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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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209/210

物語のラストはハッピーエンドで!

タイトルがハッピーエンドとなってますが、明日投稿のエピローグでラストとなります!二話連続更新。

 

 ランプを灯し、デスクの引き出しを開けた。

 白いレターセットとインク瓶を取り出し、机の上に広げる。デスクの片隅に常備されているインク瓶よりやや小ぶりなそれは、最近アランの所の商会で取り扱いだした特殊な品だ。


 万年筆を片手に何を書こうか一瞬考え、だけどすぐさまやめた。


 ペン先を紙面に走らせる。

 形式も話題も、文面はとくに考えることなく思うがままに書き綴ることにした。


 きっとそれが一番相応しい、そう思えたから。


 万年筆を置き、ふっと一息つく。

 折りたたんだ便箋を封筒にセットし、封蝋を押す。


 固まった封蝋をそっと親指でなぞり、宛名は書かずにデスクの一番上の引き出しにしまうと鍵をかけた。


 ふと背後の窓を振り返ると、月は随分と高い位置に昇っていた。

 これ以上夜更かしをしていたらきっと誰かに見咎められるだろう。


 明日は大事な晴れの日なんだから。


 カーテンを引き、ランプの灯りを吹き消した。




 ヤバい、ちょっと緊張する。


 朝起きた時はそうでもなかったけど、身支度をすまされ、刻一刻とその時が近づいてくるにつれ少しずつ緊張してきた。


 そんな俺の心中などお見通しとばかりに「何か飲まれますか?」と声をかけてくれるリフに「ああ」と頷き水を貰う。


 小さめのグラスにつがれた水を半分ほど口にしてリフへと返した。

 グラスを受け取ったリフもいつもの従者服ではなく正装だ。


 そして大きな鏡に映る俺の姿も_________。


「本当におめでたいことです。こんな良き日に立ち会えて幸甚(こうじん)の至りです」


 感慨深くそう告げてるリフの姿に苦笑いしつつ「ありがとう」と告げる。


 実際、朝から彼のテンションは著しく高かった。

 素の俺や、ましてやリリアみたいにはっちゃけたテンションの高さではなく、表面上はいつもの落ち着いたリフなんだけど……感激やら、なにやら熱い決意だとか、そういった心の声が感情に乗って伝わってくるぐらいには喜んでくれているらしい。

 浮かべている微笑みも今日は一段と輝いている。


 今日、これから行われるのは俺たちの結婚式だ。


 扉を叩かれ、使用人の声掛けに一足先に式場へと向かう。

 花嫁のエスコートをするリフとはここで一旦お別れだ。


 祭壇の前で静かにその時を待つ。

 恭しく入場を告げる声と扉が開かれる音。

 近づいてくる気配と参列者たちからあがる感嘆の声に、思わず後ろを振り返りたくなるが姿勢をキープする。


『カイザー様っ!!』


 まだ少し距離はあるのに触れずとも聴こえてくる嬉しさに弾んだ心の声に、思わず口元に笑みが浮かぶ。

 お陰で緊張は綺麗に吹き飛んだ。


 どうやらマオには、ベアトリクスのときのような緊張は微塵もないらしい。

 伝わってくるのは喜びに満ち満ちた感情だけ。


 リフがエスコートしたマオが俺の隣に。

 親友であり、相棒であると思っている彼から、花嫁を受け渡されるのはちょっと不思議な気分だ。


 結局、パパポジションはリフに奪われてしまった……。


 ウエディングドレスを纏ったマオは輝くように綺麗だった。


 華奢な肩を大胆に露出したオフショルダーのウエディングドレスは、ボリュームのあるチュールのスカートもあって可愛らしい印象だ。透明感のあるレースと刺繍を重ねたうえに細かな宝石をあしらったドレスは軽やかで愛らしい。


