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『亡国のレガリアと王国の秘宝』

 



 ベッドの上で髪を掻きむしりながらぶつぶつと呟く俺はまごうことなく不審者。


 混乱しながらも事前に人払いをした自分の英断に今思い出しても拍手を送りたいと思う。

 大混乱に陥りながらも必死に頭の中を整理した。



 まず、此処は

 前世で大人気を博した乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界。


 よくある転生というやつだろう。

 いや、実際よくあるかは別として、小説なんかでよく見るアレだ。

 無理矢理自分を納得させる。


 因みに俺の名誉の為に言わせて貰うが、乙女ゲームは断じて俺の趣味ではない。

 別に人の趣味にケチをつける気はないが、俺の前世が乙女ゲーム好きのオタクでなかった事だけは理解して頂きたい。


 では何故そんな俺が乙女ゲームをプレイしていたかというと。


 何てことはない。

 横暴な鬼姉達の命れ……親愛なるお姉様方のお願いによってだ。




 俺には三人の姉が居た。しかも三つ子。


 全員美人で、社会人。ちょい不良入ったギャル兼姉御風長女。クールで時々ドジッ子な一見出来る秘書ぽい次女。おっとり、だけど一番怒らせちゃいけないタイプな三女とバラエティーに富んだお姉様方だ。


 仲が悪かったわけではない。兄弟の中で一人歳の離れた俺のことを可愛がってはくれたし、社会人になっても実家暮らしだった姉達との仲はそれなりに良好。


 だけど父は単身赴任。

 一番年上の長男は結婚して家を出てしまった。


 つまりは家の中は完全なる女系優位。

 俺の立場はどうしたって低い。


 何故家を出てしまったんだ、兄さんっ!!

 家を出る際、縋りつく俺の肩を抱いて「強く生きろよ!」と激励した兄さんの言葉は今も忘れない。



 脱線した。

 つまり、乙女ゲームはそんなお姉様方の趣味だ。



『亡国のレガリアと王国の秘宝』



 この乙女ゲームにはヒロインが二人いる。

 ストレートロングの亜麻色の髪に、同色の大きな瞳。明るく溌剌とした性格で強い意志を持った瞳が美しい美少女。

 ふわふわとしたピンクの髪に菫色の瞳。気弱で優しい、だけど芯はしっかりとした守ってあげたい雰囲気の美少女。


 プレイヤーは二人の少女の内、一人を主人公に選択できる。


 そして他の乙女ゲームと同じく攻略対象たちの心の傷を癒したり、問題を解決しつつ愛を育む。

 やべ、愛を育むとか自分で言っててキモい。


 正直、野郎に延々口説かれるのは苦行だった。



 攻略対象たちは俺が転生を遂げたこの国、ジュエラルに於いて容姿・家柄・才能などトップクラスの男共。リア充滅べ。


 その家柄たるや王家に公爵・侯爵・伯爵と錚々たる顔ぶれ。

 そして隠しルートに至っては魔族もいるよ!もはや人ですらねぇ。


 乙女ゲーム故、仕方がないのはわかる。

 だが、実際転生した身としてはこのメンツで一人の女を取り合うとか大丈夫かと王国の将来を憂わずにはいられない。



 攻略対象者たちにはそれぞれ宝石を思わせる名がついており、そんな彼らこそがタイトルの『王国の秘宝』だ。

 全然隠されてねーけど。むしろ揃いも揃って目立ちまくりな顔しやがって。



 では、『亡国のレガリア』とは何か。

 これは恐らくヒロインたちのことだと思われる。



 この世界には失われた謎の帝国が存在する。

 名をアンジェス。


 天使に由来する国名のように、かの王族は正しく“神の子”と呼ばれるに相応しい人智を超えた知識を有していたとされる。様々な発展を遂げ、大国の名を欲しいがままにし、そして一夜にして原因不明の滅びを遂げた幻の帝国。


