闇の眷属感ハンパない
「生徒を庇って自分が人質になるなんざご立派なこった」
わーい、褒められた。
全然嬉しくないけど。
「戦闘に役立つ『異能』でも持ってるならともかく、『無能』なお貴族サマがなぁ」
あのさ、マジで止めてくれない?
乱暴に掴まれた前髪と腕は痛いし。
もうヤダ。人質マジ恐い!もう二度としないもん!!
あまりの恐怖に内心ぶりっ子みたいな口調になった。
カイザーさん、初体験にパニック気味です。
だって怖いー!!
「『異能』だけじゃなく頭も足りないのか?なんで公爵家が教師なんざ」
せせら嗤う声が超絶不愉快。
「まぁ、でもいい手土産が出来た。お蔭で俺らの首も繋がるぜ」
つーか逃げる為の人質じゃなかったのかよ。逃げるならとっとと逃げろし。
上位に立った途端、余裕ぶっこく姿は思った以上の小物感が満載だ。
「それにしてもキレーな面してんな」
ギラリと煌めく刃が嬲るように頬へと当てられた。
「止めてくれないか」
「なんだ、命乞いか」
「別にそんなつもりはないけど。第一、異能や剣があろうと現状は変わらない」
俺の発言に男達からクツクツと嘲りの笑いが漏れた。
次の瞬間、品の無い笑みに歪んだ顔が別の衝撃へと歪んだ。
男の腹へと苛立ちを込めた一撃をプレゼント。振り上げた膝を下ろしながら流れるように足払いを掛け腕を捩じると、引き倒したフードの男の口へ奪い取った剣を突き立てる。
「お前ら如きに私の武器を取るまでもない」
「なっ?!ぐぁっ!」
周囲のフードの男達の声も直ぐに途切れた。
音もなく降り立った幾つもの影によって。
パンパンと手を払って立ち上がると、気絶してる四人を見下ろした。
“四人”、つまりは誰も死んでいない。突き立てたのは剣の刃じゃなくて柄の方だしね。
このイベント、攻略対象者がヒロインを無事守るんだけど……肝心の犯罪者サンたちは捕まらないんだよな。裏稼業なだけあってか、口割る前に逃げるか自害しちゃうし。現にここに来る途中で転がってた奴らも自害か口封じされた奴らだろう。
ちなみに剣突き立てたのは舌噛み防止です。
汚っねぇ口に手を突っ込むとか嫌だし、ちょっと乱暴だけど剣で代用してみた。
見事に油断してくれて良かった、良かった。
このあと自害する可能性もあるけど、一人ぐらい防げないかなー。
「彼らの捕縛を頼む。ハンゾー、出来れば話を聞きたいんだけどな」
口から生えた剣を見ながら告げれば、意味は正しく伝わったようだ。
「昏倒させましたし、毒も無害化したので大丈夫かと」
「無害化……?」
「任務に失敗した時用に毒を含むなど有りがちですから。当然ながら解毒薬とて準備してあります」
マジっスか!パネェっス、ハンゾーさん!!
じゃあゲームと違って大元の犯罪組織まで割り出せるかも?
さすが、蛇の道は蛇!
むしろ彼ら影とこのフードたちを同列に語るのは失礼だな。
見ろ!この風格を!
闇に紛れしこの様を!!
夜の森に影の皆さんとか、ガチで闇に同化してるからね!
「なにより」
闇が蠢くような低く、重い声が空気を震わせた。
「我が君に対する無礼と侮辱、楽に死ねるわけなどありますまい?」
闇が、闇に呼応する。
ゾワリと全身を、否、森全体を包み込むような濃密な殺気が迸る。
こ、怖っわっっ!?
実は刃を押し当てられた時、「止めてくれ」って制止したのは本当に命乞いなんかじゃなくて、ハンゾーさん達がフードを瞬殺しちゃうんじゃないかって危惧だったんだけど……。
これ、死ぬよりヤバいめに合うパターンじゃないか?
知ーらないっ!俺、知らないもん!!
いやいやいや、結果オーライですよ。ハンゾーさん達が情報がっつり絞り出してくれるんだから!