 魔人の特性か、妖艶な雰囲気を漂わす美女に成長したマオの容姿からすると一見アンバランスなドレスだが、輝くような無垢な笑顔とはよく似合っていた。


 ドレス姿をよく見せるように軽く手を広げて、いまにも口を開いて……なんならそのまま抱き着いてきそうなマオに指を一本唇の前に立たせて小さく笑う。

 はっ、と状況に気付いたようにレースの手袋越しの手で口を押さえて、慌てて神妙な表情を取り繕って祭壇に向き合う姿が可愛らしかった。



「カイザー様、マオ可愛い?」


 式典が終わり、外に出た途端にスカートを両手で広げたマオがそう聞いてきた。

 ずっと感想を聞きたくてうずうずしていたらしい。


「勿論、ドレスも可愛いしよく似合っているよ」


 素直に答えれば、えへへと照れ笑いを浮かべて腕にぎゅっと抱き着いてきた。


「ほら、腕に掴まっててもいいからちゃんと前を向いて。危ないだろう?」


「はーい」


 数段の階段を前にそう言えば、いい子のお返事で腕に抱きついたまま歩きはじめる。


 結局、あの夜の答えを出すまでに半年近く。

 そしてこうしてこの時を迎えるまでにはさらに半年近くが経った。


 ガーネストたちも結婚し、その少し前に俺たちは例の別宅へと移った。


 俺()()っていうのは、俺とマオ、ラピスやカマルたちだ。

 もちろん、当然の(ごと)くリフも居る。

 他にも使用人も数人と、新しく雇った使用人たちも。


 影のみんなは護衛対象の俺らが別々に住むことになったため、それぞれの邸宅に常時数人が待機し、その時々に頼んでる仕事によってもメンバーが入れ替わったりしてくれている。

