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10 吸水速乾のハンカチーフ

 なんにせよ、石田の様子がちょっとおかしい。


「なんだよ、その汗。どっか痛かったり苦しいのか?」


「ううん。えっと、その……初めて力を使ったから緊張しちゃっただけだよ?」


「これが初めてなのか」


「うん、ケイちゃんが気絶してる間にマニュアルは軽く読んだんだけどね」


「マニュアルがあんのかよ! けど、ホントに大丈夫なんだろうな? かなり息荒いし、汗の量がちょっと引くレベルだぞ」



 パワーを他人に送るのは結構疲れるのかもしれないな……。



「僕のこと、心配してくれるの?」


「いや、お前、そんだけ息荒くしてヤバ気な汗かいてりゃ心配になるだろ」


「……ありがとね」


「ありがとうとか言うトコじゃねえから、ここ」



 石田は制服の上着から水色のハンカチを取り出すと自分の顔を拭き始めた。頼りない手つきで額を拭うが全然吹ききれてない。不器用っていうよりも、手がおぼつかないって感じだ。

 ったく、なにやってんだよ、もう……。



「ほら貸せよ、そのハンカチ。全然拭けてねえじゃんか」


「あ、でも……」


「いいから、貸せ」


「……うん」



 俺にされるがままに汗を拭かれて石田は目を閉じる。



「凄く気持ち良いよ、ケイちゃん」


「えー? 汗拭いてるだけじゃん。気持ち良くなる理由がわかんねえよ」



 汗拭きにリラクゼーション効果なんかあったっけ? そんなことを考えながらハンカチで額や首筋を拭いていたら、怖いくらいに急に汗が引っ込んだ。おい、お前の汗、どこいったの?



「あ、引っ込んじゃった」


「お前の汗腺どうなってんだよ!?」


「残念。このまま永遠に拭いててほしかったのに」


「俺はお前の汗を拭くために生まれてきたんじゃねえんですけど!」



 冗談を言っている石田の目は、ちょっとだけ虚ろだ。初めて力を使ったからとか言っているけど、どう見ても石田の強がりとしか思えない。ただ、あんまり問い詰めて意固地になられても面倒だ。この話題は仕舞いにしておこう。


 けど、そのパワーとやらを送られたせいか、こっちはめちゃめちゃ力が漲っている。今ならダッシュで一キロメートルを走ったって、息切れもしなさそうなくらいだ。着てるのがドレスだから走るのは無理だけどさ。


 そうだ、そんなことより石田と密着してるわけにもいかない。女顔とはいえコイツは男。男同士で顔を密着させるとかないわー。


 だいたい、なんで石田が女になんないで俺が女になってんだよ? どう考えたって逆だろ? これ。

 石田にそのことを聞こうと思ったら、ヤツは難しい顔をして黙り込んでいた。


 なんだ? じつは具合が悪いのを隠してたのか?



「お前、結構キツイんじゃねえの? 急に黙ったりしてさ」


「ケイちゃん、はい、どうぞ」



 石田が俺に向かって、両手を広げてきた。そしてまた顔が赤い。



「なにしてんの? お前」


「ケイちゃんのリクエストに答えて、もっかいギュっとしたほうがいいのかなって思ってたの。はい、どうぞ」


「どうぞ、ってなんだよ! 俺がなにをお前にリクエストしてたんだよ? てか、お前の中では俺のほうがギュってされたがってるふうになってるのが腹立たしいんだけど!」


 心配してたのにワケのわかんないことを考えていやがったよ! なんだよ、もっかいギュっとって。

 なんで、お前とずっと密着してなきゃなんねえんだよ。ないから、そんなの。うん、ないから。



「ホントにしないの?」



 目がウルウルしている石田。見た目だけは乙女だ、コイツ。


 うんうん……ギュっととかないから。……うん。





評価やブクマを誠にありがとうございます。

皆様のご期待に添えられるかわかりませんが、だいたいこんな感じの二人のお話です。

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