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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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怪しげとか珍妙でないことを祈る

 



 微笑みかければきゃきゃと可愛らしい声をあげながら微笑み返してくれる可愛い弟妹。


 そっと手を伸ばせば小さな指が人差し指を握りしめる。ほっぺはふにふに。髪の毛はほわほわ。もっちりとしたあんよにぷにぷにの手。


 なんだこれ!?天使か!?

 天使なんですね。わかります。


 心の中で奇声をあげながら、表面上は穏やかに微笑みを浮かべる。


 義母に嫌われてる?

 なんだそれ、知ったことか。


 嫌われてようが(いと)われていようが、決してヘコたれん!

 今日も今日とて可愛い弟妹に構い倒す日々。何なら義母のことも全力で労わりますよ。


 よくぞ、よくぞ天使を遣わして下すった!!


 本性を露わにできるものなら、その繊手を握りしめてぶんぶん振りながら感謝を示したいぐらいです。


 一発アウトだから絶対やらんけど。

 最悪、気が狂ったと思われる……。


 24時間365日愛するマイエンジェルたちを見守っていたいところだが、あいにく俺にはやることがある。


 いつかくる未来を回避する為に!!


 相も変わらず勉学と鍛錬に励み、教養を積み、品位を積み、高みを目指す日々を送る。

 何分身分は公爵家の嫡男だ。

 家庭教師に歴戦の剣の師、学者に芸術家……最高峰の教えを受けられる環境にいた。


 あとはそれをどれだけ血の滲む思いで習得し、身に出来るか。


 そうしてもう一つ。

 どれだけの味方を得ることが出来るか。


 たとえ優秀なスペックがあろうとも、努力をどれ程に積もうとも己一人では成し得ないことがある。異能などという反則技が存在するこの世界なら尚更に。

 だからこそ優秀な人材のスカウトに尽力した。


 他力本願だと笑われようが知ったことか。

 大切なものの為なら笑われることなど()でもない。


 全てはマイエンジェルたちの為に!!


 それこそがカイザー・フォン・ルクセンブルクの信念であり、合言葉だ。




 あんなにも小さく、頼りなかったあの子たちが初めて喋った日。

「にぃに」と舌ったらずな声で呼ばれた日は鼻血を吹くかと思った。


 鼻の粘膜よ、お前はよく頑張った!!


 よたよたと歩き出し、自分が何にも掴まってないことに気づき、きょとんとした後に泣き出したこと。

 手を差し出せば他の誰でもない俺に向かって、真っすぐ歩み寄ってくれたこと。


 全部鮮明に想い出せる。


 ああ、何故この世界にはカメラがない?!

 心のシャッターしか押せないことをどれだけ悔やんだことか……。

 こんなことなら前世でカメラの作り方を学んでおくべきだった!




 そんな日々を重ね、再び訪れた人生の転機。


 父さんの死。

 早すぎる公爵の死に周囲は騒然とし、色めきたった。様々な意味で。


 父さんが死んだならば最大の問題となるのは爵位について。


 葬儀を終えた後、故人を悼むそぶりもなく陛下の前で跡取り問題を話題に上げた親戚共。煌びやかな玉座を前にして、奴らを見つめる瞳は取り繕う素振りもなく冷ややかだったと思う。


 『無能』な俺に爵位は相応しくない。


 そもそも『無能』な俺には公爵の血が流れているかも怪しいものだ。


 ようはそういう話。

 公爵であった父が死んで、怖いものがなくなった途端に声高に騒ぎ始めた。それだけの話。


 だから何だというのか。


 バカみたいに騒ぎ立てる奴らこそ、正真正銘の能無し。

 言葉に相応しく“()()”だと、そう思えば笑みが浮かんだ。

 そんな嘲笑を孕んだ笑みに何人かが息を呑み、言葉を失う。


 この時、俺は15歳。

 16歳の成人を前にした俺は自分でいうのもなんだが美しかった。まさに幼いころから(うた)われた絶世の美男子を体現したかのような美貌だ。


 (うなじ)の辺りで緩く結んで、肩から前へ垂らした胸元をすぎる射干玉(ぬばたま)の黒髪。白磁の肌に、完璧な左右対称に整った(かんばせ)。薄い唇に、憂いを帯びた長い睫毛。

