26 女神
俺の目の前にヤンキーが立つ。
出会った時は小さい女の子だなと思ったけれど、今ではそこまでチビとも感じない。俺が女になって小さくなったからなんだろう。現実に目を向ければ涙が出ちゃうぞ。グスン。
「さっきの話だけどよ。他のヤツを相方にしてもいーんだぜ? って言っても、「青山君じゃなきゃ絶対お断りします」って言ー張っからさ。オマエを連行することに決まったってわけ」
「連行とか言うな、もうちょい言葉を選んでくれ。俺は今ナーバスになってんだからさ」
「ま、せっかくなんだし、あたしの管理する世界とか女の身とかよ、色々楽しめばいーじゃねーか。ちっとした旅行だと思っちまえよ」
「楽しめる要素が俺的に一個も見あたらねえんですけど?」
「いーじゃんよ。あたしが餞別にくれてやった、そのドレスも似合ってんぜ?」
「え、これって石田が作ったんじゃないの?」
てっきりアイツがチートで作って、俺に着させたのかと思ってた、今の今まで。
でもよくよく考えたら、石田が俺に胸のサイズを測れといった時、裸になっている間はアイツはよそ見をしていると確かに言った。
なら、アイツが俺を裸に剥いて服を着せるなんてマネはするはずはない。いくら俺が気絶してたとはいえ、そこまで大胆なことはしないだろう。
「んなわけねーべ。タツヤがそんなハイセンスなドレスなんか作れっかよ。どーよ、そのドレス。宇宙一の可愛さだろ」
「宇宙一とか言われても、俺にはドレスの善し悪しなんかわかんねえよ」
「モノ知らねーガキだなー。そんなヤツがあたしがプロポーズされた時に着てたドレスを受け継いだかと思うとマジで泣けるわ。こりゃ金取ったほーがいっかな?」
は……?
「今なんて?」
「やっぱ耳ワリーのか? 金取ったほーがいっかなーってよ」
「違えよ! その前だよ!」
「あたしがプロポーズされた時に着てたドレス」
「…………」
「あたしがプロポーズされた時に着てたドレス、な」
「プロポーズ……」
ヤンキー様は超可愛いニッコリ詐欺笑顔で言った。
「あたし、人妻だから」
「あああ、あ、あんた、結婚してんのかよおおおお!?」
嘘だろ!? こんなドヤンキーのロクデナシ女が人妻だって? いくら顔が可愛いからって嫁にもらう男なんて存在すんのかな。
それに、こんな子供みたいな女の子を……。どう見たって外見は高二の俺たちより全然下なんですけど、コイツ。
まあ、神様ってくらいだからそういうのは、あんまり気にしないのかもしれないけどさ、それにしたって、こんなクソガキヤンキーを……。
「そりゃそうだ。あたしみてーな、良ー女を男が放っとくワケねーだろが」
「良い女……だと」
「なんだ? そのツラ。オメー今、ナメたこと考えてたべ?」
「いえ、そんなことナイデスヨ」
「このガキ……。まーいーわ。じゃ、あたしを取り合って世の男たちが、スゲー抗争を繰り広げてた話でも聞かせてやっから、よーく聞ーとけな」
「そんなのどうでもいいわ」
「あたしの女の子武勇伝に興味あんだろ? オマエも女になるんだから参考にしとけや」
「興味もねえし参考にしてたまるか! この体になってから数時間しか経ってねえのに、なんで女に染まることができんだよ!」
体が女になったからって、生まれた時から男なんだぞ。そんな急に女になってたまるか。
「時間かけりゃ女になんのか、さすが選ばれし者だな」
「そういう話じゃねえよ! なにがさすがだっての」
「いーじゃねーか。そのドレス着て行って来いよ、新婚旅行にさ。あたしからのサービスな」
「ありがた迷惑すぎるサービスだ。なにが新婚旅行だ、絶対行かねえよ」
「爆走天使の新婚花嫁暴走だな。んー、グラチャンとか初日の出暴走っぽくてカッケーな」
「あんたの発言が、なにひとつとして理解できないんだけど……」
そんなサービスいらねえし暴走なんかしねえよ!
それと、なんでいちいち会話に昔のヤンキーっぽい単語を混ぜてくるんだよ? 日本の不良漫画が好きなのか?
「いーからいーから、タツヤと仲良く行ってこいや。彼女もいたことねーオマエにも、これからはスゲー楽しー毎日が待ってっからよ。イチャイチャな毎日がさー」
「なに言ってんだ、あんた。俺にはちゃんとした彼女がいるっての」
「……は?」
ヤンキーがポカーンと間抜け面をさらす。
チンピラオーラも抜け落ちた素のキョトンとした顔と放心状態の目を、俺に向けた。
「なんだよ、俺に彼女がいちゃ悪いかよ」
「いや、だってよ……オマエに女なんていねーだろ」
「いるよ、なに勝手にひとりモン扱いしてんだよ、失礼だな」
ヤンキーは未だ放心状態から抜け出せないような顔つきだ。
なんだ? 俺ってそんなに女っ気ないような雰囲気なのかな?
