表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/210

甘い誘惑


 甘い香りが立ち込める厨房で、シャカシャカと軽快な音を立てながら小刻みに手を動かす。

 その手が握る先は、泡だて器。


 カイザー・フォン・ルクセンブルク、お菓子作り中である。


 なんで公爵家の嫡男が厨房でお菓子作りしてるんだよ!とか突っ込んではいけない。厨房の使用人も幾人か不思議そうにこちらを見ているが、そんなことは気にしたら負けだ。


 これには深い理由があるのだ。

 ある日、学園から帰って来たベアトリクスがぷくっと頬を膨らませていた。


「どうしたんだい?学園でなにか嫌な事でもあったのかい?」


 問いかければ、慌てて頬を押さえるベアトリクスはどうやら無意識だったみたいだ。

 赤く染めた顔で頬を押さえる姿も大変愛らしい。


「あまり仲の宜しくないご令嬢たちが居て……」


 歯切れの悪い言葉にああ、と頷く。

 その話なら何度か聞いたことがあった。ベアトリクス達の話題でも、あと影の報告でも。


「意地悪なことを言われた?」


「そうではないのですが……」


 言い淀む姿におやっと思う。

 いつもの怒りを帯びた様子とは違い、今日の様子はどこか拗ねているようにも見えたからだ。


「シュークリームが食べたくて……」


 頬を染めて視線を逸らしながら、小さな声で呟くベアトリクス。


「……シュークリーム」


 呟き、横目でリフを見ればすぐさま返される頼もしい頷き。


「モン・シュクルのシュークリームのことでしょうか?誰か遣いをやりましょうか?」


 だがリフの言葉にベアトリクスはふるふると首を振る。


「もうないの。限定品で完売済みだもの」


 ちなみに、モン・シュクルは少し前にオープンした話題のシュークリーム店である。販売もしてるし、小さなカフェも兼ねている。

 前世のシュークリームと比べて高級だが、貴族の間でもちょっとしたブームとなっている店だ。


 余談だが、この世界にはちょくちょく前世にもあったものが溢れてる。

 シュークリームとかはまだ洋菓子だし偶然の可能性もあるが、羊羹(ようかん)とか確実に作成者転生者ですよね?っていうのまで……。

 つーか、西洋風のこの世界感に羊羹(ようかん)……。

 激しく違和感である。


 だが逆にいつか米などの日本食も手に入る日が来るのではと期待もしている俺だ。


「どういった商品なんだい、シェフに似たものをお願いする?」


 随分と話題になったシュークリームはうちのシェフも作れる。


 完成品から工程を逆算し、レシピを習得したからだ。

 その過程では前世の知識を持つリリア(料理の技術は期待できないためあくまでふわっとした情報提供)や、作り方を知ってる俺のさり気ないヒント(転生者バレを防ぐためあくまで思いついた風を装って情報提供)も盛り込まれている。