絶対に尋問には立ち会わないけど。怖いし。
人質中もフードの男達に危害を加えられる心配なんて一つもしてなかったけど、背後のリフさんと闇に潜んだハンゾーさんはじめとする影達の殺気がめっちゃ怖かったっ!!
敵より味方にガチブルしちゃうっ!
……と、いつまでも身内でじゃれてるわけにもいかない。
「倒れてた彼は平気かい?」
「頭を打っているようですが問題はないかと」
「お嬢さん方と彼をそこの樹の下に。リフ」
「畏まりました」
影が答え、少年と少女たちを大きな樹の下へ運び、その前にリフが立つ。
「アレクサンドラ様、シリウス様、もう少し闘えますか?」
二人を見据えれば、わけがわからなそうに、それでも頷かれる。
「……可能だが、カイザー殿一体どういう……?」
樹々の騒めきに、言葉が途切れた。
「来ますよ」
森に潜む紅い瞳が不気味に輝く。
爛々と光る瞳と、僅かに聞こえる獣の息遣い。
そして俺の周囲へと音もなく闇を纏って降り立つ幾つもの影。
「大丈夫」
緊迫した空気にも関わらず、少女らの傍らに片膝をつくと俺は静かに微笑んだ。
「すぐに終わるから、目を閉じて、耳を塞いでいて。大丈夫、怖いことはなにもない」
本当なら惨劇が届かないところへ彼女たちを運んであげたいとこだが、あちらが待ってくれそうもないので幼子に言い聞かせるように優しく告げる。
怯えを隠せないながらも、言いつけ通り目と耳を塞いだ彼女たちを見て立ち上がり剣を握った。
彼女たちはリフに任せるとして。
さぁ、魔獣狩りの始まりだ_______。
つ、疲れたっ……!!
魔獣を駆逐し終え、地面に突き刺した剣を支えに深呼吸した。
うん、血の香りがすっごいな!
全然清々しくない!
疲労にガタガタしそうな膝を隠して、一先ず皆の安否確認。
「大丈夫ですか、お二人とも」
もはや座り込んでるアレクサンドラ達に声を掛ける。
ぜぇぜぇという息遣いは先程の比ではなく荒く、あんまり大丈夫ではなさそうだ。そりゃそうか、彼らは俺らが来る前から闘ってたわけだしな。
そもそもこれ、可笑しくね?
ウチの優秀な影+アレクサンドラ+シリウス+俺が頑張ってこの状態ってどういうことだよ。過剰戦力にも程があるわ。
絶対、こんなの攻略対象者一人で対応出来たわけないだろ。
まぁ、ここでそんなこと考えてても埒があかないので。
「一先ず、コテージに移動しましょう。さすがに今から本来の宿泊先へは戻れないので」
闇に包まれた森を抜け、宿泊先に向かうのは愚策だ。
休憩用に用意されている森の中のコテージで夜を明かすのが賢明だろう。
辺りは暗いうえ、そこいらに魔獣の死骸が転がっている状況に影たちを見れば、数人がすぐに頷いてくれた。察しがよくて助かる。
「お嬢さん方はまだ目を開けない方がいい。夜道も危ないし、彼らに運ばれて下さい。お二人はどうします?動けなさそうなら彼らにお願いしますが」
「歩く」「歩きます」
お姫様抱っこされる女の子たちを前に彼らは即答した。
うん、そうだよな。
一度された経験がある身としても、あれはご遠慮願いたい。
「ソラ、宜しくね」
闇に紛れる一人に声を掛ける。
「ああ」
フードの男達は彼の担当だ。“転移”でピピッと移動。
本当は俺達もそうしてもいいんだけど……手札はあまり晒したくないんだよなぁ。ソラの異能は貴重だし。怪我が酷かったりしたら話は別だが、幸い誰も酷い怪我も負ってないしね。
ちなみにソラだけでなくサスケも残る。
“転移”は俺たちが去ってからだし、夜の森にソラ一人とか無理だしね。彼は唯一影の中で戦闘能力ないから魔獣の残党とか出てきたら大変っ。
あと、外見余裕ぶってるけど中身チキンだし!
俺のお仲間ー!!




