げずに真正面から黒竜と対峙することだ。

 そして自衛からジストを攻撃しようとする周囲を止めること。


 これらの行動によってジストの記憶へと残る。

 彼の記憶へと残らなければ次の再会へと繋がらないため、印象に残る必要がある。


 もう一つは、アレクサンドラを模擬戦へと参加させること。

 これはなによりも重要だ。でないとそもそもジストは現れない(多分)。


 ストーリーが進む最中、「なんであの時、突然学園へと現れたの?」とそう問いかけるヒロインに対して「強い魔力の気配を感じたからな」とジストは答えていた。


 魔族は魔力の残滓を感じ取れるらしい。

 それはどうやら漫画やゲームでよくある相手本来の魔力や気を感じとるものではなく、実際使われた魔術に対する魔力らしい。


 つまり……強い相手に敵対して「コイツ、凄い戦闘力だ……」みたいに迸る力を感じるみたいなことではなく、実際に魔術が使われてはじめて「あそこで強い魔力が」って察知する感じだろうか。


 ジストが現れる展開ではアレクサンドラが模擬戦で魔術を使用していたので、彼の魔力に反応したものと思われる。他の生徒たちは異能は使えても魔術は使えないし。

 なのでジストに登場してもらうためには、まずアレクサンドラを誘導しなければ。まぁ、リリー嬢がこの辺は上手くやってくれるだろうし心配ないだろう。



 そしてジストが人里をうろついていたそもそもの原因がある。


 それは人間による魔獣の売買。


 魔獣は人の脅威だ。

 身を守るため、素材のため、人は魔獣を狩る。同じように身を守るため、はたまた餌として、魔獣は人を襲う。

 生きる為にそれは遥か昔から繰り返されてきた人と魔獣の在り方だ。


 だがそれらとはまた別に、残虐な実験に使用するため、珍しい魔獣をペットとするために乱獲を行う人間たちが居る。荒らされた森、目当ての魔獣を捕らえるために傷つけた魔獣の子を囮にした醜悪な罠。

 行き過ぎた人間の行動に対応に乗り出したのがジストで、彼のルートはそれらを行う犯罪組織をヒロインと共に突き止め壊滅させることが大筋だ。


 成功すれば親密になったジストは全ルート共通のもう一つの危機、ジャウハラとの問題においても大いに力を貸してくれる。

 逆に失敗すれば魔獣に対する人間の行動に「人間どもめっ!!」と怒りに燃えたジストが王都を来襲し、街は火の海の呑まれる。



 バッドエンド阻止は勿論(もちろん)のこと、胸糞(むなクソ)なその犯罪組織の壊滅は俺としても望むところだ。



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