 なので完璧とはいかずとも似たようなお菓子なら作成可能だろうと提案するも、ベアトリクスは首を振った。


「限定品のが食べたかったんですの」


「無いんだから仕方ないだろう」


「わかってるわよっ!でもイザベラ様ったら、私たちにすごく嫌みったらしく自慢してくるんですもの。しかもわざわざ販売期間が終わった後で!」


 (くだん)の令嬢を思い出してぷんぷんとむくれる妹の頭をガーネストが雑に撫でる。

 なんだかんだで仲良しな微笑ましい光景が尊い。


「別に純粋にその商品が食べたいわけじゃないのか」


「それもあるけど悔しいんだもの」


「トーマスの作ったお菓子も絶品だと思うよ?」


「私もトーマスの作る料理は大好きですわ。でも特別がいいんですもの……」


 唇を尖らす可愛い妹の様子に、ふむ、とひとつ頷く。

 店では買えない、シェフの作ったお菓子では特別感がないというのなら……。


「では、私が作ってあげようか?」


「「「は?」」」


 さらりと言った言葉に驚きの声が重なった。

 真ん丸な一同の目が可笑しくてくすくすと小さく笑う。


「お兄様が……?」


「ああ、私が作ったものでは特別感に欠けるかな?」


 悪戯(イタズラ)っぽく瞳を細めてベアトリクスを覗きこめば、ぶんぶんと首を振られる。


「兄上、シュークリームなんて作れるんですか?」


「多分問題ないと思うよ」


 驚きを込めたガーネストの問いに答えれば、満面の笑みで立ち上がったベアトリクスが小走りで傍にきて手を握る。


「お兄様が作ったお菓子なんてすごいですわ!ぜひ食べたいですっ!!」


「そんなに期待されたら失敗するわけにはいかないな。なんならお友達も招待するかい?トーマスの作った絶品のお菓子もあれば、お友達も喜んでくれるのではないかな」


「宜しいのですかっ?!」


 きゃあ!と叫ぶベアトリクスは花開くような笑顔だ。


 うん、拗ねた顔も可愛いけど、笑った顔は何よりも可愛い。


「ガーネスト、ダイア様もお誘いしましょう」


「せっかくならカイザー兄上がお菓子を作ることは当日まで内緒にしとこう。吃驚(びっくり)するだろうし」


「そうですわね!私もカトリーナ様達には内緒にしときますわ」


 ちょっと悪い顔をして笑うガーネストにベアトリクスも楽し気に同意する。真剣に日取りを相談しあう二人を見ながら、目の前に置かれた焼き菓子へと手を伸ばした。


 当家のシェフ筆頭のトーマス作は焼き菓子は、見るからに美味しそうな焼き色で、味ももちろん美味しい。

 正直、素人(しろうと)の作ったお菓子より本職のお菓子の方がよほど美味しいと思うのだが、我が家の姫君が特別をお望みならば仕方がない。

 本職の腕には敵わずとも、公爵家嫡男の手作り菓子というのは珍しいだろう。


 ベアトリクスのお友達にも会ってみたいし。

 悪役令嬢フラグのあるベアトリクスの周りには一人でも多く頼もしい味方が欲しいところだ。

 それに実は小規模なお店を経営したいなーと考え中なので、女の子の意見も聞いてみたいと思ってたところだからちょうどいい。


 ほら……順調にガーネストが公爵家を継ぐことになったら俺、無職じゃん?

 一応色々技能もコネもあるし、生活に困ることはないだろうけど、ちょっと将来に向けてお小遣い稼ぎがしたいと考えておりました。

 出資はもちろんポケットマネーから。


 装飾品とかも利率が高くていいなと思いつつ、あんま高級にしすぎても失敗した時のリスクや、あと貴族の客ばっかだと接客が面倒だったりもする。そこで食べ物もいいなと迷った結果…………。


 お菓子&小規模な装飾品にしようかと。


 お菓子は目玉としてマカロンを考え中。

 この世界にまだないしね。ケーキとかよりは日持ちや持ち運びの面で便利だし、なによりあのビジュアルは女の子受けすると思うんだ。


 そしてこんな時のお役立ちメイド、リリアさん!!

 水を差し向けたら前世情報をぺらぺら提供してくれたよ!


 そして無事マカロンの話題を引き出して、俺が知っていたんじゃなくて我が家のメイド発案って(てい)をGETしたぜ。


 利用してごめんな、リリア……。


 店舗を構える際にも一枚噛んでもらうつもりです。

 でも報酬提示したら本人大喜びで乗り気だったから問題なし!


 マカロンとそれから綺麗な細工を施したショコラをメインに扱う予定だ。

 店舗の一部でチャームやアクセサリーなど小振りな商品を扱い、中にはお菓子とセットにしたものも取り扱おうかなと。


 バレンタインとかでもよくあるじゃん?

 ちょっとお高いチョコレートで入れ物がそのまま小物入れとして使用出来たり、リボンの代わりのゴムがそのままヘアアクセとして使えたりする商品。

 あんな感じで入れ物が美しい商品や、チャームを包装に取り入れた商品、紐の部分に小さな宝石をつけた(しおり)としても使えるメッセージカードを付けた商品などを検討中。


 客層としては女性&女性へのプレゼント狙いだ。

 なので俺としては年頃の女の子にリサーチしたいなーって思惑もあったりします。


「ああ、そうだ。ガーネスト、当日はリアンを貸して欲しい」


「僕、ですか?」


 突然名指しされたリアンがきょとんとした顔で自分を指す。


 不思議そうな彼はガーネストの従者だ。

 グレーの髪にブルーグレーの瞳をした童顔で小柄な少年は、ガーネストとは同じ年の仔猫を思わせるような雰囲気の大人しい少年だ。


「お菓子を作るのにリアンの異能を貸して欲しいんだ」


 こうして、ベアトリクスのお友達を招いたお茶会が決定された。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