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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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16/210

お兄様の域にはまだまだ遠いですわ

(ベアトリクス視点)

 


 鐘の音が鳴り、教師が教室を去ると共にさざ波のように広がる騒めき。

 ペンを仕舞い、ノートを閉じていると淑やかな声が掛かりました。


「ベアトリクス様、先程の公式の応用はお分かりになりまして?」


 ノートを手に近づいて来たのはカトリーナ様。


「どうぞ、カトリーナ様。僕は友人の所に行くので宜しければお使い下さい」


 不意に隣から掛かった声。

  椅子を引いてカトリーナ様に勧めて下さったのは隣の席のサフィア様で……カトリーナ様がお礼を言えば、サフィア様はなんでもないことのようににこやかに微笑んで教室を去って行かれた。


「相変わらず紳士でらっしゃいますわね」


「それにすごく優秀でらっしゃるから、わからないところがあっても直ぐお聞き出来て頼もしいばかりですわ」


「それで、こちらの問題ですけど…」


「ああ、これは……」


 華奢な指が指し示した箇所を覗きこみ、解説をはじめる。すると同じところが不安だったのか数名の令嬢が近寄ってこられて、時おり挟まれる質問に答えながら一通りの解説を終えました。


 なんてことのない学園での日常。

 それは楽しみでもあったものの、最初は凄く不安でしたの。


 基本的に屋敷で過ごす生活は、いつだってお兄様達と一緒で。

 たまにお茶会等はあるものの……同じ年のお友達というものにはあまり縁なく、私の世界は今まで大事な家族と屋敷の人達、それに幼馴染のダイア様たちで出来ていた。


 だけど無事学園にも慣れてお友達も出来ましたわ。


 一番のお友達はカトリーナ様。

 私と同じく公爵家の令嬢で、柔らかそうな淡い金髪に垂れ眼がちな深い翠の瞳のご令嬢です。優しくていかにも女の子らしい性格と大人し気な外見に反して、柔らかな膨らみを主張する胸元が少し羨ましいですわ。


 ダイア様もこういう女の子らしい子の方がお好きかしら……。


  そんなことを思って落ち込むこともあるけど、大好きなお友達ですわ。


 お隣の席のサフィア様は侯爵家の嫡男で、跡取りとして成績も品行もとてもご立派な方です。

 容姿だって透き通る薄水色の長い髪もお顔立ちも女性を凌ぐようなお美しさ。


 今度髪のお手入れを聞いてみようかしら。

 でも男性にそんなことを聞くのは失礼かしら?


 サファイアのような蒼い瞳は、ご本人の冷静な性格もあって冷たく見える方もいらっしゃるようだけど、とっても優しくて紳士的な方です。


 他にもダイアナ様にマリア様……沢山のお友達が出来て毎日が楽しいですわ。


「さすがはベアトリクス様ですわ。私はどうしても数学は苦手で……」


「わかります、私もです。文学や刺繍なら得意なんですけど」


「あら、私はその方が羨ましいですわ。恥ずかしながら刺繍はあまり得意ではないですもの……。それに数学も本当はあまり得意ではなかったんですけど、お兄様が教えて下さったの」


 私の言葉に華やいだ声が上がりました。


「まぁ、羨ましい!!」


「本当、羨ましいですわ。あんな素敵なお兄様たちがいらっしゃるなんて」


「しかも二人も!ズルいですわベアトリクス様。一人私の兄と交換して欲しいくらい」


「それこそ(ずる)いわ!!それなら私も!」


 きゃあきゃあとはしゃぐ声に気恥ずかしくもあり、だけどとても嬉しくなります。


 私には兄が二人居りますの。


 一人はガーネスト。

 一つ上の学年で、生徒会長でもあるからこの学園に通ってる者なら誰もが知っていますわ。


 大規模なファンクラブまであって、私に会いにクラスに訪れる度に黄色い歓声が上がります。まぁこれはダイア様が一緒なこともあるのでしょうけど。


 確かに顔立ちは男らしく整っていて、文武両道な所は認めますわ。

 だけど私から言わせてもらえば、もう少し紳士的になってほしいですわ!皆さまはご存じないのでしょうけど、すぐ私をからかったりするし、喧嘩もたまにしますもの。


 頼りになるのは認めるけど……同時に憎きライバルでもあります。


 お兄様を取り合うライバルでもあるし、あとダイア様と私より仲が良いことも気にいらないですわ。昔は「お兄様」って呼んでたけど、なんだか気恥ずかしくて……今は名前で呼んでいますの。


