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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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22/210

続・敵に回してはいけないお方


「まぁ、美味しい」


 口元に手を当て、目の前に座る妙齢の女性は上品に驚きを見せた。


「恐縮です」


 にこやかに答える俺。

 その心境は言葉通り恐縮しまくっている。



 発端は数日前に(さかのぼ)る。


 仕事で城へ出向いたある日、重役たちとの会議を終え、足取りも軽くティハルトと回廊を歩んでいた。

 会議とかマジ面倒くせぇ……会議自体もだけど、この妙な能力が目覚めてからというもの人が多い場所は俺の鬼門だ。

 狸共の心の内が煩い、煩い。


 まぁ、便利な一面もあるけど……いい加減人間不信になりそうですよ?


 夜会も嫌い、笑顔の裏の罵り合いがダイレクトだから。

 着飾って微笑んでる分、その落差がデカくてエグイ。


 ちょっと可愛いなーとか、綺麗だなーって眼を奪われてた女性の心の声が、にこやかな微笑みと裏腹に友人への嫉妬と怨嗟に塗れてる様を見るのはちょっとしたホラーです。


 女性不信になりそう……。

 俺、結婚出来るのかな……?


 そんなこともあり、面倒な場所から解放された俺はるんたった気分でスキップせんばかりに弾んだ気持ちだった。(しないけど)


「そういえば」


 口を開いたティハルトへ視線を向ける。


「母上がお前の菓子を食べたいといっていたぞ」


「さすが、耳が早いね」


 もう出店がバレてる……。

 まぁ、王家に隠せるとも思ってないし、問題はないけど。


「いや、そっちもあるが。お前のお手製の菓子のことだ」


「……」


 思わず足が止まった。

 そして危うく手に持った資料を落とすとこだった。


「はい?」


「シュー菓子のことだ。見事な出来栄えだったとダイアが言ってたし、大方他の令嬢からも話を聞いたんだろうな。…………と、いうことで今度持ってこい。なんなら厨房を使っても構わないぞ」


「決定事項なんだね?」


勿論(もちろん)。あの母上が引くと思うか?俺の分も頼むな」


「ええー」


「なんだ?母上と二人で茶会をしたいのか?」


「いえ、是非(ぜひ)!同席でお願いします」


 そんな経緯があり、まさかの素人(しろうと)の手作り菓子を一国の王妃様&王子殿下に献上することになったのでした。


 城の厨房を借りた際にも料理人たちに二度見されました。


 ですよね。厨房に貴族が居るとか可笑しい……。

 俺でも二度見するわ、そんなん!



「なんでお前菓子まで作れるんだ?」


 美味しい、といいつつも非常に納得いかなさそうな表情のティハルト。


「ベアトリクスが食べたがっていたから。やってみたら意外と出来たんだよ」


「あら素敵。流石(さすが)はカイザー君ね。ティハルト?貴方も家事ぐらい出来なきゃ駄目よ?」


 ころころ笑う王妃様。

 いや……一国の王となる方に家事スキルは必要ない……筈。


「王妃様。つまらないものですがこちらを」


 王妃様相手に突っ込む心の強さは持ち合わせておらず、誤魔化(ごまか)すように小箱を差し出せば、すぐさまメイドが淑やかに受け取り王妃様の元へ。


「『リリアーナ』の限定商品となります。側室様方と王女様にも宜しければ是非(ぜひ)。お口に合えば宜しいのですが」


「まぁ、嬉しい。有難う!あの子たちもきっと喜ぶわ」


「シェリルたちも興味津々だったからな。看板商品の方は既に入手してチャームを集めてたし、限定品は手に入らなくて悔しがってた」


「本当かい?光栄だな。声を掛けてくれれば融通するよ?」


「伝えておく」


 シェリルちゃんはティハルトの腹違いの妹で、ベアトリクスの一つ下の11歳の女の子。王家は男兄弟が多いので皆のお姫様として可愛がられてる。リアルお姫様だけど。


「大人気で売り切れ続出みたいね」


「予想外の反響に驚いてます」


「目新しいマカロンは眼を惹くもの。『リリアーナ』ってことはベアトリクスちゃんのメイドの子のアイデアかしら?」


「ええ、このシュー菓子も含めて」


「ふぅん」


 思わせぶりに瞳を細める王妃様。


 実は……、王妃様も転生者である。


 最初気がついた時は超吃驚(びっくり)した。

 気付いた原因はもちろん、謎の能力による心の声によってだ。


 それにしても……俺、リリア、ソラ、王妃様……。

 この世界やたら転生者多くない?

