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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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転生メイドは挫けない!

(リリア視点)



 これがゲームの『強制力』ってものなのかしら?


 誰も居ない部屋で、一人瞳を閉じてそんなことを考える。


 鈍い痛みを訴える足。ジンジンとした痛みを伝えていた足はもはやほどんど感覚がなく、きっと(しばら)くは使い物にならないだろう。

 解放された時の苦痛を思えば、嫌な汗が背を伝う。


 だけど、逃げることなど(ゆる)されない。


 この状況から上手く逃げ出したところで、すぐに見つかるのはわかりきっている。

 どれ程に機転を利かせようとも、きっと私では逃げ切れない。

 見つかってしまう。暴かれてしまう。


 だからただ、今の私に出来ることは耐えることだけ。

 この後に訪れるだろう地獄を知っていても(なお)、耐え続けることしか出来ない。


「だけど絶対に……ベアトリクス様は私が守ってみせるわっ……!」



 違和感に気づいたのは何歳の時だっただろう?

 自分以外は誰も知らない知識や言葉、そして何気なく発した言葉に首を傾げて「なにを言っているの?」と笑うお母様たち。


 小さなときから私は“変わった子”だった。


 なにも変なことをしていないし、変なことも言っていない。

 だけど誰もが私を“変わった子”という。そのことがいつも不思議だった。


 だけどある時、買い物に出かけた街で王族の姿絵を目にし…………全力で叫んだ。


「王子っ?!この顔知ってるっ!!!これ『亡国のレガリアと王国の秘宝』のキャラだし。えっ?転生っ?転生なの??乙ゲーの世界に転生キタコレっ!!??」


 あまりの混乱と興奮に、街中でガッツポーズしながら叫んだら医者を呼ばれた。思わず握り潰した王族の姿絵は買い取りだった。


『亡国のレガリアと王国の秘宝』は、生前の私が珍しく嵌った乙女ゲーム。


 ゲームは嫌いじゃなかったけど、乙女ゲームはあまり手をださないジャンルだった。だって難しいんだもの。

 普通に選択肢を選んだらまずバッドエンドか良くて友情エンドにしか辿り着かない。攻略本なしにクリア出来る人とか相当なゲーマーだと思う。

 ゲーマーでない私は手を出しにくいジャンルだったけど、『亡国のレガリアと王国の秘宝』は絵柄がすごく好みで、特に金髪のお嬢様系女の子が超可愛いくて一目惚れして手を出した。


 最初はバッドエンドばかりでヒロインちゃんが可哀想だったんだけど、攻略本と友人の助言の結果ハッピーエンドも少しずつ増えると、ヒロインちゃんが倖せになる代わりにベアトリクス様が失恋したり断罪されてしまうようになった。


 特に王子様ルート!!

 婚約者の王子様がヒロインと仲良くなって、嫉妬から嫌がらせして断罪されちゃうんだよ?!

 そりゃあ嫌がらせはよくないかも知れないけど……でも婚約者がいるのにイチャイチャする方が悪くない?

 しかも王子様と居る時のベアトリクス様の表情が可愛くて可愛くて、だんだんその表情が曇っていく切なさと断罪に、思わずコントローラーを投げ出して号泣しました。


 なぜなら、当時リアルに浮気されてたので。


 昔からどうも男運が悪くて、告白されても付き合うとすぐ振られるの繰り返し。

 大学に入ってすぐ付き合った彼も、やっぱりあっちから告白してきて付き合うことになったくせに急によそよそしくなった。


「ごめん、他に好きな子が出来たから別れて欲しい」

 そんなお決まりの言葉でサヨナラ。


 (すが)ることも、引き留めることも出来ずに、出来たのはただアイツの鳩尾(みぞおち)に右ストレートを叩き込んだことぐらい。

 完璧な泣き寝入りだった。

 しかも友人から聞いた話では、好きな子が出来たどころか既にその子と付き合っていたらしい。


 そんな経緯もあって、画面の中のベアトリクス様にめっちゃ感情移入していた。

 嗚咽(おえつ)を上げながらテレビの前でボロ泣きする姿を見て、通りがかりの兄がドン引きしてたけどそんなことおかまいなしに泣きじゃくった。



 そして、転生したこの世界にはベアトリクス様が居た。


 だから決めたの、「私がベアトリクス様を倖せにしよう」って!

 一番の推しキャラであるベアトリクス様を悪役令嬢になんてさせはしない!!転生者の名にかけて!!


 奮起した私は計画を練り始めた。

 まず重要な問題は…………どうやってベアトリクス様と接触するか。


 そして考え付いた手段がメイドだった。

 善は急げ!とばかりにルクセンブルク公爵邸の戸を叩いた私は……、


「誰コレっ?!」


 そこで出会った超絶美形相手に、開口一番で叫んだ。

 いきなり叫ばれたあっちも吃驚(びっくり)してたけど、吃驚(びっくり)顔も美形とかすごい。


 なんと、その超絶美形がこの屋敷の当主のカイザー様だった。当時御年18歳。

 確実にメインキャラだろう美青年にも関わらず、全く見覚えがないキャラに大混乱しながらも面接が行われた。


「なにか得意な仕事はありますか?」


「特にないです!」


「……では、苦手な仕事は?」


「家事全般が苦手です!」


 リフ様との口頭面談はなんの支障もないまま進み、


「…………志望理由を聞かせて頂けますか?」


 ナイスすぎるリフ様からのパスに、絶好のアピールポイント!とばかりに立ち上がった。


「ベアトリクス様のメイドになりたいからです!!むしろ、それが使命かと。私はきっとベアトリクス様をお救いするために、この世界に生まれてきたんだと思うんですっ!4年留年して同級生になる手も考えたんですけど……両親に大目玉喰らって諦めました。ここは逆に歳の差活かしてメイドになれば、ずっとベアトリクス様のお側に居られるなって思って決めました!!!」


 拳を握って力説していたところに天使が二人現れた。

 幼いベアトリクス様とガーネスト様はマジ天使級の可愛さだったわ。思わず崩れ落ちた私を心配してくれたとこもマジ天使。


 しかもベアトリクス様は「面白いお姉さん」と懐いてくれて……そんなこんなで無事この屋敷のメイドとなりました!



