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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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14/210

長いものには巻かれよ

 

 

 皮肉気に弧を描く薄い唇。

 (あざけ)るように、見下すように、余裕ぶって浮かべられた笑み。


 深い藍色の髪をした青年の紫を帯びた蒼の瞳は細められ、真っすぐにこちらを見ている。白い肌に細い手足はとても鍛えられたそれには見えない。

 だけど三日月の形に歪められた唇と瞳が、雄弁に告げていた。


 お前を消すことなどわけがない、と_______。


 ………が、残念ながら俺にはわかる。

 向き合った初対面の青年が、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)な外面とは裏腹にめちゃくちゃキョドってることが。


 余裕なんて一ミリもない。

 聴こえる心の声は『ヤバい』のエンドレス。


 うん、わかるよ。

 超恐いもんね!ハンゾーさんがマジもんの殺気バシバシ放ってんし。


 俺も恐い。


 さて、この青年が誰かといいますと…………。

 今、(ちまた)を騒がせている暗殺者さんです!


 ニュースペーパーや噂話ではお馴染の凄腕の暗殺者。通称『死神』、その姿を見たものは全て消されると有名なお方です。


 そして現在、そんな危険人物と自宅にて向き合っております。

 隣にはリフががっちり控えてるよ!!

 そして奴の後ろにはハンゾー!!完璧な布陣!!!


 何故そんな状況にいるかというと、ご招待したからである。


 いやね、ウチ敵が多いからさ。

 若造だと思って()められてるしね。


 そんな百戦錬磨の死神さんに可愛い弟妹が狙われたら超大変!ってことで、(じゃ)の道は(へび)。ハンゾーさんに聞いてみたわけですよ。そしたらなんと見たことあるっていうじゃないですか。いやー、内心でツッコミが炸裂したね。


 その姿を見たものは全て消されるんじゃねーのかよ!!


 しかも詳しく聞けば、俺の危惧を悟ったのか「始末しますか?」って言われました。

 超あっさり。

 吃驚(びっくり)なんですけど……。


 思わず出来るのか聞けば、


「あの程度の者、いつでも殺せます」


 とのお返事。

 ウチの忍者が頼もしすぎる件。


 ……と、いうことでひとまず殺さずにご招待となりました。


 うん。

 普通に捕まえてきましたね、ハンゾーさん。


 「じゃあ連れて来て」って依頼したの今朝なんですけど。仕事早すぎか……。

 そしてなんかめっちゃビビッてらっしゃいますけど、暗殺者さん…………どんな脅ししたのかは聞かないでおきますね。


「初めまして。不躾に呼びつけてすまないね」


「別に。お貴族様の傲慢なんて慣れてるし?」


 (あざけ)りを露わに肩を竦める青年に前後から殺気が膨れ上がる。


 もうやめてっ……!!


 心の声から強がってるだけのことを知ってる俺は心の中でそう叫んだ。


 世の中には敵に回してはいけない方達がいるんだよ青年!!


「で、お貴族様がなんの用だよ?殺して欲しい奴でもいんの?」


『とっとと用件言って解放してくれっ!!あの忍者マジ恐いっ!!なんなのっ?!俺が逃げられねぇーとかマジ無いんだけど!!人間技じゃねぇーし!!!』


 冷静取り繕いつつ心の中は突っ込みの嵐とか、なんとなくシンパシー……。


 ちなみに現在、あの謎の能力を意識して発動中。いつもはあえて聴かないようにしてる心の声だが、いまは意識を集中して聴くようにしているから青年の心の声がバッチリ聴こえる。

 

 この青年……確実に転生者ですね!!

 ハンゾーのことずっと「忍者」って呼んでるしね!!


「聞きたいことがあって。君は『異能』持ちかい?」


 質問に青年が僅かに目を見開いた。

 無意識にか、小さく後ろへと後ずさる彼は、だけどすぐに取り繕うように首を傾げて「さぁ?」とわざとらしく肩を竦めた。


 だけど心の声は正直だった。

 俺の質問を呼び水に勝手に答えを教えてくれる。


『なんでバレてんだよ?!つか、目的はなんだよ?もしかして俺が暗殺者とかいいつつターゲット殺してねぇーことバレてるとか?いや、それはないか。だって標的は異能で全部遥か遠い地まで転移させてるから、そう簡単に見つかるような距離じゃないし。

でも、じゃあなんでだ……?血痕や髪切り落としたりして偽装してたけど、死体すらないことを怪しまれた……?』


 はい。ご丁寧な説明有難う御座いますー!!

 あ、殺してないんですね。

 そっか、そっか転移かー。成程、納得!!


