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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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201/210

子どもに言い聞かせる難しさ

 

 大至急、とはいえ居場所がわからなくてはどうにもならない。


 自由を信条に掲げる元冒険者とあって、いまだに一所に住居を構えず気ままに放浪を続ける相手を捕まえるのは何気に毎回面倒だ。


 マジで誰か携帯開発してくんないかな?

 ジストに持たせてるような発信機を今度からあのオッサンにも持たせとくかな。


 わりと真面目にそれを検討した。

 それでもギルドへの問い合わせをし、我が家の隠密集団の情報収集も経てどうにか連絡がとれた。



「急に呼び出してなんだよ一体?」


 ボリボリと後ろ頭を掻きながら不満そうなアインハード。

 昨日もお盛んだったのか、首元からチラリと覗くキスマークに漂う酒の臭い。


 そんなアインハードを腹への一撃と共に出迎えた。


「ぐはっ?!」


 予期せぬ一撃にうずくまるオッサンを心配して駆け寄るものなど誰もいない。


 ってか、吐くなよ?

 出会い頭に一撃入れといてなんだが、玄関で吐き散らかしたらブチ切れるからな?


 理不尽?知るか。


「…………っ。痛ってーな!!いきなりなにすっ……」


 キレ気味に腹を押さえて顔を上げたアインハードの怒鳴り声が途中で止まった。

 真ん丸に開かれた瞳が向けられた先は俺の背後。


「誰だ、その美女?」


「誰だと思う?」


「……マオって(ねー)ちゃんとかいたのか?」


 無言で首を振る俺ら。


「アイン、へーき?」


 いまだヤンキー座りでしゃがみこんだままのアインハードにご本人さまから声がかかった。


 そしてアインハードも気付いたらしい。

 ぎぎぎっとぎこちなく動いた首が俺を見上げる。


「マオ……?」


 重々しく頷いてやれば、酔いは一気に醒めたようだ。


 オッサンのポカン顔など可愛くもなんともないがな。


「ってことで、ちょっと外でようか?」


「待て待て待て待てっ!いったいなにがどうなって?!」


「ちゃんと説明するから。鍛錬しながら」


「いや待てっ。絶対これ鍛錬とかじゃねーだろっ?!」


 煩いアインハードの襟首をつかんで庭へ移動。


 あっちの方が断然ガタイもいいけど助っ人もいるから余裕です。


 だって怒っているのは俺だけじゃないからね。

 我が家の最年少のマオはアイドル的な存在で影をはじめ使用人たちにも可愛がられている。


 そりゃあみんなも怒るよね。

 おこおこですよ!覚悟しやがれ!



 俺と影たちから鍛錬という名のフルボッコを受けたアインハードは若干ボロボロ。


 遊んでいると勘違いした魔王コンビも「マオ/カマルもやるー!!」って楽しく参戦したし、なによりリフの治療にトドメを刺されたようだ。どんだけ染みるんだろう?あの薬。

 声も出せないぐらい悶絶するアインハードに改めてリフだけは敵に回さないようにしようって誓った。

 や、元から敵に回す気ないけどね。


「ガキ相手に軽口叩いたことは悪かったけどよぉ、でも流石に予想できねぇだろ、()()は」


 肉体的なお仕置きを受け、さらにはベアトリクスや義母上たちからも口頭での非難を浴びたアインハードは顎でマオを示した。


「…………」


 唇を引き結んで一瞬黙る。


 以前のことといい子ども相手に教育に悪いことを教えるな!という怒りはあるものの、マオの急成長に関しては確かにそうだ。

 まさかこんなことになるとは思わないわな。


「そもそもカイザーは無関係じゃなくねぇ?」


 半眼を向けられ、ぐぬぬ……と唸る。


 それを言われると非常に痛い。

 何故なら、イケオジの発言が切っ掛けとはいえ、マオが大人になりたかった原因は俺。


 この姿になってから3日ほど経つが、毎日のように「けっこんー」って口にしてるし。


 それからもう一つ、切実に困っていることがある。


 姿は大人になったものの、中身は以前のマオのままだということだ。

 肉体に伴って精神も成長しているというわけではないらしく、以前のように俺に抱きつき、膝の上に座ろうとし、なんならベッドに潜り込もうとする。


 幼児の姿なら微笑ましかったそれらも、妖艶な美女の姿では流石にアウトだ。

 ……が、本人そのあたりの自覚が全くない。

 今朝もマオに抱きつかれたガーネストが真っ赤になって引きはがしてたしな。


 ってことで、最近恒例のルクセンブルク会議~!!


