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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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13/210

気分はヒーローショーのヒーローを前にした子供


 手にした紙面に視線を走らせる。


 大きな字で書きだされた見出しに躍る、紙面を賑わす話題はここ最近既に見慣れたもので。

 読み終えたニュースペーパーを折り畳み、バサリと机の上に置いた。


「会いたいな」


 机の上で組んだ腕に(あご)を乗せ、一言呟く。


「彼に会えるかい?」


「お望みとあらば」


「遣り合って無事でいられる見込みは?」


「問題ありません」


 問い掛けに簡潔に返される言葉。

 視線の先で跪いた黒を纏う男から返されるその言葉には自惚れも取り繕いもなく、ただ事実を述べているのだとわかる。


 そのことに微笑んで告げる。


「では、彼をここに。ただし、無理だけは決してしないように。話をしたいだけで事を荒立てる気は毛頭ないから、あちらがどうしても拒むようならそれで構わない」


「はっ」


 短い了承と一礼を残し男は消えた。


 中断していた仕事を再開させるためにニュースペーパーを脇へとよけながら思う。


 だけどきっと無理矢理にでも連れてくるんだろうな……と。

 忠義の塊みたいなあいつなら。



 その男を拾ったのは偶然だった。

 二年ほど前、避暑に別荘を訪れていたときのことだ。


 仔狐(こぎつね)を追って走り出したベアトリクスが彼を見つけた時、その男は木に寄りかかるようにして倒れていた。


「きゃっ」


 聞こえた小さな悲鳴に何事かと慌てて俺達も走り出す。


「あの、お具合が悪いのですか?」


 ぐったりとした様子に具合が悪いと思ったのだろう、恐る恐る男へと手を伸ばすベアトリクス。


「ベアトリクスっ!?」


 見知らぬ男に不用意に近づくベアトリクスに制止の声を掛けるも、その声が届くよりも早く鮮血が舞った。

 風の切り裂く音と、煌めく軌跡。


 それをベアトリクスが瞳に映すことはなかっただろう。

 何故なら、彼女は男に庇われ抱き留められていたから。


 突如現れた二人の不届き者のうち、一人が振るった短剣を男が弾きとばし、もう一人が振るった刃から守るように男がベアトリクスを腕に庇う。だが凶刃が彼女らに届くよりも、俺の剣が最愛の妹に刃を向けたその腕を斬りつける方がずっと速かった。


 悲鳴を上げさせるつもりもなかったので、そのまま腹に一撃を喰らわせ、もう一人は剣の柄を首筋に叩き込んで気絶させる。


「お…兄……様…?」


 可哀想に震えた声で呼ぶベアトリクスに慌てて血に濡れた剣を収めた。


「大丈夫だよ。だけどもう少しだけ目を瞑っていなさい」


 見知らぬ男の腕からベアトリクスを抱き起こすと、その瞳を塞ぐように胸元に抱き込み、安心させるように髪を何度も撫でる。カタカタと小さく振動する身体の震えは、指通りのいい髪を何度も撫でるうちに少しずつ収まった。


 その時の俺の心境はといえば……はらわたが煮えくり返っていた。


 倒れ伏せた二人を睨む視線は絶対零度だったと思う。

 最愛の妹を怖がらせたうえ刃を向けたなど万死に値する!!だけどベアトリクスを怖がらせるのは本意でないので、溢れる殺気を何とか自重していた。


「ベアトリクスっ!大丈夫だったか?!」


 妹を心配するガーネストに視線で合図をし、ひとまずベアトリクスをここから遠ざけさせることに成功。ガーネストがベアトリクスを支えながら遠ざかったのを確認して、(ようや)く俺は男へと視線を戻した。


 その間、残り二名は捕縛済み。


 突発的な出来事だったのに縄とか持ってたんだね!とか突っ込みたいけど突っ込んじゃダメかな?

 そして縄で縛り上げながらも、さり気無く盾になれる位置をずっとキープしてるリフ。


 俺の従者が今日も超優秀ですっ!!


「さて、ひとまず可愛い妹を庇ってくれたことに礼を言おう。……彼らはお仲間かい?」


 それが出会い。


 結果として、わかったことは同業者の仲間割れ的な。

 ちなみに職種は暗殺業的なアレです。


 仲間割れっていうか、元々契約違反だったっぽい。男は女子供は狙わないって公言してたし、ターゲット以外の殺戮(さつりく)も容認しないタイプの良心的な暗殺者でした。


 いや、暗殺者って時点で良心的って…って突っ込みはナシで!