 なんだかんだでベアトリクスたちともよくお互いの家を行き来してるし。


 なお、魔人であるマオにとってはある意味、結婚式よりも重要な儀式だろう“婚姻”の“契約”も先週シェヘラザードさんに立ち会ってもらって済んでいる。


 なのでいまのマオはもう純粋な魔人ではない。

 …………本人、ちっとも気にしてないけど。


 自身の種としての変化、強大な力や長命な寿命を失ったことよりも、マオにとっては俺との結婚の方がよほど重要らしい。

 ちなみに、力の一部は失ったはずだけどマオは充分強い。


 流石(さすが)は元・魔王。

 つよつよだ。


 階段を降りきったところで、ベアトリクスが両腕を広げてマオをぎゅっと抱きしめてきた。


「おめでとうマオっ!すっごく綺麗よ」


 マオをぎゅってするベアトリクスの瞳は感動でうるうるだ。いまにも涙が零れ落ちそう。


「カイザー兄上、おめでとうございます。マオも良かったな、おめでとう。ドレスも可愛いぞ」


「お兄様っおめでとうございます。二人ともどうかお幸せに!」


 満面の笑みで言祝いでくれるガーネストやベアトリクスを筆頭に、次々と祝いの言葉や笑顔が飛び交う。


 結婚式は小さなチャペルでこぢんまりと行う予定だった。

 貴族社会からのフェードアウトも考えていた身としては、ベアトリクスやガーネストたちみたいな大仰な式は必要なければ、面倒な貴族を招待する気もなかった。


 第一、マオをあまり煩わしい目に晒させたくなかったし。


 花嫁に憧れてるマオの為にも結婚式は行うが、ごくごく親しい身内だけの予定だったのだ……。


 ……が、身内以外の参列者が一人増え、二人増え、ちょっとずつ規模が拡大。


 結局、ガーデンパーティーが出来る式場を手配することになりました。

 まぁ、それでも貴族の式としては充分小規模なんだけどね。

 ……参列者は豪華メンバーすぎるけど。


「ギリギリ三十路(みそじ)前に片付いてよかったな」


 グラスを差し出しつつそんな皮肉を言ってくるのはティハルトだ。

 カチン、とグラスを鳴らしつつ背筋を伸ばして控える騎士らをチラリと見る。


「祝ってくれるのは嬉しいけど……夫婦揃って城を抜け出して大丈夫だったのかい?」


「問題ない、留守は任せてあるしな。むしろアイツらも参列したがってたぞ」


「親友の晴れの日を祝うのは当然じゃない。これでわたくしたちも誘われなかったら、さすがに許さなくってよ?」


 横からグラスを差し出してきたアイリーンにはちょっぴり睨まれた。身内だけで済まそうとしてたのを根に持っているようだ。


 他の王子らだけじゃなくて、皇太后さまたちも祝いたがってたと聞いて嬉しくなる。今度一度マオを連れて正式に挨拶に伺う約束をした。


 その後も招待客らと会話をしつつ、軽食を摘んでいるとドシンと腰に衝撃が。


 犯人は言わずがもがな……。

 振り返れば腰に抱きつくメラルドの姿が。


「おめでとーございます!」と料理の皿を手にしたまま突進してきたメラルドはティハルトたちの護衛について来ていた騎士団長に襟首を掴まれている。


 デザートの置かれた台の近くには他にもゲームのヒロイン・攻略対象者たちが居た。

 口々に祝いの言葉をかけてくれるその表情はどれも晴れ晴れしい笑顔だ。


 ゲームで知っている姿絵よりもさらに大人びた彼らは、これからもそれぞれの道を歩んで行くんだろう。


 決められた道筋(ストーリー)ではなく、彼ら自身の将来を。


 そうして俺たちも_______。




 参列者を見送ったところで、控室へと戻る足をふと止めた。

 目についたのは、ガーデンパーティーの飾りつけに使われていたハート形の風船だ。


 丁度いいかもしれない。


 周囲を窺いながらそっと近づき、括りつけられた紐をひとつ解いた。

 胸元に手を差し込み、取り出したものをクルクルと紐に結び付けた時だった。


「なにしてるの?」


 背後からかけられた声に思わず肩がビクリと揺れた。


 振り向けば、両手でドレスの裾を持ち上げながら覗きこむマオの姿。

 俺の姿が消えたのに気づいて戻ってきたのだろうか。


 それにしても気づくの早っや!


「ふうせん……と、お手紙?」


 キョトンと首を傾げるマオにそう、とだけ微笑んで手を放す。

 ふわりと風船が宙に浮いた。


「あっ……!」


「いいの」


 慌てて紐を掴もうとするマオの伸ばされた指を掴んだ。

 レースの手袋に包まれた華奢な手を掴みながらゆっくりと首を振る。


 そう、これでいい。


 気持ちが抑えられず筆を執ってはみたけれど……さてどう処理するかな?と悩んでいたが、きっとこれが一番いい。


 宛名のない封筒。

 この世界の文字でない言語で綴られた文章。


 “誰か” に宛てた、だけど、 “誰にも” 読まれることのない手紙。


 念には念を入れ、封蝋だって変えたし、インクだって特別だ。

 イタズラ目的の玩具として売り出したらまさかのヒットとなった、数時間すると文字が消える特殊インク。

 間違っても誰かに読まれる心配はないだろう。


 ふわふわと舞い上がる風船を見守り、目の前の相手へと視線を戻した。

 少しだけ眩しそうに空を見上げるマオはあどけない表情をしている。


「マオ」


 名を呼べば、金緑色の瞳はすぐにこちらへと向いた。


「結婚式、楽しかった?」


 質問には全力のうんっ!!というお返事。

 ついでにぎゅうぅぅぅっと抱き着かれた。


「ドレス、可愛いって褒めてくれたし、みんなお祝いしてくれたの。お料理もおいしかったし、それにやっとカイザー様のおよめさんになれた!マオずっとカイザー様のおよめさんになりたかったのっ!!」


 どうしよう……かっわいいな、こんちくしょう。


 思わず抱きしめ返す手の力もちょっと強まっちゃうよね。


「だって絵本でもいっぱい読んだの。王子さまとお姫さまはずっと幸せにくらしました、って。けっこん、って一番好きな人とずっといっしょって約束なんでしょ?」


 満面の笑みで告げてくる言葉に思わず目を見開く。


 てっきりただ憧れているだけだと思っていたのに…………だからマオはあんなに結婚に拘っていたのか。


 細い腕が首へと回された。


「カイザー様大好きっ!!」


「うん、私もだよ」


「ずっといっしょ?」


「ああ」


 返事とともに口付けをひとつ。



 晴れ渡った青い空には、高く高くハート型の風船が舞い上がっていた。





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