シュール極まりない
こ、これは……!?
掌に乗る幾つもの白い物体。
固く乾燥し、先端が僅かに欠いたそれ……。
見慣れぬ、だけど同時にすごく懐かしいそれに思わず手が震える。
「“米”というものだそうです」
淡々と抑揚を欠いた声がその答えを告げた。
「米っ!?」
通りすがりのリリアが聞こえた単語に凄い反応で喰いつき、ダダダッと足音も荒く駆け寄ってくる。そしてその勢いに引くサスケ。
以前のハンゾーの時といい、リリアはナイスタイミングで通りかかるな。
「米っ、米は何処にっ?」
詰め寄られたサスケはドン引きつつも、米の行方を告げれば今度は俺がリリアに詰め寄られないか心配している模様。表情は無表情なのに瞳は困惑を伝えていて、その様子に苦笑いをしながら小袋に収められた米を数粒リリアの掌に載せた。
「これが“米”というものらしいよ」
「ほ、本物の米っ!」
拝むように両手をお椀型にして米を掲げ打ち震えるメイドの姿に、それを持ってきた当のサスケは不審者を見る瞳を向けていた。
サスケ、というのはハンゾーの弟子で、幼い頃から暗殺業に身を置いてきた子供だ。
ある時、手傷を負ったサスケをハンゾーが拾ってきた。
彼らが生きる世界に置いて、任務の失敗は即ち死を意味する。居場所を失い、死を覚悟していた彼を雇いたいというハンゾーに許可を出してウチの子に。
その生まれから親を知らず、名を持たず、歳も不明。おおよそ11,2ぐらいと思われる。
鈍色の髪に同色の瞳をしており、表情はほとんど変わらない一見無表情だが……甘いものを食べた時は少し目元や口元が綻ぶし、今だってその瞳には激しい困惑と不信を露わにしてるし、意外と感情豊かだ。
そして、サスケという名。
もうお分かりだと思うが、命名は我が家の転生者メイドにして奇人の名をほしいままにしているリリアだ。
由来は勿論、猿飛佐助。
堂々と「闇に生き、影に生き、主に忠義を尽くす意味を持ちます」の由来をリターンし、見事採用の流れとなった。
ハンゾーと鍛錬を重ねる姿は師弟というより親子のようだし、我が家の影の最年少ということもあり可愛がられている。
そして影の連中は皆(ソラ除く)ハンゾーに憧れを抱いているので、彼をリスペクトしてか職業柄故か全員黒い装束という出で立ちだ。
我が家に確実に忍者集団が形成されつつあります。
「あまり見かけないものでしたので、カイザー様が興味があればと思い持ち帰ってきました」
少々遠い地まで任務で出かけていたサスケだったが、帰還の報告をしてくれた後でそんな言葉と共に差し出してくれた皮の小袋の中身が米だった。
「その白いものは一体なんなんですか?」
リフの問い掛けに対し、
「米です!」
「食べ物だそうです。炊いて主食として食していました」
間髪入れずに名前を告げるリリア。
うん、そうじゃなくてな?
リフは米が何かを聞いてるんだよ。
そして質問に正しく答えるサスケくん。
「炊く……確かに固そうですし、柔らかくするためでしょうか」
「詳しい調理法はわかるかい?」
問いかければサスケは困ったように首を振った。
……となると、当然みんなの視線は“米”の存在を知っているリリアへと向くわけで。
「えっと、まず洗います」
『あ、でも無洗米とかあったかも。洗わなくていい?お米なんて自分で炊いたことないし』
……いや、確実にこの世界に無洗米は存在しないんじゃないか?
「その後、炊飯器に入れてボタンを押します!」
ドヤっと言い切ったリリアに、チョップをかましたくなった俺は悪くないと思う。
この世界に炊飯器ねーよ!!
見ろ、リフとサスケが「スイハンキ?」ってめっちゃ首傾げてんじゃん。
「あ、あれ?炊飯器ってこの世界にない?」
途端におろおろするリリア。
もうこの子転生者って隠す気ねーだろ。
「スイハンキとやらはわかりませんが、鍋や釜で炊いていたようです」
「そうですっ!鍋や釜でもいけます。確か…………赤ちゃんが泣いても蓋をとっちゃいけないんです!」
「赤ちゃん……?」
うん、それで理解出来たら天才だよね。
何故に赤ちゃん?と首を傾げる二人はなにも悪くない。
とはいえ……リリアの説明不足は置いておくとして、俺だって炊飯器以外で米を炊いたことなんてない。
「初めちょろちょろ、中ぱっぱ、赤子泣いてもふた取るな」は聞いたことあるけど、正直それだけじゃ勝手がわからん!
つまりは……米の食し方がわからない!!
せっかく米を手に入れたというのに、なんてことだ!!
深い嘆きに襲われていると、救世主が降臨なすった。
「これを入手した場所を教えて頂けますか?それとカイザー様、その米とやらの現物をお借りできますでしょうか?調理方法等わかるものがいないかあたってみます。興味がおありなら入手ルートの確保なども検討致しますし」
リフ様ーーーー!!!!!