 やっぱあれですかね、平和な世界で生きてた転生者的に安易な殺生に抵抗あるタイプですか?俺もです。


 ただし、マイエンジェルsに手を出したらただじゃおかん!


 せっかく特殊な能力手に入れたから、はっちゃけて伝説の暗殺者気取っちゃった感じですかね。そもそも異能持ちってことは片親ないし両親が貴族か。


 とか心の中で会話をしつつ(相手にこっちの心中は伝わらないから会話といいつつ一方通行)、にっこり微笑んで指を一本立たせた。


「では、もう一つ。私に雇われてみる気はないかい?」


「断ったら?」


「別に?どうするつもりもないよ。ただ……そうだね」


 言葉と共に、抜き放った剣を振り下ろした。

 振り下ろした切っ先は白い喉のすぐ隣、ほんの僅かな位置で止まる。


 青年がこちらに向かって伸ばした腕よりも、長さもある剣が彼の首筋に届く方が速かった。あと単純に動き自体も俺の方が断然に。

 その上、青年が動きかけた時点でハンゾーがすぐさま攻撃体勢に入ったし。


 危っねー!!

 手を出さないよう言っといてよかった!!!

 じゃなきゃ青年の手、下手したら斬り落とされてたよ……!


「断るのは構わない。だけど一つだけ覚えておいてくれるかい?もしも君が我が家に手を出そうとしたら、私は君を絶対に(ゆる)さない。その時は………」


 耳元に唇をよせ低く囁く。


「たとえどれだけ遠い地からでも、それこそ地獄の底からだろうと君を殺しにいくよ」


 息を呑む音を聞きながら、お返しのように唇を三日月に歪める。


 それは青年にだけ意味がわかる言葉。

 こめかみから冷や汗が一筋流れるのを眺めながら、剣を鞘へと納め、手を伸ばして藍色の髪を一筋掴んだ。


「せっかくの美しい青銀の髪だったのに。惨いことだ」


 それはニュースペーパーの紙面をも賑わせた最新の被害者のこと。

 とある貴族の令嬢、割られた硝子に、絨毯(じゅうたん)に残された鮮血と無残に切られた長い髪。


「うら若き女性を殺すなんてね。髪は女性の命なのに……」


 美しく長い髪を維持出来るのは裕福な証拠で、だからこそ貴族の女性は特に髪を大事にする。


 (あご)を伝った汗が滴り落ちるのを眺めながら、掴んだ髪を放した。


「けれど髪は生きていれば伸びるし、死者には必要のないものか」


「なん……で……?」


 秘密を知っていることを仄めかせば、白い肌は青みを増し、愕然(がくぜん)と開いた瞳には当初の余裕はもうどこにもなかった。


 “暗殺”が異能によるものだと疑惑を持ったのはハンゾーだ。


 なんでも以前見かけた暗殺者の動きは、どう見ても暗殺者のそれではない素人(しろうと)染みたもので……なのに姿を消す一瞬だけ、ハンゾーでも目で追えなかったらしい。全ての動きが速いならともかく、姿を消すその動きだけが。


 んで、連れて来てカマを掛けたら心の声で丁寧に解説してくださったわけだ。


「あんなに大っぴらに動いていたんだから、気づく連中が現れても可笑しくはない頃だ」


「………」


「無理矢理に勧誘する気はないが、そろそろ『死神』自身が姿を晦ますのも一興だと思うけどね」


 雇い主が事実を知ればどうするか。

 その身に降りかかるかも知れない危険を示唆すれば、目の前の青年の喉がごくりと鳴った。


「俺に……何をさせる気だ?」


「無理強いはしないと言った筈だ。君が望まないならこのまま立ち去ってくれても構わないよ。先程の忠告さえ覚えていてくれればね。だけど、そうだな……もし君が雇われてくれるなら、私の可愛い弟妹の守りを」


「守り?」


「『死神』が守ってくれるなら心強いからね。彼らを守ってさえくれれば方法は問わないよ」


 むしろ無駄な死者出さずに穏便に解決してくれるなら大歓迎です!


「……わかった。雇われてやるよ」


『なんなのコイツら……。コイツもあの忍者や従者もマジ恐い。絶対勝てねぇし……。危ないことやらされんじゃないなら、コイツらの傍に居た方が逆に俺の身は安全じゃねぇ?』


 失礼な……。

 俺はカマ掛けただけで弟妹に手を出さなきゃ恐くないぞ。


 でもリフとハンゾーは絶対敵に回しちゃ駄目なお方だからな!!

 そこんとこ弁えないと長生きできないぞ。


「契約成立だね。名は?」


「ソラ」


「宜しく、ソラ」



 転移が出来る護衛、ゲットです!!



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