 男児が生まれるのは極めて稀で、それ故に妃の数は多数に亘る。


 血を絶やさぬために成された沢山の子たちの中で、滅びを免れた末裔がヒロインたちという設定だ。



 そしてこの世界、否、この王国・ジュエラルに於いて忘れてはならない設定がもう一つ。


()()』の存在である。


 何故かジュエラルの王族・貴族、他まれにごく一部の平民が持ちうる能力で、読んで字の如く、まさしく異能。

 炎・風・水、その他様々な現象を起こすものから、魅了・治癒・嘘を見抜くなどその能力は多岐に渡る。


 伝説では初代の王が精霊と結んだ契約が発端だとか。正直眉唾だ。



 何にせよ、現にこの国には異能があり、そしてそれは血に受け継がれる。

 異能を持たぬ者と成された子は異能を持たない場合があり、逆に異能持ち同士の子はほぼ確実に異能を持つ。


 そんなこんなでこの国は上層部の血が非常に濃い。


 ごく一部の平民というのは本当にごく一部の身分差を厭わず恋に落ちた貴族と平民の子に異能が現れたパターン。

 逆にその手の子供たちは異能が強力であればその血を保つために貴族の養子・婚姻等と一発逆転も大いに狙える。


 因みに血に異能が受け継がれるといっても、あくまでも受け継がれるのは異能の保持であり、同じ能力そのものが受け継がれる訳ではない。



 世間では転生した転生者は乙女ゲームの概要をはっきりと覚えてないパターンもあるが、俺は違う。細部まではっきりくっきり、もはや攻略本不要レベルで覚えている。


 何故ならこのゲーム、公式の隠しルートの他に裏隠しルートがあるといわれていたからだ。


 公式隠しルートとか意味わからん。隠してんのか隠してねーのかって話だ。そして裏隠しルートって何だよ。聞いたことねーよ、そんなん。



 何を隠そう、俺がお姉様方にゲーム攻略を命令されたのもこの為だ。


 曰く、「そうまで秘されたキャラなんて絶対イケメンに決まってる!」


 スチルは100%全て埋まっているにもかかわらず、その裏に更に存在すると噂された裏隠しルートを見たいと仰せの奴ら……もといお姉様方に言われるがまま延々男どもを口説く日々。思い出しても涙が出そうだ。



 そして……


 裏隠しルートは_______見つからなかった。



 そもそも、存在するかさえ定かではない。

 その存在さえ定かでない裏隠しルートの為に『亡国のレガリアと王国の秘宝』を攻略し尽した俺がいる。






「何っで、よりにもよって…!!」


 やり場のない憤りを抱えたまま、小さな拳をベッドに打ち付ける。

 伝わるぽすんっ、という間の抜けた感触。遣る瀬無さに拍車がかかった。





『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界に転生した俺。


 栄えある公爵家の嫡男・カイザー・フォン・ルクセンブルク。


 射干玉の黒髪に満月のような黄金の瞳。

 幼いながらに完成された白皙の美貌は将来は絶世の美男子になること間違いなしと(うた)われるイケメンだ。

 俺が第三者なら「爆ぜろ!」と呪詛を投げかけるだろう勝ち組。



 しかし_____



 そんな俺はモブである。

 攻略対象者はおろか、サポートキャラですらない。

 立ち絵すらない全くのモブ。


 先程ちらっと述べた公爵家の攻略対象者は俺の弟。

 因みにまだ生まれては居ない。


 そして、乙女ゲームお馴染の悪役令嬢は俺の妹。

 此方も因みにまだ生まれては居ない。



 今から2年後、俺は人生の転機を迎える。

 6歳になると王族・貴族の子供は皆、神殿で異能の判定を受ける慣習がある。



 そして、その神殿で

 俺ことカイザー・フォン・ルクセンブルクは『()()』の判定を受けるのである。


 しかも間の悪いことにその情報が何故か世間に漏れ、

 公爵家の嫡男・カイザー・フォン・ルクセンブルクは『無能』と世間に広く知れ渡る事になるのだ。


 異能を持つ貴族間の子であればその子も異能を有する。


 つまりは________


 公爵家の嫡男は不義の子ではないかという不名誉な噂と共に。




「詰んだ」


 遠い眼をして呟いた4歳の夏。




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