3 勇者
異世界転移物のライトノベルが作中作で登場しますが、その描写されている内容は実在する特定の作品を参考、またはモチーフにしてはおりません。
「要するに、この神の管理する世界で魔王が酷いことをしてるから、勇者として俺らにそいつを退治してほしいと」
「うん、さすが青山君。簡潔に纏めてくれてありがとね! カッコいいよ」
「簡潔に纏めるとカッコいいのか。お前のカッコよさの基準が、よくわかんねえわ」
「チッ、せっかく褒めてんのに。照れ隠しなの? いくら見た目がそれっぽくても、ツンデレキャラとかイマドキ流行んないからね。青山君なんか、三日三晩腹痛に苦しめばいいと思っちゃう」
「聞こえてるって言ってんだろ! あとお前、わりと舌打ちとかするヤツだったのな。いつも我関せずみたいな顔してるわりにさ」
「大丈夫だよ、ちゃんと神様がチート能力も授けてくれるって。だから大船に乗った感じで、気楽にいこうね!」
「俺の話をスルーすんな!」
以前、石田に借りた小説……ライトノベルか。
その内容をザックリ説明すると、こういった内容だ。
神によって異世界に遣わされた主人公の少年と幼馴染の少女が、勇者となって敵と戦う冒険譚。
二人は旅の途中で知り合った仲間と苦楽を共にしながら精神的にも成長していき、最終的には異世界に蔓延る陰謀を解決して大団円を迎えるといった内容の、石田が言うには物語としてはオーソドックスな小説だ。
主人公が道中知り合った少女と淡い恋を育んだり、敵の幹部の少年と陣営を超えた友情で結ばれたり、ラスボスは恋仲になった少女だったり、真のラスボスが主人公の幼馴染の少女だったりとかで、石田がおススメと言うだけあって俺が読んでも面白い本だった。
石田が言うには、神様とやら(性格に難があり過ぎで信じたくないが、そこのヤンキー美少女のことだ)の話は、俺と石田が、まんま本のような異世界に赴き、勇者となってボスを倒せという依頼だそうだ。
なるほどな、あいつのテンションが高いのも、これで頷ける。
そういう類の本を読み耽っている石田にとって、こんな話は千載一遇の出来事だろう。
かなり現実離れしたことだが、この不思議な空間と宙に浮かぶ可憐なドヤンキー美少女の存在が、その話を現実だと思わせる。うん、自分で言ってて思うが可憐なヤンキー美少女ってなんだよ?
いや、そんなことはどうでもいい。それよりも、だ。
そうか、そうか、よくわかったよ。
うんうん、これは現実的な話なんだな。そりゃスゲエ、漫画みたいだ、マジで。
よし!
それなら俺が出来ることは、ただ一つだ。
ここは気合入れていくしかないよな!
「じゃ、まあ、頑張れよ、石田。陰ながら応援してるわ」
さて、バイト行こか。
てか、これ、絶対に三分過ぎてんだろ。うわ、マジでヤバいな。
早いとこ、この妙な空間から出てかねえと遅刻しちまうぞ。
「え、なんで帰っちゃの? 青山君も行くんだよ」
「イヤイヤ、行かねえから。俺、関係ねえだろ」
「大ありだよ! 青山君が行かないと、絶対に魔王は倒せないんだから」
「なんで俺が行かなきゃ倒せないんだよ」
「それが世界の約定だからだよ!」
「意味がわかんねえ!」
石田のワケわかんなさが、このままだとストップ高になりそうなくらいワケがわからなくなっている。
だいたい、俺と石田はそんなに仲が良いわけじゃない。
教室での席が前と後の二人、ちょっとした雑談をするだけの関係。
そんな夢物語の冒険に、仲良く共に繰り出すような間柄じゃないぞ。
「青山君?」
「なんだよ」
「ううん……なんでもない」
「そっか……」
そんな言葉を言った石田はキラキラと瞳を輝かせて俺を見上げてると、後はただただ黙り込む。なにこれ、ちょっと小っ恥ずかしいんだけど? ……石田の着ているものが男子の制服じゃなければ、女子に見つめられていると錯覚してしまいそうで怖い。
「おーい、オメーら、甘酸っぱいコトしてねーで早くしろよ。コッチもヒマじゃねんだからよ」
右手をブラブラさせてヤンキー少女が急かしてきやがった。なにが甘酸っぱいだ、よく見ろ、俺らのどこに甘酸っぱさがある? だいたい早くしろもなにも、俺はこの話に一切の了承をしてねえんですが。
てか、あんた、絶対ヒマだろ? こんな何もない空間で、プカプカ浮いてるだけなんだからさ。
「早くしねーと、褒美もなくなっちまうぞー? いーのかー? あー?」
褒美? なんだよ、それ。なんの話だ。
「褒美ってなんだ?」
「あ、ゴメン、言ってなかったよね。勇者として魔王を見事成敗した暁にはね、神様からのご褒美で、なんでもひとつだけ願い事を叶えてくれるんだって」
「……マジか」
うは、そういう事は早く言えよな、このドヤンキー女め。
石田にばっか詳しい解説をしてて、俺は放置なのかよ?
「なんでもいいのか? 本気のマジで、なんでもいいのか?」
「マジマジ。オマエが入学希望してっけど確実に落ちんのがわかりきってる志望校に、オマエを合格させることも出来っからよ」
「確実ってなんだよ! まだ高二なんだし、努力すれば可能性はいくらでもあるだろ!」
「ブッハ! このガキ、可能性とか言ってんわ! エレーカッケー。てかよ、オマエ、バカじゃん? 可能性なんかあるワケねーだろ。頭ワリークセに進学とか夢見てんじゃねーよ、タコ」
「神様! 確かに青山君は成績順でいうと、三百人中で二百十番くらいの微妙な立ち位置の生徒ですけど、たぶん頭の出来はそこまでバカではないと思います!」
「やっぱ、俺、帰るわ!」
なんでコイツらにおちょくられて、しかも魔王退治とかダルいことしなきゃなんないんだよ!
あと、石田。なんでお前が俺の成績を把握している?
俺とお前で、成績の話なんかしたことあったっけか。
……しかし、褒美か。
ううん、どうする?
これは悩むぞ。
9/28 誤字脱字修正。