あらゆる意味でキミは光輝いていた
……ってことでお菓子作り中です、まずは生地作り。
鍋に水と牛乳を入れ、ひとつまみの砂糖と塩を加える。賽の目状に同じ大きさに切ったバターを入れ、中火にかけつつ木べらで混ぜながらバターを溶かします。
ふわっと沸騰してきたところで、振るった薄力粉を一度に加えて混ぜ、強火で10秒ぐらい力いっぱいに手早く練り混ぜたら火からおろす。生地がひとまとまりになって鍋肌から離れるまでよく練って……。
ふぅ……、お菓子作りって混ぜたり、練ったり何気に重労働だよな。
溶いた卵を全体の半量入れて滑らかになるまで混ぜてひとまとまりになったら、更に卵を少量ずつ加えてよく混ぜる。木べらで生地を掬ったときゆっくり落ちて、その形がねっとりと三角形になってればOK。
生地を丸口金をつけた絞り袋に入れ、クッキングシートを敷いた天板に絞り出す。この時のポイントは絞り出した生地のてっぺんの飛び跳ねは指先に水を少しつけて押さえること。焼きあがったとき形が綺麗になるんだ。
表面が硬くなるのを防ぐ為に霧吹きで水分を吹きかけて……。
同じ動作をもう一度。
だけど今度は先程の円形ではなく少し楕円形に生地を絞り出す。次は先端の細い絞り袋に少量の生地を入れS字に絞り、片方の先っぽを少しだけ尖らした。
さらにさらに……星型口金をつけた絞り袋に生地を入れ大きな円を描く。
そしてその円に沿うように内側にももう一つ円を絞り出し幅広の円をつくったら、こっちには溶き卵を塗って、スライスアーモンドを散らす。
絞り出した生地はそれぞれオーブンへ。温度を変えて二度焼き。
そして暫く放置。これ重要!
早く出し過ぎたり焼きが足りないと折角の生地がしぼんでしまう。なのでこの三段階でしっかり焼くまで取り出したりオーブンを開けてはいけない。
焼き上げている間にカスタードクリーム作りに取り掛かる。
ボウルに卵黄と砂糖を入れたら泡だて器で手早く混ぜ、振るった薄力粉とコーンスターチを入れ軽く混ぜる。牛乳を少量だけ入れ溶きのばし、残りの牛乳は沸騰寸前の温かいものを少量ずつ加えて混ぜ合わせる。
混ぜ合わせたそれをこし器で鍋にこしたら、中火で絶えず木べらでかき混ぜながら煮て、なべ底をこそげるようにかき混ぜとろりと滑らかになったらバニラビーンズ・粗熱が取れたらバターを加える。七分立てのホイップクリームを入れさっくり混ぜたら香りづけにラム酒も。
これでカスタードクリームの完成ー!!
俺はバニラビーンズがたっぷりでカスタードが濃厚なのが好きです。
一段落に疲れた手をぷらぷらと振っていると……。
「もの凄く手際がいいですね」
「……」
作業を覗き込んでたリアンの称賛に思わず無言になる。
しまったっ!!
俺お菓子作り初めての筈だったよ……。
つい前世での手際を発揮しちまった。
母さんの手伝いや姉さんの代わりに料理してたことが裏目に出たわ……集中しすぎてなんも気にしてなかった。
「そ、そうかな?」
「お菓子作りも出来るなんて、さすがはカイザー様です!なんでも出来るんですね」
白々しい返事にもキラキラした眼を向けてくれるリアンはいい子だ。
あとでご褒美に食べたいだけお菓子食べていいからね。
丁度焼きあがった生地を、少しの間だけ放置してからオーブンから出した。
楕円形にした生地は下から3分の1のところを切り、上側は更に縦半分に切る。
大きな円形の生地の方は厚みを半分に切って冷ます。
そして出来上がった3種類のシュー生地にクリームを詰めていく。
「僕、ほとんどお手伝いできなかったです」
「そんなことないですよー。私なんてただ口しか出してないですし」
「「………」」
リリアの言葉に二人してそっと目を逸らす。
そう、実はリリアさんもずっとここにいました。
そして現在進行形でクリームを詰めるのを手伝ってくれているリアンと違い、リリアは全く手をだしていない。
完全なる菓子情報提供者の役割しか果たしていないが、それでいいのである。
なにせリリアは壊滅的に料理センスがない!!
むしろよくメイド勤まってんなレベルです。
決してこの菓子には触れさせん!!