 そうして遂に、乙女ゲームの舞台が幕を開けようとしている。


 一番怖いのは……ダイア様ルート。

 現在、ベアトリクス様とダイア様はどっから見てもラブラブ両想いだし、ゲームと違って婚約者ではないけど……このままヒロインと出会えばあのストーリー通りに話が進んでしまう可能性が一番高い。


 次に不安なのがガーネスト様ルート。

 なんだかんだで仲良しのお兄様をヒロインに取られてしまうのを良く思わない可能性があるし、お友達のカトリーナ様を応援してるでしょうから、やっぱりヒロインは邪魔者でしかないもの。


 正直、このお二人以外のルートなら、ベアトリクス様は邪魔をなさらない気がします。

 特に今のベアトリクス様はゲームのわがまま姫と違って、ただの天使ないい子ですし。

 なのでヒロインちゃんがお二方以外を好きになってくれれば、問題ないなと思っていた時期もありました。


 ……が、ここにきて問題勃発!!


 カイザー様が学園の教師になられることにっ……!!


 あの人絶対攻略キャラよね?!

 パッケージでも見た記憶ないけど、あの顔でなんのキャラでもないとかないでしょ?第一このタイミングで学園の教師になることがなによりの証拠。

 

 アレだ、隠しキャラってやつでしょ?

 確か……隠しキャラって………、黒いドラゴンって友達が言ってたっ!?


「っ!?」


 思わず声を上げそうになった口を両手で押さえた。

 危ない。叫ぶとこだった。


 ドラゴン……ってことはカイザー様魔族なのっ?!


 いや、でも……思い当ればそんな気もしてきたかも。だってどこか人間離れした美しさだし、金色の瞳だって妖艶で魔性な雰囲気だし……しかも黒いし。

 思わぬ雇い主の秘密を知ってしまったことで、ドクドクと早鐘を打つ胸を押さえて落ち着ける。


 別にカイザー様が魔族だっていいわ。

 優しいし、美形だし、乙女ゲームの攻略対象者なら悪いキャラではないのだろう。

 そんなことよりも重要なのは、カイザー様が攻略対象者なら(すなわ)ちそれはヒロインのターゲットの一人ということ。


 大大大好きなお兄様を取られたら、確実にベアトリクス様の悪役令嬢フラグが立つじゃないっ!?


 ……と、いうことで私はカイザー様の元に直談判に向かった。



「カイザー様、大切なお話がございます」


 改めてマジマジとカイザー様の顔を見つめた。

 すんごい美形。これはヒロインにロックオンされる可能性大だと、危機感を高める。


「失礼ながら、カイザー様にご忠告したいことがあります。

カイザー様は学園の教師になられますよね。正直、すっごくモテると思います。あのくらいの子たちって大人の男性とか大好物ですし、同じ年にはない魅力がありますしね。私、本来は恋愛に年齢って関係ないと思うんです。だって好きになったら仕方ないですし、障害とかむしろ恋のスパイスですし。

禁断って響きもいいですよね。教師と生徒とかすっごく美味しいと思います。美味しいと思うけど……駄目なんです。駄目なんですよ、そこは!手を出しちゃいけない領域、正しく禁断!なんです!!

いいですか、カイザー様?相手は一回り近く年下の女の子、ベアトリクス様と同じ年の女の子です。どれだけ可愛くても好きになっても手を出しちゃいけませんっ!!犯罪です!!ベアトリクス様だって悲しむし、それこそ教育委員会とかあれば通報される案件ですよ。

だからどうかカイザー様、鉄の自制心を持って生徒に手出しは、むぐっっ……」


 大演説を繰り広げていると突然、物理的に口を塞がれた。

 目を白黒させて振り返ると、そこに居たのは……。


 メイド長っっ!?


 般若(はんにゃ)形相(ぎょうそう)をして立っていたメイド長に声にならない声で叫ぶ。


「大変、大変申し訳御座いませんでしたカイザー様っ。このバカ娘にはよぅーく言って聞かせますので、どうか寛大なご処分を」


 直角に頭を下げるメイド長に横目で睨まれ、慌てて頭を下げる。っていっても、強制的に頭押さえられて下げさせられてますけど。


「い、いや……。別に気にしていないから、お手柔らかに……?」


 若干(じゃっかん)怯みながらもフォローをくれるカイザー様マジ優しい。

 この調子でメイド長を宥めて下さい!って応援してたらメイド長にギロリと睨まれた。ひっ。


 そのまま引きずられ、反省用の小部屋に閉じ込められ……今、ココ。


 悪役令嬢ルート阻止の為にカイザー様の説得に動いたのに、まさかメイド長に邪魔をされるなんて。

 これがゲームの強制力というものなの?!なんて恐ろしい。


 正座による痺れで、もはや感覚のない足を持て余しながらそんなことを考える。

 だけど「ベアトリクス様が悲しむ」って伝えたし、これでカイザー様が自重してくれるといいのだけど。

 あの人、結構なシスコンだし。


 たとえ、ゲームの強制力に阻まれようとも、

 ベアトリクス様は私が必ず幸せにして見せるんだから!!


リリアさん、大暴走。そして痛恨のツッコミ不在……。

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