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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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バレました


 誰も居ないのを確認してそっと足を踏み出す。


 壁際に隠れ、周囲を気にしつつ歩く俺は若干(じゃっかん)の不審者。

 幸いにも目視できる範囲に人はおらず、軽く安堵の息を吐き出してそのまま廊下を歩みはじめる。誰も居ないのは当たり前、なにせ今は授業中なのだから。


 当たり前、の筈なのに……。

 最近では休み時間に限らずなーぜーかー、授業中にも関わらず音楽準備室(ベストプレイス)まで訪れる女生徒がいるのだ。

 サボって堂々と教師の元を訪れるとは、中々に良い根性をしている。


 なので授業中といえど気は抜けない。

 いつもは意識して伸ばしている背筋が丸まっているのを自覚する。



 最近の俺はお疲れ気味である。

 公爵家の仕事と店舗のオーナー、さらには非常勤とはいえ教師の仕事まで兼任しているのだから当たり前だ。そしてその仕事は自分で選んだことだし、別に不満はない。


 一番の疲れの原因は、まさかの女子生徒たちである。

 予想通り、というか……予想を遥かに上回って女の子たちに追っかけまわされている……。


 普通に数学とか歴史とかの質問しにくるしね。

 ……俺、音楽教師なのだが??


 相手が女性、しかも生徒となれば無碍(むげ)な対応も出来ないし……。

 成人前の少年少女というだけあって感情の起伏が激しいのは仕方がない。それでも貴族としての教育を受けているだけあって、庶民の子供に比べればまだ大人しいし取り繕えているのだろうけど。


 だけど、如何(いかん)せん相性が悪かった。

 なにせ俺の『異能』っぽいものは相手の心の声が聴こえる。


 そして相手の感情が高ぶってたり、触れ合ったりする程にそれが顕著になるという特質を持っている。

 つまり……興奮状態のあの年頃の子たちの中に混じれば、否応なく心の声がガンガン聴こえてしまうわけで……。


 抑える術なく、興奮と熱狂と、さらには隠した本音や欲望まで筒抜けです。

 結果、心身ともにダメージを喰らう俺がいる。


 ただの憧れならまだしもガチの既成事実狙ってくる女生徒の企みとか、目当ての子を狙っての泥沼多重関係や嫉妬に欲望。

 傷つきやすいお年頃特有のナイーブな内面や悩みに、ピンクなハートで男同士の掛け算を妄想されてることとか……。

 その他諸々、ダイレクトに筒抜けなわけです。


 ……怖い。


 人には知らない方が幸せなことっていうのが沢山あるんだ。

 なのにそれを赤裸々にしてしまう俺の体質……。


 マジで『無能』なままで居たかったっ!!

 なにも知らずに生きていたかったよっ!!


 どんよりと暗雲を背負ったように沈んだ気持ちで階段を下りる。


 有能な従者は物理的攻撃のみならず、押しかける生徒たちまで華麗にシャットアウトしてくれるから、リフが居る日は少しはましなんだけどね。本人が望んでくれるとはいえ、リフには他に任せなきゃいけない仕事もあるから毎日学校に同行してもらうわけにもいかないのだ。


 ……っていうか、俺が言っても引いてくれない癖に、なんでリフが言ったら引くの?

 むしろ俺が叱っても「きゃー!」って頬染めて喜ばれるだけなんですけど。


 イジメ?新手の教師イジメなの?

 教師として舐められているのだろうか??