「オマエに女がいるとタツヤとの関係もややこしくなっからよ。こっちの世界に連れてくることになる前に、オマエのこと調べてもらったんだよ」
「関係もなにもないだろ。アイツとはただの友達だ。それに誰に調べてもらったんだよ?」
「オマエらの世界の管理者な。したら、ソイツは確かに言ってたぞ? 「青山圭に彼女はいません。ですから煮るなり焼くなり女の子にするなり好きにして構いません。異世界での彼……いえ、彼女の行状を私もちょっと面白そうと思いましたから、ガンガンいこうぜ路線でお願いします」ってよ」
「世界の管理者のクセにロクでもねえな、ソイツ。調査も適当だし発言も酷すぎだろ!」
好きにされてたまるか。なにが面白そうだ。
そんなヤツに管理されてる俺らの世界って、じつは凄いヤバイんじゃないかな?
「いや、管理者の調査に間違いなんかあるわけねーんだけど……あ、そっか」
「なんだ? どうしたんだよ?」
ヤンキーが俺の両肩に手を置く。その目にはうっすらと涙まで浮かべて、優しく俺を見つめていた。
なにやってんの? コイツ。
「そっか、悪かったな。気づかねーでよ」
「なにがだよ? てか、なんで泣いてんだよ、あんた」
「可哀そーなヤツだったんだな、オマエ」
「は?」
「安心しろな。オマエは必ず幸せにしてやっからよ、このあたしがな」
「おい、待て。あんた勘違いしてんじゃねえか? あんたと学校で会った時に俺と石田で話してたろ? 俺に友達が多くて彼女もいるって話をさ」
「オマエらのそーゆープレイかと思って気にしてなかったわ。そっか、オマエにしか見えねーオンナってか。そんなの妄想してたんだな……うぅ、イタすぎて泣ける。こりゃ笑えねーわ、マジで」
「どんなプレイだよ? マニアックすぎんだろ! 違えしマジでいるし。鷲尾琴って名前の、俺のいっこ下の子だよ!」
大人し目で、でも決して無口というわけでもない。
ハッキリ言えば俺には勿体ないくらいの良い子だと思っている。こんな俺と付き合いたいなんて言うんだから。
「そんな設定まで持ち出すのか……マジで重症じゃねーか。こんなヤツに任せて大丈夫かなー? スゲー不安になってきたわー、ホント」
「妄想じゃねえよ! 実在してるんだって、信じてくれよ!」
「ま、人生なげー。わけーときは色々あるもんだ。気にすんな、あたしも今の話は聞かなかったことにすっからよ」
「聞けよ! マジなんだって」
俺の話を全部スルーしたヤンキーの姿が薄っすらと消えていく。
「じゃ、またな。旅先で困った時は、村とか街にある大地母神の教会に行けな? そこ行きゃあたしも少しは助けられっからよ」
「おい、消えんな! 俺の話を聞いてくれ!」
「じゃーなー、圭。いや、違うな。これだな、うん、イタいパシリ子ちゃん」
おおい! なに勝手な命名して人のことをイタいヤツ扱いしたまんまいなくなってんだよ! このまま誤解を解かないと、俺ってただのイタ過ぎてヤバ過ぎるヤツじゃんか!
あと、散々人のことパシリ呼ばわりしやがって、なんなんだよ。あのヤンキー!
俺も特に不満も言わないで普通に受け答えしてたけどさ!
――タツヤはマジだぜ? オマエに対しての全部がホンキだよ――
「…………」
――オマエがどーするかなんて、あたしが決めることじゃねーけどよ、アイツの本気はちゃんとわかってやれな――
「ほんき……」
――オマエならわかんだろ? 本気の気持ちに答えてもらいたいってこと――
「ふん……」
最後にヤンキーのお告げみたいな言葉が闇に響いた。
なに良い人ぶってんだ、ドヤンキーのクセに。
当然、俺はその言葉にノーリアクションだ。答えてたまるか、そんなもん。
――まー、あたしだったら、あんなイカレた男はゼッテー、ヤだけどなー。アハハハハハハハ――
笑ってんじゃねえっての! あとひと言多いんだよ。イカレたイカレた言ってやるなよな。
――ヤベーヤツに惚れられちまったなー? まー結婚式には呼んでくれよー?――
いいからもう黙っとけ!
ジャンル/コメディと銘打っておきながら次回は鬱展開になる予定です……。




