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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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34/210

「そろそろくノ一来ないかなー」(某メイドの独り言)

 

 たららたったた~!


 手に持った布を両手でぴんと張る。


『ちょうこうせいのうえりまき~☆』


 両手で思いっきり引っ張りつつ、脳内で某猫型ロボット風に言ってみる。(実際やったら変人(リリア)の仲間入りだから、あくまで脳内のみで)


 力の限り引っ張っても裂けるどころか少しの軋みも見せない、伸縮性に富んだ黒い布。

 ネズミが嫌いな某ロボット風に紹介したとおり、超高性能な襟巻である。どこが超高性能かというと、伸縮性もさることながら(ひとえ)にその耐久性に尽きる。

 なにせ竜の鱗を粉末化したりして練り込んだ糸で織られた特別性。その防御力たるや、金属製の鎧さえ遥かに凌ぐのだ。


 それを持ってある一室へと向かう。


 今日はたしか和菓子が手に入ったからと、ベアトリクスがサスケをお茶に誘っていた筈だから。ちなみに用があるのはサスケではなくハンゾーである。


 それなのになんでサスケに会いに行ってるかって?


 ハンゾー含め影の連中は、基本どこに潜んでいるかわからないからです。


 見かけた影の誰かに言伝を頼むか、影の皆がよく鍛錬を行ってる鍛錬場へ出向いて、やっぱり誰かに言伝を頼むのが手っ取り早い。

 いや、一番手っ取り早いのは「誰かー!!」って呼び掛けることなんだけど。

 そうすると大抵、なにもないところからシュタって誰か現れてくれるから。


 でも俺あれ嫌い。


 気配もなく後ろに跪かれた時のビクッっと感。

 なんなの、俺が小心者なの?

 いや、だってどっから……。


 そして本当に誰も居なかった時の、一人で誰も居ない空間へ向けて呼び掛けてる虚しさ……。


 (ゆえ)に俺は、足を運んでサスケに会いに行く。



「ハンゾー様ですか?」


 口の中のお菓子をもぐもぐごっくん。

 若干(じゃっかん)急いで咀嚼(そしゃく)したあとで、こてんと首を傾げるサスケ君。


「ハンゾー様」


 斜め後ろに視線をやったサスケが呼び掛けた刹那(せつな)


「何用でございましょう」


 すぐ背後に跪くハンゾーさん。


 ………。

 吃驚(びっくり)するのが嫌でわざわざサスケに会いにきたのに……!!


 やや引き攣りそうになる口元を根性で抑えながらも振り返った。

 眼力鋭い黒い瞳と漆黒の髪。今日も今日とて黒装束に身を包んだ、全力忍者なハンゾーさんが跪いた体勢のまま俺を見上げていた。


「これをハンゾーにと思って」


 差し出した黒い布を捧げ持つように両手で受け取るハンゾー。


「我が君から俺にっ!?」


 感動を滲ませ布を凝視し「有り難き倖せ」と首を垂れる姿は、相変わらずどこの時代劇だと言わんばかりで。ハンゾーたちこそ転生者じゃないのかっていう疑問がいつも付き纏う。


 いや、影の中にソラ以外に転生者は居ないっぽいんだけどさ……。

 納得いかぬ……。


 そして感激に打ち震えるハンゾーさんですが、まだそれがなにか言ってもないんだけどね。

 もうその辺の小石とかあげても奉ってくれそうな気がするのは、気のせいだろうか?


「襟巻なんだけどね、竜の鱗を練り込んだ糸で織られているから防御力がとても高いんだ。リリアが贈った額当てやソラが贈った手甲で急所の防御力が上がっただろう?折角(せっかく)なら最大の急所である首をガード出来るものもあればいいかなと思って」



 そう、これはいつだかのハンゾー忍者カスタマイズの一環である。

 あの時は断念したが、俺はその後もハンゾーへ贈る物を考え続けた。


 やはり推しは手裏剣(しゅりけん)なのだが、あれは特殊性が強いし。

 泣く泣く涙を呑んで、妥協案として見出したのが今回の襟巻である。


 忍者の長い襟巻は訓練に使用していた名残とか所説あるが、まぁ由来はどうでもいい。

 黒装束に口布、額当てに手甲に襟巻!

 ビジュアル的に完璧ではないだろうか!


 ちなみに手裏剣(しゅりけん)はないが、ハンゾーは長い飛針のようなものは使用してるよ!