 契約主側が騙して使おうとしたけど拒否って、なおかつ標的の一人の幼い少女を庇ったことで追手がかかり交戦中に負傷するも、なんとか逃げ延びへばってたところでまた追手がきた、と。


 全体的に動き易い黒っぽい服だったから目立たなかったけど、脇腹の辺りからの出血は結構激しかった。


 取り敢えず、三人とも身柄を確保のうえ二人は然るべきところへ引き渡した。もちろん公爵家を狙った罪も着せてやったから無事には済まない。


 んで、残り一人の怪我人のおにーさん。

 このおにーさんは屋敷に連れ帰って手当をすることにした。


 ベアトリクスを守ってくれたしね。

 ま、元々狙われてたのはおにーさんだけど。


 世話をした後、我が家で働く気がないかスカウトしてみた。


 実は引き取ったものこれが狙いだったりする。

 その時の回答は「考えさせてほしい」というもので、暫くした後に彼は姿を消した。



 そして約半年後。

 公爵家の庭にて突然の再会を果たした。


 たまたま庭に出てた時に、樹の上から突然姿を現したんだよね。シュタッ!って。

 こう、シュタッ!って樹から降りて、目の前に跪かれた時の驚きったらない。


「にん…」


 思わず声が出かけて慌てて口を押さえた。


「忍者来たーっ!!!」


 そんな俺の代わりに、通りがかりのリリアが激しく叫んでくれた。


 そう、俺の心境も同じ。


 突如降り立った男。

 目で追えぬ程の俊敏な動き、全身を包む黒い装束、実は端正な顔立ちを隠すように口元を覆った黒布…………その姿はまさに……。


 NI・N・JA・☆


 いや、世話してた時から、こいつ和とか似合いそうだなーって思ってたんだわ。

 黒髪黒目だし武士っぽい性格とか口調とかさ、だって「かたじけない」とか言うんだぜ?

 以前も服は基本黒だったけどウチで用意した普通の服だったし。


 装束と口布の効果も相まってこれはもう忍者!

 忍者ですよ奥さん!!!


 誰だ奥さんって……。


 意味わからんツッコミが出るくらい、大興奮です。


 その後、話を聞くには……なんでも負傷して役に立てるかわからない身で仕えるのは納得いかなかったらしい。あと自分を狙ってる残党がウチに手を出すことを危惧して姿を消したとのこと。


 今までは復帰がてら邪魔な奴らを全て粛清していたらしいです。

 女子供と罪のない相手には優しくても、敵には容赦ないんですね。


 そして体調も万全となり憂いも全て果たした今、あの時の誘いが有効ならば是非(ぜひ)この身を捧げたいと。


 はい、採用ー!


「名前を決めなくてはね。何か希望はあるかい?」


 なんでも名がないそうですよ。

 本人は必要を感じないらしいが必要だからね!お世話期間中もみんな困ってたから。


「宜しいでしょうか」


 何故か聞いた本人でなく第三者から手が挙がった。

 文字通り挙手をし、キリッとした顔のリリアだ。


「ハンゾーという名はいかがでしょうか」


 思わず真顔になった。


 幸いそんな俺の反応には誰も気づかず、白々しくも首を傾げてみせた。


「ハンゾー……変わった響きの名だね。なにか意味があるのかな?」


 知ってるけど。

 確実に服部半蔵のハンゾーですよね。


「はい!とある異国の名で、闇に生き、影に生き、主に忠義を尽くす意味を持ちます」


 持たねーから!!

 まるでハンゾーの言葉の意味がそれみたいに言うなし!

 でもキミが言いたいことはわかるよ!!


「成程」


 真面目な顔でそんなバカげた遣り取りをする俺たち二人。ツッコミ不在なう。


「素晴らしい名です。まさに俺の望む在り方を示したような名だ」


 そしてそんな内心を知らない当事者がその名を気に入った。

 感動に肩を震わすハンゾーに若干(じゃっかん)の罪悪感を感じつつも、その命名に異存はないのでそっとその感情には目を瞑る。


「この名に恥じぬよう、我が君や姫君方の敵は全て俺が葬りましょう。大恩ある我が君にこの命を捧げ、永遠(とわ)に忠義を尽くすことを誓います」


 片膝をついたまま此方を見上げるハンゾーの忍者っぷりに、心は沸き上がったままだ。

 これだけ大興奮しつつ、それを欠片も表に出さずに微笑んでいられるのだから俺の面の皮って相当厚いよな。これぞ長年の成果……!


「私はお前を暗殺の道具としてだけ使う気はないよ。ハンゾーはもう我が家の一員なのだから。早速ベアトリクスたちにも顔を見せてあげておくれ、きっと喜ぶ」


「有り難き倖せ」



「我が君」って呼称にもテンション爆上がりです。


 ちなみにベアトリクスは怪我してた時せっせとお世話してたこともあって「姫」って慕われてるし、ガーネストは「若」って敬われてるよ。



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