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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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己の行動に一切の悔いはない

 


 鏡の前、身支度を整え深く息を吸い込みゆっくりと吐き出す。深呼吸をしてからよし!と心の中でひとつ気合を入れ首元のタイを微調整した。


 いつもより早い朝食を終える頃、愛しいマイエンジェルたちが食堂へと入ってきた。


「おはようございます、兄上」


「おはようございます。カイザーお兄様」


「おはよう、二人とも」


 うん、今日も朝から二人が可愛い。


 折角(せっかく)二人が来たのにもう席を立たなくてはならないのは非常に惜しいが、癒しを補給したから我慢しよう。


 や、でもまだちょっとだけ時間あるし、お茶の一杯ぐらいなら……。


 葛藤の末、欲望に負けた俺は椅子に掛けた手をティーカップへと行き先変更させた。

 大丈夫、リフにいい笑顔で「カイザー様?」って声掛けられなかったし、まだ余裕ある。セーフ、セーフ。


 紅茶一杯分可愛い弟妹との会話を楽しみ、名残惜しいながらも席を立った。


「それじゃあ、いってくるよ」


 玄関まで見送ってくれようとする二人を手で制して食事を続けるよう促せば、それでも二人は立ち上がってわざわざ見送ってくれる。

 ウチの子たちマジいい子。


「行ってらっしゃいませ、お兄様。また後でっ!」


「兄上、帰りはご一緒できますか?後でご挨拶に伺いますね」


「ああ、また後で」


 そんな会話を交わしつつ、使用人たちに見送られ玄関へ。


 頭を下げて見送ってくれる使用人一同の中、やけに強い眼差しを送ってくるメイドが一名。それに引き攣りそうになる表情を隠しながら、玄関の先に停まった馬車へと乗り込む。


 “また後で”


 そう、行き先は学園である。


 何故(なぜ)なら、今日から俺は乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の舞台である学園の教師だからだ!!!



 馬車から降り、足を踏み出す。


 数歩の距離を歩き、校門へ。豪奢な門扉に燦然と輝く金のプレートにはこの学園の名でもある“エーデルシュタイン”の文字が堂々と刻印されていた。

 仰ぎ見れば、前世の感覚からいえば城かといわんばかりに美しい建物、画面越しに見続けた学園の姿がそこにはあった。


 さて、なんでこんな事態になっているかというと。

 それは当然、可愛いベアトリクスたちが心配で心配で仕方がなかったからである。


 俺は考えた。

 なんとかしてマイエンジェルたちの傍に居る方法はないか。

 そして考え付いた。


 そうだ、教師になっちゃえばいいじゃないか☆


 名門の学園に通うのは良家の子息子女。

 教育の場に身分を持ち込まないという建前はあるが、まぁ所詮(しょせん)建前は建前でしかなくて。そんなロイヤルな学園の教師たちはそれなりの身分の者ばかり。それこそ貴族だっている。


 さすがに公爵家の嫡男はお初だけど……。

 まぁ、何事にも初めてはあるものだ。


 そんなこんなで教師になることを画策した俺は、早速この学園の理事長に接触した。

 音楽を担当していた教師が産休に入る情報を結構前から入手していたので(byハンゾーさん)、丁度いいと思ってティハルトの誕生日の夜会にて敢えてあの嫌味な男の喧嘩を買ったわけでした。


 いやーナイスなタイミングで喧嘩を売って下さいました。

 アイツは超ムカつくけど、グッジョブですよ!ナイス踏み台!!


 あの場に理事長も居たから、アピールにもってこいだった。

 そして演奏技術の披露と話術を以て無事教師の職をゲット!


 弟妹が心配だからと教師の職を手に入れた俺にティハルトにはめっちゃ呆れてたし、アイリーンには散々揶揄(からか)われたけど、ブラコンかつシスコンとして自分の行動に一切後悔はしていない!(ドヤ)


 あ、ちなみに公爵代理の仕事とかもあるから常勤ではないよ?

 担任や副担任として受け持ちのクラスもないし、選択教科である音楽の教師だから非常勤だし。

 優秀なリフもいるし、最近はガーネストもガンガン仕事手伝ってくれてるからなんとかなるなる。


 取りあえず職員室にてご挨拶ー。


「初めまして、本日より着任させて頂くカイザー・フォン・ルクセンブルクと申します。担当は音楽です。以後お見知りおきを」


 第一印象は肝心!と優雅に微笑みを浮かべて挨拶をする、も……。


『マ、マジで公爵来たっ?!どうなってんだよっ、一体!!』


『な、なんでこんな人がこの学園にっ??』


『きゃーっ!!なにこの美形っ!!はっ、もしかして玉の輿狙えるっ??!』


 うわーい。大混乱。

 ガタガタと椅子を鳴らす人、真っ青になる人に、反対に真っ赤になってくらりと倒れ込む人。

 久々に心の声が抑える術もなくぐわんぐわん来ますね。


 まぁ、そらそうか。公爵家の、しかも代理とはいえ当主が教師とか普通に考えてないしな。お騒がせして申し訳ない。

 でも専門教科の教師は個別に部屋割り当てられてるから、普段は職員室じゃなくてそこに籠ってる予定なんで、気軽にスルーして下さい。


 適度に挨拶を交わした後、早速個室へGO!