 漆黒の睫毛が縁取る瞳は妖しく輝く黄金で、まるで宵闇に浮かぶ満月の(ごと)くと評判だ。


 残念ながら体格には恵まれず筋骨隆々とはいかなかったが、均整のとれた体躯は中性的な容姿にはよくあってる。


 正直言って攻略対象者じゃないのが不思議なレベルの容色。

 いやマジで。


 別にナルシストじゃないから!

 あくまで客観的な話で、別に自分大好き人種じゃないからね!


 …………誰に言い訳してんだ俺。


 実際、よくいわれる評価は……穏やかで優美な雰囲気なのにミステリアスな色気がヤバい、というもので。

 女性はともかく、ときどき野郎にも頬を染められるのはマジ勘弁して欲しい……。


 あとミステリアスって神秘的っていえば聞こえがいいけど、怪しげなとか珍妙なって訳すと一気に表現が微妙になるからな。


 そんな俺は表情一つ、仕草の一つ一つが非常に目を惹くらしい。

 冷笑一つで大人たちを黙らせ、優美な動作を心がけながら玉座の前へと進み出た。


「陛下、発言をお許し頂けますでしょうか」


 礼をし、発言の許可を求める。

 挙動の一つをとっても騒ぎたてる“無礼者”たちとの格の違いを見せつけるように、頭からつま先まで神経を張り巡らす。 


「どうやら、皆様方は私の出自に疑問を抱いておられるようだ。そして『無能』な私には爵位は相応しくないと仰る」


 そうだ、そうだ!と騒ぎ立てる外野。


 うっせぇーな、今てめーらの意見なんざ求めてねぇんだよ。


 あ、ちなみに喋ってるの俺ね。

 俺、人前では敬語かつ一人称“私”だから!!


「私が公爵家の血を引く実子であることは亡き父も(おおやけ)に明言しており、私自身も両親の間に生まれた子だと固く信じております。されど、私が『無能』であることもまた事実。

…………そこでひとつ提案がございます」


 全ての視線が一斉に集まる。


「我が弟、ガーネストは未だ6歳。弟が成人するまでの10年間私が公爵代理を務め、弟が成人したのちにはガーネストに爵位を継がせたく思います」


 広間に広がる騒めき。

 わざとらしいほどににっこりと、“()()”共を見据えた。


「まさか我が弟の出自まで疑う訳ではありますまい?」


 そもそも格下の分際で公爵家嫡男の出自を疑うことすら不遜(ふそん)の極み。


 奴らがそれをしたのは俺が両親という後ろ盾をなくしたこと、『無能』な若造だと舐めきっているからだ。

 『異能』を持ち、義母とその実家という後ろ盾を持つ弟をこの場で貶める気概はあるまい。


 俺を貶めることで甘い汁を吸いたかったのだろうがアホ共め!


 万一俺が公爵家の血筋でなかったとしても、だ。

 他に正当な男児が居るんだからてめーらの出番がないことぐらいわかるだろうが!


「義母上、いえ、ルクセンブルク公爵夫人。いかがでしょう、貴女も異論はございませんか?」


 問いかければ、呆然としたまま彼女はぎこちなく頷いた。



 こうして、晴れて爵位を手放すことが決まった。

 まぁ、好意的な周囲に考え直せと言われたり、色々あったがそれは割愛するとして。



 現状の俺の立ち位置。


 カイザー・フォン・ルクセンブルク。


 公爵家嫡男にして公爵代理。

 傲慢な俺様攻略対象者と悪役令嬢なわがまま姫改め、マイスウィートエンジェルズの兄。


 ぶっちゃけ、最後の以外はどうでもいい。



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