 だって他にも羊羹(ようかん)の発案者やらモン・シュクレの関係者やらもでしょ?特に羊羹(ようかん)



『最初はカイザー君が転生者かとも思ったけど、まさかメイドの子が転生者とはね』


 そしてお目通りの機会がほぼないにも関わらず、一発で転生者バレしたリリア。

「萌え!」とか呟いてるからバレるんだよ。


 グッジョブリリア!!

 ナイス囮だぜ!!!


『ベアトリクスちゃんたちがゲームの設定と随分性格が違うから不思議だったけど、転生者の味方が傍にいるなら都合がいいわ。ベアトリクスちゃんは将来ダイアのお嫁さんに来てもらうんだもの。悪役令嬢フラグなんて冗談じゃないわ。……でも、あのメイドの子大丈夫かしら?いまいち頼りなさそうだったのよね』


 笑いそうになるのを堪えるのに必死だった。


 リリアの評価が……。

 気持ちはわかるけど、でも俺が絶対阻止するんで大丈夫です!!


「そういえば、カイザー君はいいお相手とか居ないのかしら?」


 鮮やかな紅が引かれた唇で弧を描きにっこりと微笑む王妃様は、とても俺と同じ歳のティハルトの母親とは思えない程に若々しくて美しい。


「いえ……残念ながら」


「そろそろ身を固める準備をしたらどうだ?」


 うるさい!

 自分が婚約者がいるからって偉そうに!!


 第一俺は結婚出来る気がしないんだ!!


「お相手なら選り取り見取りでしょう?」


「それは……」


 確かに声は掛けられますよ?

 でも下手な相手を婚約者にしたら、やっぱり俺が爵位を継げってお相手の実家につっつかれる可能性もあるし。


 なによりこの妙な能力の所為(せい)で、まともなお付き合いが出来る気がしないんだ!


 普段は感情が(たかぶ)らなければそうでもないけど、触れ合ったりしたら余計に心の声が聴こえちゃうし。

 裏表のない貴族なんてそうそう居ないんですよ……。

 本当、この能力もうやだ……。


「もしかして、気になる子とかいるのかしら?」


「それはないです」


 間髪(かんはつ)を入れない答えに、わくわくした顔の王妃様が途端に残念そうなお顔に変わり、前のめりになった身体も椅子へと逆戻りした。

 期待に応えられずすみません。


『やっぱり、カイザー君が例の隠しキャラなのかしら?』


 多分違いまーす。


『ヒロインがまだ未登場だからお相手が居ないって可能性もあるわよね。本来ならカイザー君の歳だともう結婚してても可笑しくないし』


 ぐさっときた。

 今……心にぐさって……。


 確かに22歳だと貴族の嫡男としては結婚、もしくは婚約者が居ても可笑しくないですけど……。

 婚約者はおろか彼女すら居ないのはゲーム都合とは関係ないです。


『でも本当に吃驚(びっくり)したわ。まさか私がゲームの攻略対象者の母親として転生するなんてね。ダイアが生まれた途端、急に前世を思い出して私が倒れたから大騒ぎだったもの。国名とか、貴族の名前とか、なーんか聞き覚えがあるなーとは昔から違和感はあったけど……』


 あれ本当に吃驚(びっくり)しますよね。

 俺も吃驚(びっくり)どころじゃなかったです。


『噂の隠しキャラについては全然情報がないのよねー。興味はあったけど、もし本当に裏隠しルートなんてものがあるなら、せっかくお金かけて開発してるんだし、あれだけ話題にもなってるんだからファンディスクとか出るだろうと思ってから……。あるかわからないルートに時間を費やすより、誰か攻略した後で情報を探すかファンディスクにお金出せばいいと思ってたもの』


 おおぅ……。大人な考え方ですね。

 でも確かに、その方が効率的ではある。 


 乙女ゲームのプレイヤーらしからぬ、夢見がちなとこがない現実的(シビア)なお考えですが。


『そもそも会社のストレス発散に甘いストーリーを楽しみたかっただけだから、攻略に手間取ってイライラするのも嫌で攻略本頼りだったし』


 王妃様は超現実主義者。


『ティハルトが怪しいんじゃないかと思ってたけど、でもこの子婚約者いるしラブラブだもの。やっぱ私的に第一候補はカイザー君なのよね』


 ええー……。

 ベアトリクスと同じ年の子を女性として見れない気がします。


 10以上離れてるし、妹の同級生ですよ?


 実際の会話と、それから王妃様の心の声と。

 二重音声で会話をしながら、恐れ多いお茶会の終了です。


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