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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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42/210

あざとさは天然モノであることが肝心

(続・リリー視点)



「手合わせして下さいっ!!」


 カイザー様の腰に抱き着いてキラキラ光る瞳を向けるワンコ。


 ……違った。


 無い筈の尻尾と耳をふりふりピコピコしてるのは攻略対象者であり、ここには居ない筈のメラルド。


 居るしね……。


 来年まで出会わない筈が、入学数日目にして早くも遭遇した。

 しかもヒロイン(私たち)になんて欠片も意識を向けてないしね。

 カイザー様に懐く姿は飼い主に懐くワンコそのもので、ぶっちゃけヒロイン(私たち)なんて眼中にもない。教室の中からただ立ち尽くしてその光景を眺めることしか出来ない。


「なんでここにいるんだい、メラルド?」


「カイザー様に会いに来ました!」


「メラルド様、勝手に高等部に来てはまたガーネスト様に叱られてしまいますよ」


「あっ、サフィア様ー。こんにちはー」


「えっ、いつも来てるの?」


「はい。ガーネスト様や騎士志望の先輩方にもよく突撃してますね」


「サフィア様も異能でお強いって聞きました。今度手合わせしましょう!」


 そして自由……。

 ゲームのメラルドも自由な仔犬キャラだったけど、磨きが掛かってる気すらする。


 そしてカイザー様、弟妹であるガーネスト様たちや王子のダイア様はともかくとして、普通にサフィア様やメラルド君とも交流あるっぽいし。

 もうストーリーが全然わからない……。


 思わず遠い目になった。


「高等部は少し離れてるんだから、授業に遅れてしまったら大変だよ」


「大丈夫ですっ!次、嫌いな数学なんで!」


「全然大丈夫じゃないよ。ほら、早く教室に戻りなさい」


「えー!!!」


「えー!じゃない。手合わせなら今度放課後にでも付き合ってあげるから、休み時間に高等部に来ては駄目だよ」


 ドヤ顔で言い放ったメラルド君は、当たり前に注意されてぷくりと頬を膨らませた。


 可愛いっ!

 なにその顔っ!


 思わず机を叩きそうになったのを気合で堪えた。


「ほら、これあげるから」


 むくれたメラルド君の頭を撫でながらカイザー様が差し出したのは可愛らしい飴玉で。


「わーい!ありがとうございます」


 差し出されたそれを早速お口へと放り込むメラルド君。

 しかも二つ、結構大き目なアメちゃんを同時に。


「おひしいでふ」


 ……口がいっぱい過ぎて滑舌(かつぜつ)回ってないし。


 そしてなんでカイザー様は飴玉持ってるの?

 好きなの?

 顔に似合わず常時甘い物がないとダメな甘党なの?それとも餌付け用?


「はいざーさまもさふぃあさまも今度てはわせしてくらはいねー!!」


 そしてブンブン手を振ってメラルド君は去って行った。


「喉につまらせないよう気を付けるんだよ」


「廊下は走っちゃ駄目ですよ」


 そして見送るカイザー様とサフィア様が優しい。

 メラルド君が無邪気なワンコだからか、カイザー様やサフィア様も普段の貴公子然とした丁寧さよりも子供対応で、これはこれで美味しいとか。

 麗しい二人のツーショットが神々しすぎていっそ崇めたいとか。

 イケメンたちの遣り取りを眺めつつ、一緒に雑談を交わしてる女の子たちが可愛いとか。

 色々と思うことはあるけれど、取り敢えず一つだけ。


 どうしてこうなったっ………?!


 美形たちに囲まれて毎日が尊く、相も変わらず心臓は過剰労働中です。


 ……だけど、肝心のイベントが一つも発生してないってどういうことなのっ?!


 この前だって……顔が好みだしなにより同じクラスメイトで接点も多いということで、サフィア様を攻略しようと試みたの。

 イベントは発生しないし、全然ストーリー通りに進まないし、これはもうこっちから仕掛けるしかないと思って、授業でわからないところがあったふりをしてサフィア様へと話しかけた。


「あの、お聞きしたいところがあるんですがいいですか?」


 ノートを胸に抱いて話しかけた私にサフィア様はすぐ用件を察してくれて「どうぞ」って空いてる椅子を進めてくれた。マジ紳士。


「ここがよくわからなくて…」


 指で問題を指し示せば、優しくわかりやすい解説をしてくれるサフィア様のお顔の麗しさに心臓がいっそ痛かった。


 睫毛長っ!!

