2 女神……?
お食事中の方に配慮して、一部単語に伏字を使用しております。ご了承ください。
石田に案内されてたどり着いたのは、屋上へと続く扉がある階段の踊り場。
もっともこの高校で過ごして二年目を数えるが、その扉は普段は施錠されていて屋上に行ったことは未だにない。
「ここだよ、青山君。この扉の向こう側」
「向こう側って……屋上には出られないよな?」
「へーきへーき、僕に付いてきてね? あ、怖いなら、手を繋いであげよっか!」
「怖くはないし、男と手なんか繋ぐ趣味もねえぞ」
「チッ……そういや青山君には彼女がいるんだっけ。さぞ、女の子といろんなトコを繋げまくってるんだろうな。なんてフケツな男なの」
「聞こえてるからな? てか、絶対さっきから聞かせるように言ってんだろ!」
「青山君がなんの話をしてるのか、残念だけど僕には解読不能だよ」
「……もういい。早く用事とやらを済ませてくれ」
石田は相手をすると、こんなにも疲れる奴だったのか、知らなかったわ。そしてコイツに付いてきたことを、早くも後悔しはじめた。
ああ、神様。俺を助けてくれ。
△▼△▼
「オウ、コラ、遅ーんだよ、舎弟の分際で。コッチも忙しーのわかってんのか? 待たせんじゃねーよ、ナメてんだろ? テメー」
緩いウェーブがかかった足首まである真っ白な長い髪。大きな金色の瞳。白いドレス。
そこには深窓のご令嬢のような儚気で可憐な美少女がいた。ただし、日本人には見えない。
……てか、何人だ、この子? 凄い美少女なのはまぎれもないが、地球には絶対に居そうもないどこか人形じみている、あどけないその顔立ち。
年齢は定かではないが、その体つきを見るに俺よりは確実に年下だろう。ヘタしたら中学生にもなってないんじゃないか?
まあ、外国人? の女の子の年齢なんか、見た目じゃよくわかんないけどさ。
それはともかく、この女の子。顔も声も可愛いが、とんでもなく口が悪い。おまけにちょっと巻き舌口調だ。あげく、床から一メートルくらいの高さでプカプカと浮かんでいる。
なんだよ、これ。何者なんだよ、この子。
そもそも、どこだ、ここ? どこをどう見ても屋上じゃないよな。
石田が屋上の入り口のドアをあっさりと開けたので、俺もそのあとに続いた。だが、屋上へ来たはずの俺たちがいるのは、靄がかった広いような狭いような妙な場所。照明があるのかないのか、明るいような、けれど暗いような、なんとも形容できない不思議な空間だ。
おーい、石田、ここがどこだか説明してくれ。そこの可愛いけど、凄え口が悪い女の子は誰なんだよ。
あと、この子がどうやって浮かんでいるのかも、説明してくれると助かる。
「ごめんなさい、神様。青山君がここへ来ることを渋って、凄い時間が掛かっちゃいました。僕のせいじゃありません。悪いのは彼です」
「俺がなにを渋ったんだよ、大人しく付いてきたじゃねえか!」
「大丈夫、青山君。僕はキミが彼女と爛れた関係を持っていても気にしない広い心を持ってるから、根に持って君を神様に売ったりしないよ?」
「爛れたってなんだよ! お前の話が一ミリも理解できねえんだけど!? ……いや、待て。今お前、神様って言ったか?」
この女の子が神様だって?