 ……と、いうわけでお疲れ気味な俺は自主避難。



 辿り着いたのは地下の一室。

 薄暗いまではいかないまでも、先程歩いていた校舎内に比べれば採光の低い室内、閉ざされた部屋の中は少しだけ埃っぽい。そして紙特有の独特な香りに包まれていた。


「久しぶりだな」


 首を上げて高い本棚を見上げながら足を踏み出せば、音のない室内に思いのほか靴音が響いた。

 特に目的の書架があったわけではないのだけれど、書架の迷路を奥へ、奥へと進む。


 静寂に響くのは靴音だけで、幾つか置いてある机と椅子には誰も居ない。

 今は授業中だし、なによりこの部屋を訪れる者は(ほとん)ど居ないから。

 存在を知るものすら(まれ)な筈の図書室には、(たま)に専門書を求めて教師が訪れるくらいか。


 そんな場所をなんで知っているか。


 答えは簡単。

 俺が在籍していたころは、この場所が図書室だったからだ。


 本の劣化を防ぐために地下へと作られたこの図書室だが、校舎の改装と共に今は五階の一室へと移された。

 遮光のための暗幕染みたカーテンと、最新の書籍が並ぶ書架。読書スペースは暖かな陽の光が差し込み、広々とした机が並ぶのが現在の図書室だ。


 地下の此処(ここ)に残るのは、あまり使われない専門書の類や取り残された古い家具。本に満たされた、落ち着いた空間が広がっている。


 生徒が授業を抜け出て尋ねてくることもなく、ここはハンゾーたち“影”の眼も届かない。


 つまりは、俺以外に誰も居ない空間__________!!



 おもむろにその場にしゃがみ込むと、両手で頭を抱え、思いのままに吐き出した。


「あー!!誰も居ないって最高!!(たま)には一人になる時間ってやっぱ必要だわ。もう限界なんですけどっ?なんなの、思春期の少年少女こわっ!!子供と思って接してたけど、よくよく考えればもう成人間近だもんな。いやでも、だからって教師誘惑してくるのどうよっ?肉食系怖い……。そもそも俺はぐいぐい来られるの苦手なんだよっっ!!!」


 怒涛の(ごと)く、溜まりに溜まった鬱憤(うっぷん)を。


 普段は優雅な黒鳥という皮を被っているうえ、色々と溜め込んでいたものが限界だったのだ。


 別にここまで来なくてもベストプレイスに鍵を掛けて閉じこもってればいいじゃないか、と思うかも知れないが……。

 先に述べたように授業を抜け出して訪れる生徒がいるあそこは、もはや完全なる安息の地とは呼び難い。壁も薄いから声だって漏れるし。 


 それに窓があるから、校舎外からベアトリクスたちを見守ってくれている“影”たちに丸見えっていうね。

 こんな場面見られたら、確実に気が触れたと思われますよね。


 殿ご乱心ーっ!!って。

 殿じゃねーけど…………。


 その点、この旧図書室は校舎の奥深くかつ窓のない地下室だから、誰も眼も届かねーぜ!!


 いや、周辺警護をしてくれてるハンゾーさんたちは有り難いんですよ?

 非常に有り難いんですけど、色々取り繕ってる身としては迂闊(うかつ)に下手な独り言も呟けない状況でして……。


「そもそもリリー嬢なんなの?見た目と中身が違い過ぎるんですけどっ!いや、これは俺も他人のこととやかく言える立場じゃないのは重々承知してるけどさ。

そしてあの子、確かにリリアを彷彿(ほうふつ)とさせるわ。むしろ名前もちょっと被ってるし。あの子ら絶対、気が合うよ。混ぜるな危険!っぽいから、転生者同士絶対マブダチとかならないでほしい!」


 ってか、リリー嬢ってさ絶対に俺を攻略対象者って勘違いしてるよねっ?!


 残念、ただのモブですけどっ!!


「もう無理。俺の心が死にかけてる。女生徒怖い……。生徒だけじゃなくてあからさまに誘惑してくる先生とかもいるしさ、この学園の風紀どうなってんの?風紀委員とか居ないの?

マイエンジェルたちが日々癒しを補給してくれなきゃやってけない。ってか、あの子たちが居なきゃ教師になんてならなかったけどね!試練、試練なの?俺のブラコンとシスコンが試されてるのっ?!」


 情緒不安定な心の内を思うがままに吐き出し、髪をぐちゃぐちゃと掻き回して顔を上げた。


 そして…………バッチリと視線があった。


 好奇心旺盛なペリドットの瞳と。

 そして瞳は見えないものの、長い前髪の向こうからこちらを見つめる視線と。


 完全に俺の奇行が目撃されていた。


 ………………ヤバい、どうすんのコレ?!




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