 マジでこのごろ開催多いな。

 全然うれしくねぇけど。


「マオ?いまのマオは大人の姿だもの。男の人に気軽に抱きついたりしちゃダメなのよ」


 いい?とお姉さんぶって教えるベアトリクスにマオはキョトン顔だ。


 マオの教育を担当しているマーサや、なんだかんだでマオを可愛がっている義母上も一緒になって言い聞かせる。


「なんで?」


「淑女は慎みをもつことが大事なのよ」


「つつしみ、ってなーに?」


「そ、それは……えっと、人前で男の人とイチャイチャしたりしないの」


 不満顔のマオを女性陣が説き伏せるのを俺らはただうんうんと頷いて聞いていた。


「でもアイリちゃんはイチャイチャしてるよ?」


 ほらみろ、これだからあのお姉さんは教育に悪いんだ。自重しろ。


「それにベアちゃんもラブラブしてるし、ガーくんだって」


 おおっと、俺の弟妹も被弾した。


 真っ赤になってあたふたしている二人を見る周囲の目は生ぬるい。


「ラ、ラブラブなんて……!」と否定するベアトリクスだが、お兄ちゃんの目から見てもラブラブはしていると思います。

 お兄ちゃんは何度それでブロークンハートしたかわからないよ、妹よ。


 アイリーンは結婚しているし、ベアトリクスやガーネストも婚約者だから……という説明にマオはぱぁっと顔を明るくした。


「お外の人にはしなーい!それでいいでしょ?」


 そのままぎゅうっと俺の腕へと抱き着く。


「マオはカイザーさまと結婚するからくっついてもへいき!」


 抱きついたまま見上げてくる姿はとてもかわいい。


 腹に一物を抱えつつ媚びを売ってくる女性たちとは裏腹にそこには打算も邪心も一ミリも含まれていないことがわかるのだが、全く平気ではありません。


 これをお外でやられた日にゃ大騒ぎ間違いなし。

 幼児が無邪気に抱きついているのと成人女性に抱きつかれてるのでは全く話が違う。


「それにみんなは家族だもん。ベアちゃんもカイザーさまには抱きつくし家族はいいんだよね?」


 アインハードからの「やっぱりおまえが原因じゃねーか」って雄弁な視線がすっごく痛い。


 ……ぐ、反論できねー。


 こういう時、普段の行いがものをいうんだなと実感した。


 で、でもでもっ仲のいい兄妹なら抱きしめるぐらいはセーフだよね?

 うん、セーフ。


 なのでそこはスルーして、「結婚もしてない男女が一緒に寝るのはダメです」と説けば「アインは―?」と返された。


 あれは悪いオッサンなので除外です。


 っていうか、なんでマオがそんなこと知ってんだ?

 まさか遊んでるお姉さんたちとのことまで喋ってんの??

 マジで教育に悪いことこの上ねーな、このオッサン。


「きせーじじつは?」


「その言葉は忘れなさい。いい子だから」


 きょとりと首を傾げつつもはーい!といい子のお返事。

 よし、いい子。


 そんでもって、マーサたちの言い聞かせも虚しくなにも解決していないどころか、“俺と結婚する”って話に戻ってるしね。


 あー、どうすればいいんだ?


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― 新着の感想 ―
まぁ、お仕事中は抱き付かないっていうのはもう言い聞かせてあるから、そこを突破口に人の社会では〜…とかの、その生きる選択をした群れのルールを理解しなきゃ番にとっっっても負担を強いるから〜って方向性とかに…
もうこれはどうしようもないような。どうすればいいんだって、嫁にするしかないでしょう。ちょっと性教育とか大変だけど。 悪い縁でもないですしね。変に貴族の娘さんとか貰ったら実家に配慮しないといけないとかで…
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