そんなまさか……映画かなんかじゃあるまいし。
けど、映画じゃないならワイヤーもないのに、なんで浮かんでられるんだよ、この子。
マジかよ? いやいや、やっぱウソだよな? 目の前の美少女をまじまじと見てしまう。うーん、確かに説明がつかなそうな存在ではあるけどさ……。
すると俺にガン見された少女は小首をかしげるポーズをとったあとに、三白眼になってこう言った。
「テメ、コラ、ナニ見てんだよ、ガキ。なあ、オイ? ガンたれてんのか? ゼニ取んぞ、オマエ」
「おい! カツアゲする気かよ!」
なんだ、このガキ! なんてセリフを言いやがるんだ。
カツアゲ宣言をした少女は宙から舞い降りると、顔を斜めにして俺を威圧するように睨みつける。そして大股を開いて床にしゃがみ込み膝に腕を置く――俗にいう「ウ〇コ座り」――大昔のヤンキーがやっていたような姿勢で、下から俺に鋭い視線を浴びせまくってきた。
その美少女の見た目効果を削除してしまうと、発想も言動も漫画に出てきそうな、ただのドヤンキーとしか思えない……。
元号も変わって間もないこの世の中において、昭和? 昭和なのか、この空間は。
「あは! ヤだなー、お賽銭だよぉ。お・さ・い・せ・ん☆彡 神様には付き物でしょ! テヘ?」
「賽銭の話になった途端、可愛くなんじゃねえよ!」
なんなんだ、コイツ!? ウン〇座りのまんま可愛くなりやがった。
「ウッセー小僧だな。キャンキャン喚くんじゃねーよ。小型犬か? オメー」
「あんたがワケわかんないから、ツッコんじまっただけだよ!」
「テメ、ちっと来い、オラ。なにタメ口聞-てんだよ、なあ?」
「来いとか言いながら、あんた、もう既に俺んとこ来てんじゃねえか! しかもなんで俺、あんたに胸倉掴まれてんの!?」
「二人とも止めてください! 僕のために争わないで!」
「石田のために争ってるわけじゃねえし、見ろこれ。一方的に胸倉掴まれてるだけなんだけど? 俺!」
「神様、ここは一旦落ち着いてください、ね?」
「……チッ、まあ、いーわ。んで、マジでコイツでいーの? オマエは」
見た目は儚い美少女だが中身はヤンキーが、石田に目をやり顎で俺を指す。それと舌打ちまでしやがったよ。言動も滅茶苦茶だし、とんでもなく失礼なヤツだな。
ゲッ! コイツ、床にツバ吐きやがった、あり得ねえっ! いくら美少女とはいえ、マジモンの神でもパチモンの神でも、超かかわりたくねえぞ!
胸倉掴まれた以外は、まだ二言、三言の会話しかしていないこの少女。ツバ云々以前に、コイツにかかわりたくないのはこういう理由だ。
人はそれぞれ、醸し出す雰囲気というかオーラってあるじゃん?
例えば、真面目な奴はマジメっぽい雰囲気とか、遊んでる奴はそれっぽいチャラチャラした雰囲気とかさ。なんとなくその雰囲気で、そいつがどんな奴なのかって見当はついたりする。まあ、そいつが本性を隠しているとしたら、わからないこともあるけどさ。
で、だ。このパッと見、深窓の令嬢然とした女の子が放つ雰囲気と言えば。
なぜか彼女と対話をしていると、ヤサぐれた少女の相手をしているというよりは、ヤバいヤンキー少年そのものに対峙している気分になってくる。しかもその本性を隠しもせず、むしろ見せつけているようにさえ思えてしまう。
人柄すら知らない女の子のハズなのに、彼女が発する異様なオーラが、まるでチンピラ少年のそれだ。こんなにも美少女なのに。
見た目と話す言葉のギャップが尋常じゃないのもそうなんだが、ただ口が悪いだけの女の子じゃ済まされないなにかが、この子にはある。
咄嗟についついツッコんじまったが、本当なら絶対に目を合わせたり、かかわったりしちゃダメなタイプに思えるのは俺の気のせいなんだろうか。
「はい! 青山君じゃないと絶対にダメなんです」
「ふーん? ま、あたしは、なんでも良ーんだけどな。依頼さえキッチリしてくれんならよ」
「ええ、それは絶対に成し遂げますから任せてください!」
「おおい、ちょい待て待て待て! なに勝手に話を進めてんだよ。俺にもわかるように解説してくれ」
「たりーわ。頭ワリーガキだな。無ー知恵絞って、テメーで考えりゃいーべ」
「あんたにはハナから期待してねえから。石田、どういうことだ?」
ドヤンキー美少女こと神様からの説明を諦めて、石田に話を聞くことにした。このままだと埒があかない。早いとこ用事とやらを済ませなきゃ、バイトに遅れちまうよ。
「簡単に話すとね」
「ああ」
「前に青山君に、異世界転移物のラノベを貸したじゃない?」
「あー、あれな」
「そう。つまり、それだよ」
「どれだよ!?」
簡潔すぎて、全然わかんねえよ!
10/1 文章の一部を変更しました。
変更前: 元号も間もなく変わるはずの、この世の中において、昭和? 昭和なのか、この空間は。
変更後: 元号も変わって間もないこの世の中において、昭和? 昭和なのか、この空間は。
元号変更年を思いっきり勘違いしていました。たいした設定ではありませんが、このお話は2019年の物語です。