21 恋?
「今見たことは忘れろ。そして石田、もひとつ聞きたいことがある」
「もちろん、なんでも聞いて! どんなことでも明朗に、ケイちゃんが納得のいく答えを言うからね」
「そうか、それは助かるな。さっきからお前には、なにひとつとして納得のいく答えを聞けていない気もするが、それはとりあえず置いとくわ」
「そうそう、それは置いとこうね」
「…………まあいい。ある意味、俺が女になったことに関連する、さらに超重要なことだ」
「どういうこと?」
思い違いだとは思いたい。
まさか、そんなことはあり得ないとは思いたいが、確認を取らないわけにはいかなさすぎる。
俺の不安が的中したら、俺の中の男が死んでしまいそう。
この女顔をしたチート野郎に、違う意味で殺されてしまうぞ。
「おまえさ」
「うん?」
「まさかとは思うけどさ……」
「どしたの? いやにもったいつけるね」
そりゃ、こんなこと聞きたくねえもん。もったいつけたくもなるわ。
さっき、石田は俺のことを『一番大切な友達』だと言っていた。
そしてコイツは女顔ではあるが、どうやらごく普通の男の感性の持ち主で、ごく普通に女の子に興味があるそうだ。
と、いうことは。
『今の女になったこの俺、青山圭』は、石田から見たらどんな存在なんだろ?
もしかしたら俺はコイツにとって『異性として魅力があるやつ』になっている可能性があるんじゃないの?
いや、もう異性云々を抜きにしても、放課後の教室で話しかけられたあの時から今までのコイツの言動を振り返ると、本当に『友達』として俺のことを見ていたのかな? と、疑っちまうんだよ。
女にされる以前から……男だった時から、俺を『恋愛対象』として見ていたのかな? といった想像が頭を過ってしまうだよ。石田は女に興味津々とは言っているけど。
いや、だってね? 今までの数々のヤツの言動を反芻したら、誰だってわかるだろ?
うん、俺だってもう、嫌になるくらい気づいちゃったよ。
普段は無口で、傍から見たらどっちかっていうと冷たい印象だった石田がさ。
とびきり嬉しそうな表情を見せながら俺に懐いて、(あくまで女になってからの俺にだが)抱きついてきたり、『一緒に冒険をしたい』とか、言いだすんだもん。
ツンデレキャラっぽい女の子になれそうな(これってどういう意味?)俺と、一緒に冒険がしたかったと石田は言った。ヤツは女の子になった俺が可愛くなる確信があったそうだ。
こんな事態になったのは、体が男のままの俺とは恋愛をすることが出来ないからだったのかな、と。気持ちは確定しているけれど、男相手だとどうしても踏ん切りが付かなかったのかな、とね?
だから、あのヤンキー女神に俺を女にしろと頼んだ理由は、俺と『普通の恋愛』をしたいが為。それが『青山圭を女の子にしちまえ計画』の全貌なの? といった具合で。
うん、長々と解説するまでもないよな。石田を見てればわかるよね?
コイツ、絶対に俺のコト好きだよ。恋愛的な意味でさ!
そう。これは、こいつが女好き宣言をしたからこその不安だ。
なにせ、今の俺は正真正銘の『女の子』なんだ。
少なくとも、この見てくれは女の子そのもの。
この体の全てが、たぶん、本物の女の子だ、まだ確認してないけどさ……。うぅ、確認したくねえ。
まあ、体の確認云々はともかく、今後の憂いを掃う意味でも石田には恋愛的なことの確認はキッチリしておく必要がある。
すげえ聞きたくないことだし、なんか俺が既に簡単には男に戻れないことを前提で考えている気がするのが自分でも腹立たしいが、そんなことを吹き飛ばす勢いの疑念。
それを石田に聞いておかなくちゃならない。
クドイようだけど、ホントは凄え聞きたくないんだからね?
「お前ってさ、女になった俺のことをさ?」
「うん?」
「その……恋愛対象として見てる、よな?」
「え……」
「いや、だからさ。俺のコト」
「……うん」
「好き、なんだろ?」
「……………」
「……石田?」
石田が俯くとプルプルと肩を震わせだした。
え、なに? もしかしなくても図星?
うわ、やっぱマジなの?
本気で俺のこと好きだったの?
それって俺が男だった時から? 今まで隠してたの?
あのそっけない態度って、じつは照れ隠しみたいなもんだったの?
えええええ!
スマン! 俺はお前の気持ちには答えられないっス!
ちょっとした雑談をしながら気持ちをひた隠しにして、非現実で起こり得そうもないけど、俺を女にするチャンスを本気で伺ってたの?
女に興味があるってことは……女の俺のこの体をどうこうしたい……ってコトだよな?
こわいいいいいいいいいいい!
コイツ、草食系じゃなくてスーパー肉食系だったよ!
ここにきて俺は、ようやく異世界の真の恐怖を味わうことになった……ホント助けて。
あ、考えてみたら異世界関係ないわ、これ。
ただの石田個人への恐怖だよ。なんだなんだ、勘違いしてた。
……あれ? おい、じゃあ余計タチ悪いじゃねえか!
俺、女顔の鬼畜勇者に襲われたりしない……よね? ね?




