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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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天使超えの女神級

 

 眩しさに、目が眩みそうだった。


 窓から注ぐ麗らかな日差し、それを受けて立つ姿はさながら純白の女神のようで……。


 俯いていた顔がそっと上げられ、長い睫毛が影を作る。

 わずかに蒸気した頬と、瞳に映るのは不安と期待。


 その表情にふと思い出したのは、入学式の前にはじめて制服を着て「如何(いかが)ですか?」と問いかけたベアトリクスの姿。


『可愛いって言ってくれるかしら?』


 そんな心の声を潜ませた姿がダブって、硬かった表情がほぐれた。

 光の中央へと佇む可愛い妹へと歩み寄る。


「すごく、綺麗だ」


 心からの感嘆とともに言葉が滑り出た。


 染みひとつない滑らかな肌へとそっと手を伸ばす。

 血色の良い肌はいつにも増してコンディションも抜群で、まさに光り輝くようだった。


「あまりにも綺麗すぎて、お嫁に出すのが惜しくなってしまうぐらいだ」


 あの日のやり取りを真似るように口走れば、潤んだ瞳で頬を染めたベアトリクスは「お兄様ったら」と小さく笑った。


 シルク素材のドレスは映画のワンシーンで出てきそうな裾の長いロングトレーン。

 実用的な面からいうと非常に歩きにくいことこの上なさそうだが、華やかで精緻なレースに細かなダイアモンドがキラキラ輝く流れるように広がるトレーンはゴージャスかつ美しい。

 背中でV字を描くレースのオフショルダーは華奢な上半身を演出し可憐さを際立てており、純白のウエディングドレスはベアトリクスの美しさを最大限に引き出していた。


 華やかな金糸の髪と相まって、俺の妹マジ天使!

