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4 オンナノコ

「はあ、よーやく、魔王をシメられるわ。チンタラしやがって、トれーんだよ、オマエら」


「そんなに待てないなら、あんたが自分で退治に行けばいいじゃねえか」



 なんでコイツは、人に頼み事をするのに、こんなに偉そうなんだよ。美少女が何でも許されると思ったら大間違いだぞ。

 だいたい仮にも神だったら、世界の揉め事なんか簡単に解決出来るだろ。



「行くわけねーだろ。オマエのガッコでケンカがあったって、いちいち文科省の大臣が出張ったりしねーべ。 やっぱ、バカだろ? オメー」


「会話のたびに、俺のことをバカだの頭悪いだの言うんじゃねえ! つーか、あんたの喋り方のほうが、よっぽど頭悪そうだっての」


「神様、青山君は成績はアレですけど、心根はとても優しくて良い人なんです!」


「アレってなんだよ! さっき、俺のこと「頭の出来は、そこまでバカじゃない」って、お前言ったよな?」



 ……心根が優しくて良い人? 俺と石田はそんなことがわかるほど、気心の知れた友達ではないはずだ。

 そもそも、俺はべつに優しいヤツじゃない。石田はなにを根拠に、そんなことを言うのだろうか。



「青山君、よく聞いて」


「な、なんだよ」



 石田が凄く真剣な顔をして、俺を見つめてきた。

 どこか思いつめたような、その表情。女顔のコイツがそんな顔をすると、思わずドキっとしてしまう。


 ああ、念のために言っとくが、俺にソッチの趣味は一切ないぞ。なにせ一応、彼女もいるからな。他校に通っているいっこ下の、おとなし目の可愛い子だ。


 俺の幼馴染の後輩にあたるその子。

 一か月前に知り合って、付き合いだしてからは二週間くらいの俺たち。なので、まだ一緒に遊びに行ったりするくらいで……その、いわゆる『深い仲』にはなっていない。


 って、おい! なに語らせてるんだよお。

 ウエッヘッヘ、照れるなあ。


 まあ、ついでに語るなら、俺が身に着けているリングネックレスは、その子からのプレゼントだ。

 友達の中には「付き合い始めでリングネックレスをプレゼントするのか。かなり重い子だな」とか言うヤツもいるが、俺的には全然オーケー。むしろ、バッチコーイ! もっと来ーい! だぜ。


 たぶん、俺は今、幸せの絶頂期なんだろう。

 うんうん、毎日が楽しいね! じつは今度の日曜も遊ぶ約束しているのだ。


 はっはっは、ああ、その日が待ち遠しいなあ!

 早くこーい! いますぐこーい。



 そうだ、俺は幸せだ。会うたび楽しいに決まってる。

 ……あんなに良い子と一緒にいて楽しくないはずがない。


 ――――楽しいと思わなきゃダメだ。



「青山君てさ、リア充だよね?」


「リア充? 別に普通じゃね」


「友達も多いみたいだし……それに彼女もいるんでしょ?」


「まあ、いるけど……」


「もう、キスした?」


「いや、まだだけど……って、オマエに関係ないだろ!」


「ふうん……そっか、まだなんだ」



 石田は満面の笑みを浮かべて、ウンウンと頷く

 異世界がどうとかと、全然関係ないよな? この話。


 んで、なんでこいつは、こんなに嬉しそうな顔をするんだよ。

 まさか、キスの一つも出来てない男をあざ笑ってるのか?


 だが、待て!

 俺を笑う前に、お前は彼女のひとりでもいるのかよ!



「青山君、じつはね……異世界に行くと、女の子になっちゃうんだ」


「は? なんだそりゃ」


「神様にお願いしたの。女の子に変えたい、変えてほしいって」


「お願いしたのかよ!?」


「でもね、神様が言うにはそんなお願いは無用なんだって。その世界に行くと『選ばれし者』は、女の子になっちゃうの」


「それって、お前のことだよな」


「その話を聞いた時ね。僕、スゴク嬉しかった……本当の本当に嬉しかったの」


「石田……」



 確かに石田は女顔だ。

 石田はクラスでも大人し目で、いつも俯いて本を読んでいるような生徒だから気づいてないヤツもいるかもだが、こいつの顔はどう見ても女の子っぽいのは間違いない。それも結構な美少女顔の。


 で、その顔にくわえ体格も小柄な石田は、一部の男子連中にそれをネタに苛めとまではいかないが、休み時間などに一時期からかわれていたことがあった。「ホントに女になっちまったほうがいいんじゃね? 頼むからなってくれ!」と、面と向かって実際に言うヤツまでいたっけ。いや、頼まれてもなれないだろ。

 そうだった、その時の連中の異様な熱気というか盛り上がりっぷりが、ドン引きレベルだったのを思い出したわ。なんだったんだ、あのテンションは。


 だが、当の石田本人はその手の話を言われても、冷ややかな目でからかってきた相手を一瞥したあとは、そのまま無言を貫いていた。

 可愛い顔だからこそ、こいつの氷のように冷たい視線は結構怖い。からかった男子共は、相当ヘコんでたっけか。大馬鹿野郎達だな。


 そのチョッカイに俺は加わりはしなかったが、特にそいつらを止めたりもしなかった。

 俺が石田と話すことと言えば、もっぱらやつがその時々に読んでいる本の話だけ。だから、からかいにあっていた時に止めはしない代わりに強引に話しに割り込んで、石田が手にしている小説の話をしたりとかな。


 だってさ、下らない話よりは楽しい話をしていたほうがいいじゃん? 石田にとっての楽しい話は、好きな小説の話。だから俺とこいつがする話は、読書関係のことだけだ。


 それは前と後の席同士の、ちょっとした、なんだってことのないただの雑談だ。とはいえ、あれは俺からの一方的な会話だった。石田は読書に集中した時もあったかもな。次からは気を付けよう。


 ふうん、けど、そっか。石田は自分の女顔と、小柄な体をイヤだとは思っていなかったのか。

 むしろ、本当は女の子になりたい。そんなふうに思っていた、ということだったのか。


 そりゃあ、そんな悩みを抱えてたら、「女になっちまえ」なんてことは冗談でも言われたくはないよな。



「で、石田」


「なに? 青山君」


「なにしてんの? おまえ」



 石田のヤツが俺の体を色々な角度から眺め出し、それが終わったと思ったら、「変化後の青山君には、どんな可愛い服が似合うかな……」とか言いながら、あらゆる部分をペタペタ触り始めた。むろん俺は一切の許可を出していない。


 ちょ、くすぐってえ! って、オイ、お前どこ触ってんだよ!? そこヤバイって、待て待て待て待て!



「うおい! お前なに考えてんだ? ヘンなとこ触んじゃねえよ!」


「あ、ごめんね。今のうちにアフターのことを想定しておかなきゃって思ったら夢中になっちゃった」


「アフターってなんだよ、あと俺に似合う服ってなんの話だ」


「ふふふ、期待しててね? 青山君も本当にビックリすると思うよ」


「コラ、エロガキ、なにあたしの前でイチャついてんだ。昼間っからガキがサカってんじゃねーよ。ここはラブホじゃねーぞ」


「神様! そんなハッキリ言われると恥ずかしいです」


「俺たちは男同士だ! サカってなんかねえよ! 石田も妙な話に乗っかってんじゃねえ!」



9/29 改行を一部修正。

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