 いや、だってずっとあの空間にいるとか耐えられない。

 めっちゃ気遣われてるしね。俺があのまま職員室に居座ったら他の先生たちだって気が抜けないだろうし、慣れてくれるまでは適度な距離感を保ちますよ。お互いのためにも。


 元学園の生徒ということもあり、迷いなく辿り着いた音楽室の隣にある個室へ入るなり、ぐでー……っとソファに身を預けた。勿論(もちろん)鍵を掛けることは忘れない。

 落ち着く。さして広くはない個室だが、人目がなくて自分を偽らなくてすむことのなんと落ち着くことか。


 よし、計画通りここを俺の巣としよう!


 今日は入学式もあるし、就任初日で職員室へ挨拶にも行かなきゃいけないから早めに家を出たけど、明日からはガーネストたちと登校出来るし。出勤の日は学園でも顔を見られる。


 今日は居ないが、リフも従者として学園の関係者に登録済みだ。

 助手として関係者を連れている教師もいるし、なにより身の回りのことを自分で出来ない人間が多いからね。研究者気質の人間然り、身分の高い人間然り。

 お茶さえ自分で淹れられない貴族としては当然補助してくれる人間が必要で、申請すれば従者やメイドをつけることも可能だ。

 学生は不可なのに模範となる教師としてそれでいいのか、と言いたくもあるけれど……。


 俺は別に茶も淹れれるし、身の回りのことだってやろうと思えば出来るけど、申請出来るなら申請しない手はない。

 リフは有能だし、なにかあった時にあの異能は心強いしな。

 空き時間にここで公爵(ウチ)の仕事も進められるし。


 ……と、いうか。


 リフさんから「私がカイザー様のお側に居るのは当然でしょう?」とにこやかに宣言されましたしね。笑顔なのに圧が凄くて「モチロンデスヨー」と答えるしかなかったよね。



 そして入学式がはじまった。


 生徒会長として威風堂々と祝辞を述べるガーネストの姿に、感動で打ち震えながら必死にポーカーフェイスを維持した。いっそ根性。

 どこの学校でも変わらない校長先生の長々とした話に眠気と闘い、見事打ち勝った俺は新任の教師として名を呼ばれた。

 途端に広がる騒めき。


 一歩、また一歩壇上への階段を上がる。


「新任の音楽教師をさせて頂く、カイザー・フォン・ルクセンブルクです」


 マイクに軽く手を当ててそう挨拶した途端……。


「きゃぁーーーーーーーーーーーーーー!!!」


『きゃあぁーーーーーーーーー!!!!』


 衝撃に思わず一歩よろめいた。

 正に衝撃波と呼ぶに相応しい黄色い叫びが鼓膜を直撃し、反射的に耳を塞ぎそうになるのを必死に耐えた。


「恰好いいっ!!」


「素敵っ!!」


「えー、担任の受け持ちないのっ?!」


 辛うじて幾つかは聞き取れるものの、もはや音の塊ともいえる沢山の声と心の声が飛び交う。


 おぅふ。学生の熱気を舐めてたぜ……。


 あまりの熱狂に思わず頬が引き攣った。

 そしていつもこれを受けて平然としているのかと、現生徒会長のガーネストや、サフィアたちをガチ尊敬した。


 壇上から生徒を見下ろせば、キラキラした瞳でこっちを見上げる可愛い弟妹。

 目が合うとこっそりと胸元で小さく手を振るベアトリクスに、不自然じゃない程度に僅かに手を上げて応える。途端に笑顔が漏れるのが可愛い。


 視線を滑らせ、見つけた二人の少女をそっと観察する。


『亡国のレガリアと王国の秘宝』のヒロインたち。


 ストレートロングの亜麻色の髪に同色の大きな瞳の少女と、ふわふわとしたピンクの髪に菫色の瞳の少女。ゲーム通りのヒロインたちの姿がそこにはあった。


 少女の一人、ピンクの髪のヒロインが大きな瞳と口をぽっかりと見開いて、唖然とした表情でこちらを凝視していて……。

 モロに視線がかち合った俺は、とびっきり優雅に見えるように彼女へと微笑みかけた。




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