空回りへの序章
(リリー視点)
取りあえず、現状を把握しなくちゃ!
相も変わらずイベントは一向に起こらなくて、中庭にて待ちぼうけをくらった私はそう決意した。
腰かけていた花壇の縁から立ち上がり、パンパンとスカートを払う。
なぜに来ないし、攻略対象者!!
と、心の中で握りしめた拳を天高く突き上げつつも……同時にそりゃぁそうだよなと思う自分も居る。
……だってガーネスト様たち、食堂でベアトリクスちゃんたちと楽しくランチしてるもん。
普通に私も誘われた。
断らなければ今頃、一緒にあそこに居たはずで……。
そう思うとすごく虚しくなってきた。
ずーんと暗雲を背負いつつ、項垂れながら教室へと戻る。
なにやってるんだろう私、確実に会える方法があるのにそれを蹴ってわざわざ待ちぼうけ……。
でも、食堂じゃガーネスト様たちに会えてもイベントは起こらないんだもの!
ガーネスト様来なかったから、中庭でも起こってないけど……(ずーん)。
攻略は一向に進んでないけど、関係はそう悪くない……はず、多分、きっと。
クラスメイトとしてサフィア様とはよく話すし、ランチを一緒する時はガーネスト様もダイア様も普通に話しかけてきてくれるし。
選択授業だってばっちりカイザー様の音楽とったもの。
だけど確実にクラスメイト、後輩、生徒としか見られてないっていうね。
きゃきゃうふふな雰囲気なんて微塵もない……。
むしろガーネスト様とダイア様は好きな子いるしね………。
しかも現時点で一番仲が良いの、ヒロインを目の敵にしてくる筈のベアトリクスちゃんだしね。
はぁー、と重く溜息を吐くと、不意に机に影が出来て慌てて表情を取り繕った。
顔を上げれば、そこに居たのは華やかな美少女。
「どうなさいましたの、リリー様?お顔が冴えませんわ」
眉を下げて問いかけてきたベアトリクスちゃんに顔の前で両手を振る。
「う、ううん、何でもないの。ただ次の教科は私の苦手なマナーだから憂鬱だなーって思って」
「そうでしたの。もし授業でわからないところがあったら声を掛けて下さいませ。僭越ながらお力になりますわ!一緒に復習致しましょう」
「ありがとうっ」
「お友達ですもの、当然ですわ。次はお昼もご一緒出来れば嬉しいです」
にっこり笑って予鈴の音に席へと戻っていく天使に、沈んでいた心が一気に浮上する。
なにあの天使?
華奢な背中に白い翼を幻視した。
可愛いし優しい。
マジ天使っ!!
そう、それがそもそも可笑しいのよ。
なんで悪役令嬢が天使にジョブチェンジしてるの?
ノートを取りながら考える。
どうしてベアトリクスちゃんをはじめとして、ゲームの登場人物たちの性格が異なっているのか?
1、私以外にも転生者が居て、その人物が関わっている。
2、これがカイザー様ルートでそういう仕様。
3、バグ
現状、思いつく理由はこの三つだけ。
まず3は除外するわね、だってそんなの対処しようもないし。
2も……そもそも裏隠しルートは展開も仕様も(あるいは存在するのかさえ)不明で、手掛かりもないから打つ手なし。
取りあえずカイザー様の心象は良くしとかなきゃね。
隠しキャラだから攻略が超難しかったりしたらどうしよう……。万が一攻略出来なくてもバッドエンドだけは回避しなきゃ。
そして残るは……1の転生者が存在してる可能性。
誰かが意図的に登場人物の性格矯正に関わっているのなら、今の状況にも説明がつく。一番可能性としては高い気もする。
問題は、 “誰” がそうなのか。
まず思いつくのはベアトリクスちゃん。
悪役令嬢が転生者っていうのはお約束だし、ストーリー通りに進んだ場合、このゲームで一番被害を被るのは悪役令嬢の彼女だもの。
そして、次に可能性が高いのがベアトリクスちゃんの関係者。
ベアトリクスちゃん自身が違うのなら、彼女の性格形成に関わるほど側に居た誰か。
一番怪しいのは、やっぱりカイザー様よね。
登場人物たちとも関わりがあるうえ、年上ってこともあって早めに手を打てそうだもの。なによりベアトリクスちゃんをとても大切にしてるから、可愛い妹を悪役令嬢にしないために方向修正に動いてもなんら可笑しくない。
あと同じ理屈で、もう一人の兄であるガーネスト様や幼馴染のダイア様も候補にあがる。彼らもベアトリクスちゃんを不幸な未来へと進めようとはしない筈だもの。