 そしてもう一人。


 私の大好きなカイザーお兄様。

 いつだって優しくて素敵なお兄様は、半分しか血の繋がらない私たちを、本当に大事にして可愛がってくださった。兄として、時には親のように。


 私たちはお兄様に育てられたといっても過言ではありませんわ。

 もちろん、メイドや屋敷の者達が面倒を見てくれたことは存じてますけれど……。貴族の家庭ではよくあることで、お嬢様育ちのお母様はあまり育児というものに興味はなく、お父様も私たちが幼かった頃に亡くなってしまわれた。

 だけどそれらを補う程の愛情をカイザーお兄様が与えてくださった。


 艶々(つやつや)とした射干玉(ぬばたま)の黒髪に、芸術品のように整ったお顔。

 長い睫毛に彩られた瞳は、夜に輝く満月のように美しいです。


 優しくて聡明で紳士で、動作の一つ一つから滲み出る気品と高貴さ、感情を荒立てることなくいつだって穏やかな微笑みを浮かべていらっしゃるご様子は優美の一言に尽きますわ。


 あのお顔であんな風に甘やかされれば、私やガーネストがお兄様大好きっ子に育つのも当然というものですわ!


 絶対、絶対っ!!

 交換なんてして差し上げませんわっ!!


 ……あんなのでも兄ですからガーネストも駄目ですからねっ。



「確かにガーネスト様は素敵ですけど、カイザー様は『無能』でらっしゃるのでしょう?」


 そんな風にお兄様たちを思い出していると、後ろから掛けられた声に思わず瞳が尖るのがわかります。

 振り向いた視線の先には数人のご令嬢。


「お姿は素敵ですけど」


「公爵家はガーネスト様がお継ぎになるとか」


 クスクスと嫌な笑いを漏らすご令嬢たちに周りの空気がピリピリと張りつめます。


「ちょっと、貴女たち」


 瞳を怒らせて彼女たちに向かって行こうとしたダイアナ様を慌てて押し止めました。固く握り締められたその拳をどうなさるおつもりだったのかは聞かずにいようと思います。気持ちだけなら私も同類なので。


「私のお兄様になにか文句が御座いますの?」


 小首を傾げて問いかけました。


 苛立ちは感じるものの、こんな時こそ落ち着いて対応しなければ。

 私はあのカイザーお兄様の妹なのですから。


 あの優雅さを見習おうと思うものの、少しだけ声が低くなるのは抑えきれませんでした。まだまだ修行が必要ですわね。


「別に、文句だなんて……」


 こちらが冷静に返したことに怯んだのか言葉を濁す令嬢たち。


 当たり前です。だって立場はこちらの方が圧倒的に高いのですから。

 公爵家の嫡男を侮辱するなど、本来なら到底(ゆる)される行動ではありません。


「ただ私たちは事実を口にしただけですわ」


「そうですの。てっきり我が公爵家を侮辱する意図がおありかと勘違いしてしまいましたわ。失礼致しました。……ですが、もし仰りたいことがおありでしたら、その時はいつでもお伺いしますわ」


 自分が出来る最大限の笑顔で、にっこりと綺麗に笑って差し上げました。


「そんな……私たちは…」


「それと」


 慌て出した令嬢たちを真っすぐに見据え言葉を紡ぎます。


「きっとカイザーお兄様には異能など必要ないのですわ。だって……そんなモノがなくともお兄様は完璧ですもの」


 それはただの真実。

 強がりでもなんでもなく、私のお兄様は完璧ですもの。


 こそこそと逃げ去っていく令嬢たちを尻目に、勝気なダイアナ様たちと思わずしてやったりな笑みを浮かべてしまったのは仕方のないことですわ。



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