料理下手に手を出されると大惨事が起こることを俺は知っている。
あれは前世のバレンタイン。
クール系ドジッ子な次女がチョコを作るといいだした時に悲劇は起こった。
三つ子でありながらなんで誰も料理上手が居ない?なんで弟に協力を頼む?とか思いつつも、ゲーム機を片手に雑に指示を出していた。
だってチョコ……ケーキとかじゃなくて、溶かして固めるだけのただのチョコ。
よもや失敗なんて想定していなかったのだ……。
「まずはチョコを刻んで、湯煎でチョコを溶かしてー」
「湯煎?」
「お湯で溶かさないと形成できないじゃん」
「わかった」
そんな会話の後で、ほんの少し目を離した隙に惨劇は起こった……。
ゲーム機から視線をあげると……直にお湯で溶かされ、ドロドロの液体となったチョコがそこにあった。
「なんか全然固まらなさそー。これがチョコになるんだ」
失敗に気づいてもいない姉の言葉に愕然とした。
いや、もうこれ固まらねーよ!
なんで直接、お湯ぶっかけてんの?!
湯煎っていったらボウルに湯張って、それに別の器に入れたチョコ浸すよね?!
え?これ俺のミスなの?!
俺の説明不足??!
そんな初歩的なとこから説明必要だった?!
結局、チョコは俺が作った。
なお、劇物を贈られるところだった彼氏さんと兄さんには超感謝されたし、ホワイトデーのお返しも貰った。
お湯入りチョコはお湯の量がそこまで多くなかったから、温めたミルクを加えてホットチョコレートに加工して姉達に提供しました。勿体ないし。
ちょっと薄いけど……。お湯入ってるし仕方ない。
リリアは何でも炭の塊にする派だそうです。
あと味変、お菓子が激辛になったりするそうですよ。
恐いですね。
ホラーですね。
オーソドックスなシュークリームの絞り込みが終わり、お次は……。
大きな円形のシューには下になる方の生地にカスタードクリームを絞り込み、その上に九分立てしたホイップクリームを内側と外側に2本絞っていく。
「リアンの異能のおかげで凄く助かったよ」
「そんな、僕の異能なんて全然大したことありませんし……」
わたわたと手を振ったリアンの声がどんどんと尻すぼみになっていく。
「そんなことないよ。今日もとても助かった」
マジ超助かりました。
リアンの異能は『冷却』。
氷ほど強くはなく、攻撃には向かないけど生活上はとても役に立つ異能だ。お蔭でクーラーなんて存在しなくても夏も快適だし、怪我の応急処置で冷やしたりもできるしね。
今日もホイップクリームを泡立てる際にお世話になりました!
冷えてないとホイップクリーム全然角がたたないからね。本当に手が死ぬから、大助かり!
なお彼は厨房でも大人気です。
何気に料理って冷やす作業多いもんね。
「でも……日常生活でしか役に立たない役立たずの異能ですし」
「それを私に言うのかい?」
苦笑いしながら口にすれば、はっとしたリアンが慌てて口を押さえてぺこぺこと謝る。
「そ、そんなつもりはっ……!!すみません。そ、それにカイザー様は異能なんてなくても全然凄くて……っ!?」
「私は異能が使えなくても役立たずではない?」
「もちろんですっ!!」
「ならばリアンだって同じだろう。君は充分従者としてガーネストの役に立ってくれてるよ。それにその異能だって素晴らしい。なにせその異能の協力もあって、我が家の姫君たちを喜ばせる事が出来るんだからね。さ、早く仕上げをしてしまおう」
「はいっ!!」
お菓子を扱ってる最中だから頭を撫でてあげることはできないが、代わりに瞳を合わせて笑いかければ嬉しそうに上がる声。
うん、子供は素直が一番。
「そうですよ!!リアンはよくやってます。それに正直異能なら私もちょっと微妙ですし!!」
「「………」」
そして再び無言で目を逸らす俺達。
リリアの異能…………それはずばり『発光』だ。
全身が蛍光色に光輝く。
あれはいつだったか…………屋敷が停電に襲われた日があった。
暗闇の中、心細げな声を上げたベアトリクスに「大丈夫ですよ」とリリアの力強い声が響いた。
そして………暗闇の中、蛍光緑に光り輝くドヤ顔の美少女の姿があった。
噴き出すかと思った……。
腹筋、超ぷるぷるしてた。
思い出してもぷるぷるする笑いと腹筋を抑えつつ、無言のままカスタードクリームとホイップクリームを重ねたシュー生地にメロンにイチゴ、ラズベリーや白桃などを乗せていく。その上にアーモンドと砂糖で作ったプラリネを散らし、もう半分のシュー生地をかぶせてパウダーシュガーを振りかければパリブレストの完成だ。
最後に、楕円形の生地に真ん中が高くなるようカスタードを盛り、縦半分に切ったシュー生地を羽に見立てて左右へ配置。羽の間の真ん中の部分にホイップクリームを絞り、S字に作ったシュー生地を首としてちょこんと乗せて粉砂糖を振りかければ…………優美で可愛い白鳥の完成である。
オーソドックスなシュークリームに、タイヤを象ったフルーツ盛りだくさんのパリブレスト、そして優美なスワン。
さーて、ベアトリクス達は喜んでくれるかなー。