心の中でリフを拝みまくった。
むしろ後光が差して見えました。
そんなこんなで米パーティー!!いぇーい!
ちなみに実際はそんな命名はない。今勝手に名付けただけで、リフが入手してくれた米を、同じく手に入れた調理法に則り調理した試食会だ。
未知の食材を見事に調理してくれたシェフたちに感謝!
テーブルの上には綺麗な三角に握られたおにぎり、そしてシーフードピラフなどが並ぶ。
シンプルに茶碗に盛った白米も捨てがたいが、食べ慣れた転生者組はともかく、はじめての人達には適さないかと思って……。
俺も昔は白米にそれ程魅力を感じなかったしな。
嫌いじゃないんだよ?
嫌いじゃないんだけど……大食いでもなかったし、米とおかずならどうしてもおかずを優先する自分がいた。
だけど食えなくなって気づく。
米は日本人のソウルフードだ!!
もう日本人じゃないけど、元だけど。
そして本日のメイン!
皿の上にはこんもりと盛られたチキンライス(シェフ作)がスタンバイ。
腕まくりをした俺はボウルに卵を割り入れ溶きほぐし、水と片栗粉を加えさらに溶く。ここでのポイントは卵を泡立てないこと!卵白を切るようにして混ぜるのが大切だ。
温めたフライパンでバターを溶かせば、途端にふわりと香る芳しい香りにベアトリクスたちは興味津々で手元を覗きこむ。
弱めの中火で卵液を流し込んだら、ここからが見せ場!
卵のまわりが固まってきたら卵の端に菜箸(この世界の菜箸の名がわからんが要は二本の棒)を入れ、中央に寄せていく。反対側にも同じように菜箸を入れ中央に寄せていけば卵の表面にプリーツが出来る。
菜箸を半周させてドレープが出来たらフライパンと菜箸を反対方向に回す感じでひねる。
ここで卵を破いてしまったら台無しなので細心の注意が必要だ。
きゅっと卵をひねるようにして一周まわしたら菜箸を固定したまま卵をライスの上へと滑らせ、菜箸をそっと引き抜き、仕上げにデミグラスソース(シェフ作)を鮮やかな黄色の周りにかければ…………。
ドレス・ド・オムライスの完成だ。
「わぁ!!」
「すごい!!」
称賛の声を受けながら、完成したばかりの品をコトリと差し出す。
「さぁ、温かい内に召し上がれ」
本日のメイン、それは俺作(実質的には仕上げ以外シェフ作)のドレス・ド・オムライスである。
メインがオムライスの理由。
それは俺がオムライスを好きだから…………ではない。
まず、ドレスのような芸術的な美しさを持つオムライスは見栄えがいい。
そして実際に調理する工程を披露出来る。
つまりは、米の存在を効率的に弟妹たちにアピール出来る!!
西洋文化よりな世界では白米よりも親しみ易いだろうし、なにより兄の手料理という点で高評価を期待出来るという寸法だ。
これからも定期的に白米をゲットしたいのでアピールに余念がない。
俺の本気を見るがいい(キリッ)。
「米は腹持ちがいいらしいし、このおにぎりっていうのは携帯にも便利そうだけどどうかな?」
隠密行動が多く、まともに食事をする時間のないことも多いハンゾーたちに勧めれば、影の皆は概ね米、それも白米を気に入った様子。
だよね、だって忍者だしね!日本食好きそう!
「不思議と懐かしい気がします」
もくもくとおにぎりを食べるハンゾーたち、中でもソラはかなり感動して食べている。
わかる、米、懐かしいよね。
そんな中、サスケ一人訝し気に手に持ったおにぎりを眺めていた。
「口に合わなかった?」
「いえ、美味しいです。ただ白いのだなと思って」
白い……?そりゃ白いよね?
「先日行った先の米は白でしたが、この形のものなら他の場所でも見たことがあります。色が違うのでわからなかったですが、あれも米だったんですね。なにやら黒っぽい液体や芳しい土みたいな調味料を付けて網の上で焼いていたのですが、色は茶色っぽかったので……」
「く、黒っぽい液体に芳しい土」
そ、それって……。
「醤油と味噌っ!??」
はいー、リリアさん。
毎度のことながら有難う御座います。
ですよね!?
醤油と味噌ですよね!?
焼きおにぎりじゃん!!喰いたい!!
「リフ様っ!!すぐさま醤油と味噌手配して下さいっ!!」
大声を張り上げるリリアさん。
うん、異論はないけどメイドとしてまずは主に許可とろうね?
だが、許す!頼んだリフ!
「場所わかんの?遠いなら俺が連れてってやるけど」
転移の協力がいるかとソラまで話に乗ってきた。
転生者組が懐かしの味の確保に必死です。
そして後日、庭にでっかい網だして、焼きおにぎりパーティー!をしました。
美味い、ものすごく美味しいけど、貴族の庭で焼きおにぎりパーティー……。
絵面の違和感が酷い。
ナイスな働きをしたサスケくんには後日、好物の羊羹を沢山進呈しました。