 初めて見た時大興奮して試しに使わせてもらったが……めちゃ難しかった。ダーツ経験はあるからいけるかと思いきや、投げ方からして全然違うしね。


 余談だが眺めていたリフが、


「武器も忍ばせやすいし、体術に自信のない私でも扱いやすそうですね」


 とか呟いてハンゾーに指導を受けていました。


 そして見事に標的である人型の首とか心臓の位置に飛針をぶっ刺して、にこやかに微笑んでらっしゃったんですが……。


 や、リフさんに物理的攻撃手段は必要ないんじゃないですかね?

 薄ら寒いものを覚えた俺が居る。


「早速身につけさせて頂いても?」


勿論(もちろん)


 応える否や、いそいそと襟巻を首へ巻くハンゾー。

 服と同色の黒布が首へ巻かれ、長い裾が垂れ下がった。


 いいね、いいね。

 イメージぴったし!

 これで颯爽とした動きに合わせて、垂れ下がった部分が風に(なび)けばいうことなしだ。

 問題は、実際のハンゾーさんの動きが早すぎて、肉眼ではいまいち追えないということですね。


 ハンゾーも影の皆も本当に人間止めてるのかな?

 知ってる?人間って消えないんだよ?


「凄く軽いですね。まるで身に着けていないかのようです」


「軽量化にも力を入れてくれたからね。でもそんな薄い布でも余裕で斬撃を弾くんだよ。広げて簡易的な盾としても使用出来るし、伸縮性もあるから万が一手傷を負った場合は包帯代わりにして傷の保護にも使えるしね」


「なんと」


 説明に興味を持ったのか、ガーネストやサスケたちがハンゾーに断って襟巻を触らせて貰っている。

 気持ちはわかる、男の子として伝説の武器とか防具的なアレには興味を持つよね。

 微笑まし気にその様子を見守っていると、やがてハンゾーが再度跪いて首を垂れた。


「かように見事な贈り物、光栄至極に存じます。この栄誉に報いる為にも、我が命を()して勤めに励ませて頂きます」


「違うよ」


 相変わらずの忠義に溢れた堅物な言葉に軽い否定の声を返せば、顔を上げたハンゾーの怪訝そうな黒曜石の瞳と視線が合った。

 戸惑いを浮かべる表情は、いつもの眼光鋭く凛々しい姿とは印象が違って思わず微笑みが浮かんだ。


「それは命を()す為に与えたんじゃない。役目を果たし、尚且(なおか)つハンゾー自身にも無事で戻って来て貰う為に贈ったものだ。そこを間違えないで欲しい」


 見開かれる黒曜石を見据え、次いで隣の鈍色の瞳を見据える。



「 勝手に死ぬことなど(ゆる)さない 」



 不敵な笑みを浮かべ、傲慢(ごうまん)に言い放てば二つの影が首を垂れた。


「そうよ。ハンゾーもサスケも影のみんなは私たちの大切な人だもの。ちゃんと無事にこの家に戻ってきてくれなきゃ駄目なんだから」


 俺の右腕に抱き着きながら、ぴょこりと顔を覗かせたベアトリクスが跪いた二人を見下ろしながらそう言って。


「誰かに負けるなんてうちの優秀な影らしくないぞ」


 年下のサスケの髪をわしゃわしゃと撫でながらガーネストも言い放つ。


「我が家のお姫様たちを悲しませることは許さないよ?」


 微笑ましい弟妹を見ながら、茶目っ気を含ませて再度二人を見下ろせば、


「「御意に」」


 と揃った了承の意。


 いや、だから……どこの時代劇だよっ!て思ったのはここだけの話。


 御意とか日本でも日常生活で聞いたことねーわ。

 某医師ドラマぐらいでしか耳にしたことないし。似合ってるからいーけどさ。



 さすがに希少すぎて竜素材の襟巻は用意出来なかったけど、後日、影の中の希望者にはハンゾーと同じような手甲をプレゼントしました。


 鎧タイプは重い上に音がして隠密活動に適さないので、簡易的かつ手の甲の部分には鉄鋼が埋め込まれていて武器を受け止められる仕様です。


 希望者……というか(おも)にソラ以外全員。

 ソラ(いわ)く「武器受け止められるっていうか、まず攻撃受けられる俊敏さがなきゃ無理だろ。そもそも俺は闘う気ないし、死ぬわ普通に」とのこと。


 うーん。

 ソラ用には防弾チョッキ的ななにかをプレゼントした方がいいだろうか……。



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