 いやもう、これは天使越えで女神だわ。


 大きく目を見開いたまま妹の姿を見つめるガーネストの背をそっと押して一歩前にだす。


 うんうん、これは見惚れるよね。


 俺らの妹マジ女神、と感嘆はとても理解できるがちゃんと言葉をかけてあげなきゃ。


 促されたガーネストは唇を引き結び、視線を一瞬逃がしたあとでベアトリクスへと向き直る。


「似合ってる。綺麗だ」


 口にした後ですぐにそっぽを向いてしまったけど、その言葉が本心なのはベアトリクスもわかるのだろう。

 いつものように噛みつくこともせず、はにかんで「ありがとう」と小さく呟く。


 俺の弟と妹がマジ可愛いんですけど。


 本気でお嫁に出したくないんだけどどうしよう。



 今日はベアトリクスの結婚式だ。

 晴れ渡り麗らかな陽気は晴れの門出に相応しい。


 だけど一抹の寂しさも含んで手を差し出した。

 約90°に曲げた肘にそっとレースの手袋ごしの指が添えられる。


 重厚な両開きのドアを前にベアトリクスはやや硬い表情で俯いていた。


 触れた腕を通して彼女の緊張や不安の声が雄弁に聴こえてくるなか、ベールに覆われた顔へとにっこりと微笑みかける。


「逃げだしたい?」


「え?」


 戸惑った声とともに顔があげられた。


「もし結婚が不安になって逃げだしたいなら、このままお兄様が(さら)ってあげようか?やっぱりダイアにあげるのは惜しいし」


 唐突な発言にドアを守る騎士たちの表情が狼狽えた。


 花びらを撒くフラワーガールや、長く伸びたウエディングドレスの裾を持つ役目のベールガールたちも緊張顔から一転、ぽかんとしている。


 ベアトリクスはというと、じっと俺を見つめてから口元を手で覆ってクスクスと笑いだした。


 ベールで表情ははっきりと見えないけれど、軽やかな鈴の音のような笑みが零れ落ちる。


「うん、それでいい。私の妹はどんなときも可愛いけれど、笑顔が一番可愛いからね」


 茶目っ気を込めてウインクしながら「胸を張りなさい」と口にすれば「はい」と頷く声が響いた。



 呼び声と共に重厚なドアがゆっくりと開かれる。

 目の前に見えるのは美しいステンドグラスと厳かな祭壇。十分な広さを持ったクラシカルなチャペルには大勢の来賓が花嫁の入場を待っていた。


 品格漂う赤い絨毯(じゅうたん)のバージンロードをまずは籠を持ったフラワーガールが花びらを撒きながら進む。

 そしてその後に続きゆっくりと足を踏み出した。


 バージンロードは花嫁の人生(過去・現在・未来)を表す道だ。

 祭壇までがこれまで歩んだ人生。

 彼女が生まれてからのこれまでをゆっくりと思い出すように一歩一歩、歩みを進める。


 やばい、泣きそう……と表情をキープ。


 冗談めかしてああいったけど、やっぱり今からでも(さら)いてぇな。


 祭壇までの距離はあとほんの数歩。

 そこで待ち受けるやはり正装で着飾って王子サマっぷりマシマシなダイアに、可愛い妹を引き渡すのが惜しくて仕方がない。


 まぁ、そんなことはしないけどさ……。


 もしもベアトリクスの心にこの結婚を躊躇(ためら)う意思があるなら兎も角、緊張や不安は感じていてもそれ以上に溢れる程の喜びを胸に抱いていることを知っているからね。


 だから俺に出来ることは……。


 これから先の生涯を隣で歩んでいく相手へと大切な妹を託すことだけ。


 本日のもう一人の主役、こちらもピシっと着飾ったリアル王子は目を真ん丸にして秀麗な顔をさっと色づけた。


 慌てて唇を引き結び、表情を取り繕おうとしている姿に口元に笑みが浮かぶ。

 麗しく立派な青年に成長したその姿が、幼い頃の姿にダブる。


 ポカンと立ち尽くしたまま真っ赤な顔でベアトリクスを見つめていたあの日の姿に。


 顔色と平静を保つためか、直視しないようにしながらもドレス姿のベアトリクスをチラチラと横目で窺っているのが微笑ましい。


 一目惚れしたあの日のままに、彼の心は変わりはないらしい。


 あと三歩、……二歩、一歩。

 そっと押し出すように彼女を前に。


 並び立つ花嫁と花婿の姿は一幅の絵のようにお似合いだった。


「健やかなる時も 病める時も

 喜びの時も  悲しみの時も

 富める時も 貧しい時も 」


 厳かな空間に深くもある声が朗々と響く。

 ステンドグラス越しの色とりどりの光が神々しくも厳粛に若い二人へと注ぐ。


「これを愛し 敬い 慰め合い 共に助け合い」


 緊張した少し固い表情で真っすぐに前を向くダイア。

 ベール越しのベアトリクスもきっと同じような表情をしているのだろう。


「その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」


 小さく喉を鳴らしてダイアの唇が開かれた。


「誓います」


 一切の迷いのない、力強い誓いの言葉。


「……誓います」


 一方のベアトリクスの声はほんの少し震えていた。


 きっと待ちに待ったこの瞬間に、感動で胸がいっぱいなのだろう。


 泣き出す寸前のような声と、僅かに震えるベールや手袋に思わず側に駆け寄りたくなってしまう。だけどそんな俺の代わりにレースの手袋越しの指先をそっとダイアが握った。


 指輪の交換が行われ、白く華奢な指にダイヤモンドリングがはめられる。

 彼の名前と同じ、とびきり美しい宝石が光を受けて輝いた。


 一歩進み出たダイアがウエディングベールに手をかける。

 花嫁の美しさに小さく感嘆の声があがった。


 頬を色づけたダイアは中途半端に止まりそうになった手をなんとか動かしてベールを背後へと流し、花婿と花嫁が数秒見つめ合う。


 音を漏らさずダイアの唇が動いた。


 ぶわっと赤くなるベアトリクスに、ダイアもほんのり頬を染める。

 きっと「綺麗だ」とでも口パクで伝えたんだろう。


 それには完全同意だが、正直あんま面白くない。


 そんでもって、このあと行われるお決まりのアレはとっても、とっても面白くないし出来ればあんま見たくない。


「では、誓いのキスを」


 うわぁぁぁぁ…………。


 思わず司祭を睨みそうになったけど慌てて自重。


 見たくないけど、目を瞑ったりも大人げないし、妹の記念すべき日。

 それに結婚式の誓いのキスは直前に交わした誓いの言葉を封じ込めて永遠のものにするという意味があるらしい。


 …………ってことで、見たいけど見たくないからちょっぴり薄目で見ることにした。


 反対側の参列者の席に居るマイ親友夫婦にめっちゃ呆れた目で見られてる気がするけど気にしない。


 ってか、アイリーンはともかくティハルトはあれだぞ?

 サフィアとシェリルちゃんの結婚式でお前は絶対俺の気持ちわかるからな!!


 沢山の人々に祝福され、笑顔に包まれた花嫁はブラコンの欲目を抜きにしても誰よりも綺麗だった。



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― 新着の感想 ―
目出度い。乙女ゲー展開は完全に終わりましたね。随分前からシナリオを外れてはいましたけど、何が起こるかわかりませんしね。まあここまでくれば大丈夫でしょう。 ダイアさんも気合を入れないといけませんね。ベア…
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