逆にサフィア様や他の学園での友人なんかは、入学前はさほど深い付き合いはなかったそうだから除外してもいいと思う。
転生者が居るとして、別にその行動に不満を持ってるわけじゃない。
そりゃあ折角ヒロインに転生したんだから、ラブラブあまあまな展開を邪魔されたくはないけど……ベアトリクスちゃんが不幸になるのは反対だし。
それにラブあまイベントは魅力的だけど……現実的にはどうかっていうのもあるのよね。
なにせこの世界は現実。
ゲームなら単純にときめいてられたけど、実際VIPな攻略対象者たちと結ばれたとして……その後やってけるかという問題は大きいと思う。
だって高位貴族に王族に果ては魔族、ぽっとでの小娘にお相手が務まるというのかというね。ハッピーエンドを迎えたら終わり!じゃなくて、むしろそっからの人生があるわけだから。
それに……………。
現実、だからこそ________バッドエンドは絶対に駄目。
『亡国のレガリアと王国の秘宝』は、どちらかというとソフトな乙女ゲームだ。
ありがちな攻略対象者たちの心の傷もそう深いものでないし、悲惨な過去もない。悪役令嬢だって断罪はされるけど死亡エンドはないし、凄惨なバッドエンドやヤンデレ監禁エンドもなければ、ジャウハラとの戦争やジストの王都来襲だって文章でサラッとだった。
ヤンデレ好きや一部のユーザーには物足りなかっただろうけど、グロや鬱展開がなしに甘い恋物語を安心して楽しめるのが幅広い年齢層でヒットした要因だと思う。
一番はなんといっても美麗なキャラデザだけど!!声優陣もすごかったし!
ゲームではサラっと流せる展開でも、現実では戦争も黒竜の来襲も大惨事。
ヒロインの選択でその未来が決まるのかも知れないと思うと……息の仕方も忘れそうになるくらいに不安で、怖くて堪らない気持ちもある。
その選択肢を握るのが未来を知る自分で良かったと思う一方で、どうして私なのっ……ていう気持ちがせめぎ合う。
だから、逢いたい。
もしも私以外にも、転生者が居るのなら……。
この世界の道行きを知る人が居るのなら、バッドエンドを回避する為の協力者になれるはずだもの。
この『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界で生きる住人として______!
絶対に確かめなきゃっ!
ノートの隅の「転生者?」の落書きをシャープペンシルでぐるぐると丸をつけて、そう決意した。
「聞いたことのない異国の言葉やよくわからない言動をする方、ですか?」
こてん、と首を傾げる動作に華やかな金髪が揺れる。
あれから……ベアトリクスちゃんや他の関係者たちにさりげなくカマ掛けを繰り返してみた。結果は、成果なし。
転生者を炙り出すためのカマ掛けには「なんの話?」みたいな、下手するとこちらが変な人でしかない訝し気な表情を返されるばかりで……あまりにも埒が明かずにベアトリクスちゃんに聞いてみた。
「はい。普段あまり聞かない言葉を使ったり、人と違う反応をしたりする人って身近に居ないですか?」
身も蓋もないな……。
自分の質問にそう思わずにはいられない。
我ながらなんとも間の抜けた質問だけど……これでもいきなり「転生者知ってます?」って聞かなかっただけ頑張ったんだよ……!
質問に可愛らしく顎に人差し指を当てたベアトリクスちゃんが首を傾げる。
……というか、やっぱベアトリクスちゃんは転生者じゃないっぽい?
この素直さは天然ものな気がする。
むしろこれが演技だったら女優です!
そんなことを考えつつ答えを待っていると、彼女の唇が開かれた。
「ん~、一人知ってますわ」
まさかのっ?!
「えっ、ど、どんな言動ですかっ?」
前のめりになって喰いつくと、勢いに驚いたのかベアトリクスちゃんが大きな瞳をしぱしぱと瞬く。
ヤバい、これじゃまさに私が妙な言動する人そのものじゃん!
「えっと、私のことを拝んで「萌えっ!」とか「尊い……」とかよくわからないことを呟いたり、いきなりテンションが振りきれたりしますわ」
「……っ!?」
確 ・ 実・ に転生者じゃないですかっ!!!
この世界で“萌え”とか聞いたことないもの!
「ちなみにその人ってっ??」
「私のメイドですわ」




