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5 未知へと

「まあ、なんだ。冗談は置いといて、お前も色々と悩んでたんだな」


「んー、悩みっていうか踏ん切りっていうか……。とにかくね、異世界に行く前に、どうしてもこれだけは青山君には話しておかなきゃ、って思って。内緒にするわけにはいかないもの」


「そっか……」


「僕は異世界に行くことを後悔なんかしない。絶対に魔王を倒して、願いを叶えてもらうんだ!」



 石田が力強く宣言する。

 こいつがこんなに沢山喋るのも初めて聞いたが、こんなにデカい声を出すのも初めて聞いた。もしかしたら学校を離れたプライベートでは、案外お喋りなヤツなのかもしれないな。



「なあ、やっぱ、どうしても俺も行かなきゃダメなのか?」


「当たり前だよ! 青山君が行かないと絶対にダメなんだもん」


「行く行かないは抜きにしてさ、どのくらい時間かかるんだよ? 何か月とか何年とかイヤすぎるんだけど」


「あー、安心しろ、ガキ。その辺はあたしが、なんとでもしてやっからよ。それよかオマエは、テメーの体の心配でもしたほーが-んじゃねーの? かなりヤベー目に会うんだしよ」



 なんだよ、それ? ドヤンキー様が不穏なことを言いだしやがった。

 魔王討伐なんて、たしかに危険極まりないことだろうけれど、自分の命を賭してまで叶えたい願い事なんか、俺には一つもないぞ。



「おい、待て、どういうことだ? まさか、命の危険とかじゃないだろうな?」


「まー、行きゃわかっから。オマエ頭ワリーけど、一発でわかんじゃね? オマエ、頭ワリーけどな」


「二回も言うんじゃねえよ! あ、そういや、チート能力ってのはどうなったんだよ? 俺にはなにを与えてくれるんだ?」



 散々、頭悪いと言われただけで、肝心なことはなにも聞いていない。それに与えられた能力がショボくて死にかけることになるなんてのは絶対にゴメンだ。いや、まだ行くとは決めてないけどさ。


「なに言ってんだ? ナメてんの? オマエ」


「は?」


「チート? やるわけねーだろ、オマエによ」


「勇者にはチート能力をくれるんじゃないのかよ?」


「あー、やるよ? チート、勇者にはな。あたしは慈愛に満ち満ち満ちてっからよ、なんも持たせねーで魔王をシメてこい、なんてーわけねーだろ」


「じゃあ、早くくれよ」


「あ? だから言ってんべ、『勇者』にはやるってよ。頭ワリーのか耳ワリーのか、どっちなんだ? テメー」


「どういうことだよ」



 ……なんだ? 話が全く理解できない。


 勇者にはチート能力を与える。だけど、俺には与えてくれない。

 その二つの話が全然繋がらない。どういうことだ? わけがわからないのは、俺の頭の出来のせいじゃないはずだ!



「ほら、オメーは勇者じゃねーし。オメーみてーなハンパヤローに能力なんかやるわけねーだろ」


「え……さっき、俺の志望大学の合格をどうこう出来るって話を、あんたしてたじゃねえか」


「あー、そりゃ『オマエが勇者だった場合』の話な。オメーに褒美をやるなんて話はしてねーべ? わかれよな、そんくれーよ」


「ただの詐欺じゃねえか! じゃあ、俺はなにしに異世界に行くんだよ?」


「あたしは知らねーよ、そこの勇者に聞きゃいーべ。魔王をヤッてくれって、ソイツに頼んだらよ? 出してきた条件がさ、『オマエをツレにすること』だってよ。じゃねーと、ぜってーイヤとかナメたコト言ってんのよ、その小僧」


「勇者って……」


「異世界勇者タツヤってとこだな、って、なんかダセーな。んーと、ホワイトボードどこだっけ、おっ、あったあった……サラサラサラっと。なーなー、これなんかどーよ?」


「なんで、こんなとこにホワイトボードがあるんだよ。って、なんだこれ? なんて読むんだ」


「これなー、『極悪ごくあく卍非道ひどう【●】蛇艶タツヤ』な。どお、これ? オニ強そーじゃね?」


「いつの時代のセンスだよ! そっちのが、よっぽどダセえ!」



 勇者タツヤ?

 石田は勇者になって異世界へ行く?


 ……なら、勇者じゃない俺は、なんのために、なにをしに行くんだよ。



「おい? 石田! どういうことだよ!?」


「大丈夫だよ、青山君。怖いなら僕が手を握っててあげるからね」


「んな話はしてねえよおおおおおお!」


「じゃーな、アホガキども、気ー付けて行ってこい。なにしても良ーけどよ、これだけは守れな」


「なんですか? 神様」



 ヤンキーが驚くほど真剣な表情になる。そのヤンキーの言葉を待つ石田。そして蚊帳の外の俺。ちょ、なんだ、これ? 体が動かねえんですけども!?



「ぜってー死ぬんじゃねーぞ。命はいっこなんだからな。死んだらおわりだ」


「はい、神様! 頑張りますね!」



 やっぱ死ぬような目に会うのかよ? 冗談じゃねえわ! なんで石田はそんな平然としていられるんだよ!?



「いちおー、応援してやっからよ。キッチリ、魔王のヤローシメてこい。どっかにバックレんじゃねーぞ」


「俺は行かねえよ! おい、ヤンキー! サムズアップなんかしてねえで、とっとと離せ! 俺を帰せよおおおおおおっ!?」


「よしよし、青山君。僕が付いてるから心配しないで」



 二人に文句を言おうとした矢先。



 ――感覚がバラバラになった。



 俺も、石田も、ヤンキーも、世界も。

 渦を巻いたように、なにもかもが捻じれて溶けていく。


 体が捻られて。膨張して。収縮して。硬くなって。柔らかくなって。


 ……ヤバい。死ぬぞ、これ。


 千切れる。


 溶ける。


 壊れる。



 世界が変わる。


 俺が…………変わる。



 そこで俺の意識は。




 ――完全に途切れた。





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