 この距離で毛穴がわからないうえに、ものすっごくいい匂いがするんですけどっ!

 髪なんて女子の比じゃないぐらいにさらっさらだし。


「わかりましたか?」


 さらりと髪を揺らして首を傾けるサフィア様に振り子のようにこくこくと頷いた。


 正直、見惚れててなにも聞いてませんでした、すみません!


「有難う御座いました。サフィア様はとても優秀なんですね。学園のテストでもいっつも一位をキープしてらっしゃるって聞きました」


 にっこりと微笑んで褒め言葉を口にした。


「すごいです!だけど……」


 笑顔の後で一瞬だけ俯いて、長い睫毛を憂い気に伏せてみせる。


「きっと、物凄く努力なさっているんですよね。元から頭が良いってだけじゃない見えない努力を沢山……。私、突然貴族の仲間入りをして、覚えることが沢山あってすごく大変だったし不安だったんです」


 スカートの上で組んだ指を頼りなげに彷徨(さまよ)わせる。


「失敗するのがいつも怖くて、だけど沢山失敗しちゃってっ。侯爵家の当主になるサフィア様なら、私なんかより背負ってる重圧も期待も比べものにならないと思います。だけどっ、無理はしないで下さいねっ!なにも出来ないかも知れないけど、私で力になれることならいつでも言って下さいね」


 両の手を胸の前で組んで、菫色の大きな瞳をうるうるさせるのも忘れない。


 喰らえ、小動物系ヒロインの必殺あざとポーズ!!!


 画面の前で何度「あざと可愛い!」と悶えたことか。


 サフィアの設定上、過度の期待を掛けられて育った影響でもある神経質なまでの完璧主義を受け入れ、癒すことが攻略の(かなめ)だもの。

 本当はもっと時間をおいてじっくり攻略を進めたいものの、いかんせんイベントが起きないんだから仕方がない。


「有難う御座います。リリー様は優しいですね」


 ふわり、と……花開くように微笑まれた。


 女神っ!?

 正しく地上に舞い降りた女神の微笑みだった!(男だけど)


 あまりにも攻撃力の高い微笑みに思わず反射的に目を瞑る、本気で眼球が潰れるかと思った。


 そして私の渾身のあざと可愛さは、あっけないまでに打ち返されました。

 ヒロインのあざと可愛い動作は天然だから可愛いのであって中身が私じゃ駄目だっていうの??でも確かに作られたあざとさぐらい鼻につくものはないわよね。


「僕もその気持ちはわかります。失敗することをなによりも恐れてましたから。だけど今は失敗してもそこで終わりじゃないんだって思えます。苦手だからこそ身に着くものもあるってそう教えて下さった方が居るので。リリー様こそなにかお困りのことなどがあったら声を掛けて下さいね」


 はにかむように微笑むサフィア様が尊い、そして優しい。


「あ、ありがとうございます。えっと……ちなみにそれを教えて下さった方って……」


 小首を傾げて問いかけた私に返ってきたのは、


 “彼”の名前で________。


 ゲームでは悪役令嬢でわがまま姫だったベアトリクスちゃん。

 傲慢で俺様だった筈のガーネスト様に、劣等感を抱いた生真面目キャラだった筈のダイア様。

 神経質なまでの完璧主義が薄れゲームより柔らかな印象のサフィア様に、まだ登場しない筈のメラルド君。


 全てに関わっているのは__________。



『カイザー・フォン・ルクセンブルク』


 ゲームでは見かけなかった美貌の麗人、 “()” は一体何者なの?


 これが隠されたカイザー様ルートのストーリーの在るべき姿なのか、


 あるいは、カイザー様もリリー()と同じ“転生者”なの_____?


 確かめなくちゃ。

 私は机の下で決意と共に拳を握りしめた。




「あの、図書室に行きたいんですけど……。あとで場所を教えて頂けますか?」


勿論(もちろん)ですわ。宜しければ図書室の他にも校舎をご案内しますわよ」


「わぁ、有難う御座いますっ!!」


「図書室は五階で少し離れてますの。ですから次の休み時間よりも、お昼休みか放課後の方がいいと思いますわ」


 声を掛ければ、快く案内を引き受けてくれたベアトリクスちゃん。

 ゲームでは選択肢だけだったからこういう時にマップ機能がないのは痛い。でも早々に優しい友達が出来たお蔭で助かったわ。



 これでゲームの攻略の鍵が手に入る筈___!!




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